今回は「私的独占」についてみていこうと思う!
私的独占ですか?あまりなじみがないですね。。
そうだなー。私的独占はゆうなれば、次回以降にやっていく「不公正な取引方法」の進化形だ。
カルテル(不当な取引制限)に次ぐ悪性の高い違反行為ととらえておけば大丈夫だぞ。
私的独占を説明していきます。「私的独占」という言葉になじみがないかもしれませんが、私的独占は不当な取引制限に次ぐ悪い行為です。
簡単なイメージとしては、次回以降詳しく解説していく「不公正な取引方法」の類型の悪いバージョンです。
とりあえず、要件自体の理解や覚えること自体は少ないので、私的独占の概観をつかむという意味でしっかりみていきましょう。
私的独占のポイント
私的独占はなかなか捉えにくいという特徴があります。どうしても「不公正な取引方法」を学習した後ではないと問題が解けないからです。
ではなぜ「はじめての経済法」シリーズでは私的独占から先にやるのか?
それはこれまで学習してきた「不当な取引制限」や「企業結合規制」とのつながりが私的独占は強いからです。
覚えたことにつながることははやめに学習した方がいい
という鉄は熱いうちにうてパターンとして、今回は私的独占を先に単元としてみました。
というわけで私的独占の問題を正確に解けるようになるのは、次回以降の「不公正な取引方法」を学習し終わってからになると思いますが、これまで学習した「不当な取引制限」や「企業結合規制」とのつながりを理解し、経済法の体系をつくってもらうという意味で私的独占を今回は学習していきましょう。
要件自体は超簡単です。暗記することが極端に少ないのも私的独占の特徴になります。
①私的独占とは何かを理解する。
②「排除」の要件を理解する。
③「支配」の要件を理解する。
④「一定の取引分野の競争を実質的に制限」を理解する。
それでは見ていきましょう。
私的独占とは?
私的独占は不公正な取引方法のレベルアップバージョン
私的独占は何度もいうように「不公正な取引方法」のレベルアップバージョンです。「不公正な取引方法」の類型では、公正競争阻害性が必要なのですが、それに収まりきらないケース、つまり、公正競争阻害性を超えて「競争の実質的制限」まである場合には私的独占の検討をすることになります。
私的独占は独占禁止法2条5項
ではまず条文を確認してみましょう。独占禁止法2条5項になります。
第二条
⑤ この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
簡単に要件をまとめると
①事業者
②排除or支配
④公共の利益に反して
③一定の取引分野における競争を実質的に制限
(③④は条文の順番と逆にしてあります)
です。気になるのは、「単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず」の部分だと思いますが、これは「排除」や「支配」をしていればなんでもあり。すべて私的独占にあたるということを規定していると考えられるので大した要件ではありません。
私的独占ってなんとなくて単独でやるイメージがあったけど、複数でも私的独占ってあるんだなー。という簡単な理解で大丈夫でしょう。
それでは各要件についてみていきましょう。
要件①:事業者
事業者の定義は「不当な取引制限」でやりましたね。覚えていますでしょうか。
とりあえず定義規定である独占禁止法2条1項を確認します。
第二条 この法律において「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項又は第三章の規定の適用については、これを事業者とみなす。
その次に判例の定義を確認します。
なんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動を指し、(その主体の法的性格は問うところではない)。
これで「事業者」の定義を大体思い出したのではないでしょうか。
特に判例の定義はしっかり覚えるようにしましょう。
①経済的利益の供給
②反対給付を反復継続してい受ける
という2つの要素を「暗記」する必要があります!
要件②排除or支配
さていよいよ「私的独占」ならでは要件の登場です。
私的独占は排除または支配をしている必要があります。では「排除」や「支配」とはどのようなことを言うのか詳しく見ていきます!
排除は人為性+事業活動や新規参入の困難性
まず排除についてです。ちなみに排除によって私的独占を行う形態のことを「排除型私的独占」といったりします。
排除とは、
他の事業者が事業活動を継続することを困難にさせたり、新規参入を困難にさせたりすること
を意味します。
とはいえ、事業活動を行うにあたって、他の事業者の事業活動が困難になったり新規参入が難しくなることはよくあるでしょう。いちいち事業者は他の事業者のことを気にしてられません。
他の事業者のことを構っていられるほど、市場競争の世界は甘くないのです。
ここで、私的独占はただ単に事業活動継続の困難や新規参入の困難を規制しているわけではないという想像が働きます。
そこで判例・学説では、
「排除」とは
㋐人為的な反競争的行為によって
㋑ 他の事業者が事業活動を継続することを困難にさせたり、新規参入を困難にさせたりすること
㋐の「人為性」を排除に要求したということですね。
人為性とは?
では人為的な手段とは何を指すのか?気になりますよね。
先ほどの議論に戻ると、正常な競争手段の範囲内であれば、私的独占は許されました。他の事業活動や新規参入者のことなど構ってられないからです。
逆に違法となるのは、「人為的な手段」で他の事業活動や新規参入者を困難にさせること
すなわち、違法な手段を用いて、他の事業活動や新規参入を困難にさせること
という想像ができると思います。
そして、競争法上違法な手段ということで登場するのが
不公正な取引方法
になるというわけです。ここで、私的独占では不公正な取引方法の理解が必要になるというはじめの方の話の伏線回収ということになります。
ガイドラインでも、排除行為の典型例として
廉価販売・排他的取引・抱き合わせ・取引拒絶・差別的取扱い
が例示されています。
「不公正な取引方法」については次回以降から詳しく学習していくので楽しみにしておいてください!
「支配」とは自己の意思に従わせること
続いて支配型私的独占についてです。
「支配」についても定義が存在します。
「支配」とは、他の事業者の事業活動における自由な意思決定を制約又は拘束することによって、その事業活動を自己の意思に従わせることを意味する(野田醤油事件参照)
より具体的な典型例を挙げるとすると
①複数の取引先事業者の支配を通じて、取引先事業者相互の競争を回避させたり、自己の競争者の事業活動を支配して、当該競争者に競争回避的行動をとらせる場合(パラマウントベッド事件)
や
②他の事業者の支配を通じて、競争者排除が行われる=販売業者に対する排他条件付き取引などの拘束を通じて自己の競争者を排除する場合など(日本医療食協会事件)
などがあります。これも結局は、独占禁止法上違法な行為を支配を通じてさせるということを意味しているので「不公正な取引方法」の理解が大事になってくるわけです。
要件③:一定の取引分野の競争の実質的制限
これは企業結合とほぼ同じです!不当な取引制限の場合は、ハードコアカルテルの場合、実行されている範囲=一定の取引分野が競争の実質的制限も簡単に認定できていましたが、企業結合規制の場合にはしっかり状況に応じて検討する必要がありました。
この後者のパータン、すなわち企業結合規制の考え方がそのまま活きることになります。
復習として企業結合規制で書いたことを繰り返し期し㋐していこうと思います。
一定の取引分野
商品市場・地理的市場について需要の代替性から判断する
一定の取引分野は「商品市場」及び「地理的市場」からなります。つまり一定の取引分野=市場のことであり、商品と地理という2つの側面があるというわけです。
「関西」の「カール(お菓子)」
「日本」の「シャーペン」
「アメリカ」の「ハンバーガー」
「ヨーロッパ」の「時計」
「全世界」の「紙」
など地理と商品によって、市場は画定されるというわけです。
そして商品市場と地理的市場の両方で、主として需要の代替性・必要に応じて供給の代替性によって市場の画定をしていくことになります。
商品市場の画定
まずは需要の代替性とはどういうことか確認していきます。
需要者の視点に立って考え、もし仮に当該商品の価格が高くなった場合に別の商品に振り返るかを考えるわけです。
たとえば、
消せるボールペン(フリクション)を想定してください。消せるボールペンの価格がめっちゃ上がりました。その場合、需要者(消費者)としては「消せるボールペン気に入ってたけど、高くなるんだったら普通のボールペンにしよ」となりませんか?
その場合は市場はこの段階で確定せず、一段階大きい「ボールペン」の市場を検討することになります。
ではボールペンの商品市場を考えましょう。ボールペンの価格が高くなった場合、「ボールペン使いたかったけど、高いんだったら別の筆記用具に切り替えよう」と考えますか?
その場合は商品市場は「筆記用具」まで広がることになります。
しかし、ボールペンの値段が上がったとしても「いや、普通の人たちはボールペンの値段が上がっても他の商品には切り替えないだろう。ボールペンにはそれなりのよさがある!」と考えるのであれば、商品市場は「ボールペン」で画定するわけです。
すなわち、需要者の認識や行動を考慮して商品市場を決定するわけです。
しかし、需要の代替性だけではなかなかうまく市場を画定できない場合があります。そのときに登場するのが「供給の代替性」です。
供給の代替性は需要の代替性とは少し異なります。需要の代替性は「市場」から「別の市場」に移ることを想定しましたが、供給の代替性は逆です。「別の市場」の供給者が「市場」に入っている・参入してくる場合を考えるということです。
有力な市場(需要が高い市場)があった場合、供給者がどう入ってくるかを検討します。もし仮に入ってきやすいのであれば市場は広がっていくことになります。
具体例を見てみましょう。
シャーペンを作っていた事業者とボールペンを作っていた事業者があったとします。シャーペンを作っていた事業者がボールペンの市場に入りやすい(例えば作成する機械が一緒)といった事情があれば市場は広がることになります。供給が乗り換え用と思えば乗り換えることが可能だからです。
とはいえ商品市場においては基本的に「需要の代替性」のみを検討すれば大丈夫でしょう。供給の代替性を検討した方がよいのは地理的市場画定の場面がほとんどです。
地理的市場の画定
地理的市場も、商品市場と同様に需要の代替性・必要に応じて供給の代替性を検討します。
日本のボールペンを考えてみましょうか。アメリカのボールペンと日本のボールペンが売られていました。日本のボールペンの値段が上がったとします。その場合、あなたはどっちのボールペンを購入しますか?
普通はアメリカのボールペンを買うだろ!という場合にはボールペンの地理的市場は「全世界」へと移っていくことになります。
しかし「いや、ボールペンはさすがに日本製しか使わん」という場合には、ボールペンの地理的市場は「日本」ということになります。
また地理的市場では供給の代替性も検討するとわかりやすいです。
ボールペン市場において、日本以外のアメリカなどの他の国が入ってきやすい(輸入が多い)場合には、地理的市場は「全世界」のボールペンとなります。
一方、日本では海外のボールペンはほぼ販売されておらず、輸入が少ないといった事情があれば、地理的市場は「日本」のボールペンとなるでしょう。
このように商品市場・地理的市場の画定は需要の代替性、必要に応じて供給の代替性から検討するという意味がわかってもらえたのではないでしょうか。
競争の実質的制限
競争の実質的制限は、不当な取引制限で学習した箇所とほぼ考え方は同じです。まずは暗記の論パを吐き出しましょう。
「競争を実質的に制限する」とは「競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすこと」をいい、市場支配力の形成・維持・強化を意味する
これは必ず暗記してください。
ガイドラインでは、競争の実質的制限の判断にあたって
①行為者の地位及び競争者の状況
②潜在的競争圧力
③需要者の対抗的な交渉力
④効率性
⑤消費者利益の確保に関する特段の事情
などがあげられています。とはいえあくまで考慮要素として挙がっているだけなので、判断自体は総合考慮になるわけです。
経済法ではあてはめが大事といわれるのは、このような「総合考慮」が多いからですね。
要件④:公益の利益に反して
これは「不当な取引制限」でやった箇所と同様です。独占禁止法1条の目的規定との関係で、例外的に公共の利益に反する場合があるというわけです。
独占禁止法1条によれば、
「公正かつ自由な競争云々」→「消費者の利益確保・国民経済の民主的で健全な発達」
という目的の流れをとります。
逆に言えば、究極的には「消費者利益・国民経済の民主的健全な発達」を目的にしているので、この目的のためであれば許されるというわけです。
そのため、公共の利益に反しない=独占禁止法1条の究極目的に反しないということを意味しているわけですね。
また私的独占の場合には、排除型で確認した通り、正常な競争手段としての範囲を逸脱した「人為性」が要求されていました。そのため、もし仮に公共の利益に反しない場合であれば、この「人為性」の要件を満たさないことも考えられます。
そのため、私的独占でも不当な取引制限と同様、ほとんど機能しないと考えておいてよいでしょう。
まとめ(論証)
以上、私的独占を見てきました。いかがだったでしょうか。
論証として覚えておくべきは、「排除」「支配」の定義と毎度おなじみ「競争の実質的制限」の定義です。復習してみましょう。
①「排除」とは、 ㋐人為的な反競争的行為によって㋑ 他の事業者が事業活動を継続することを困難にさせたり、新規参入を困難にさせたりすること
②「支配」とは、 「支配」とは、他の事業者の事業活動における自由な意思決定を制約又は拘束することによって、その事業活動を自己の意思に従わせること
③ 「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことをいい、市場支配力の形成・維持・強化を意味する
しっかり覚えていきましょうね!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
経済法を本格的に学習する人の中で入門的に使ってほしい参考書を上げてみます。というか論証の暗記として使えるものを用意してみました。
とりあえず経済法のスタートは「要件の暗記」です。そのため、要件自体のガイドラインや判例通説をもとに逐条的に解説してある『条文から学ぶ独占禁止法(第2版)』をお勧めします。
ただし課徴金等の箇所は改正に対応していませんので、別途サイトの方から補遺をダウンロードすることをお勧めします。とはいえ、要件の部分は変更がありませんので試験対策としてはほぼ問題はないでしょう。