抵当権って不動産に対して生じる権利って学習しました。けど、不動産についている物についてはどうなるんですか?
いい質問だね!それは「抵当権の及ぶ範囲」という1つの論点だよ。
非常に重要な論点だから詳しく見ていこうか。
抵当権は不動産について発生するものでした。
では、
抵当不動産の中の物(エアコンや庭など)については抵当権は及ぶのでしょうか?
これが抵当権の1つの論点、「抵当権の及ぶ範囲」という論点です。学説ではいろいろな対立がありますが、「はじめての物権法」シリーズでは、判例・通説のみに絞って解説していきます。
判例・通説だけみれば、この論点は非常にわかりやすいです。
抵当権の効力の及ぶ範囲のポイント
抵当権の効力及ぶ範囲について、最初に押さえるべきは条文の理解です。条文をみればわかるとおり、抵当権の及ぶ範囲は付加一体物となります。
その次に、付加一体物と似た概念である、「付合物」と「従物」について確認しましょう。特に従物は初学者が一番混乱する箇所ですので丁寧に解説します。
最後に果実について確認しましょう。果実については条文がありますので、条文に沿った理解が大事になってきます。
①抵当権の効力の及ぶ範囲の条文を理解する。
②付加一体物と付合物、従物の違いについて理解する。
③果実の条文(民法371条)について理解する。
それではみていきましょう!
抵当権の効力の及ぶ範囲は付加一体物(民法370条)
条文は民法370条
抵当権は不動産について設定されるものですが、不動産に付属する物であったり、権利であったりと意外と抵当権がどの範囲に及んでいるのか、わかりにくいものです。
そこで、民法370条は抵当権の効力の及ぶ範囲を規定しています。
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
第三百七十条 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。
民法370条より、
抵当不動産+付加して一体となっている物
にも抵当権の効力は及ぶというわけです。
ここでの
付加して一体となっている物を略して「付加一体物」といいます。
なんだ!抵当権の効力の及ぶ範囲は付加一体物ということですね。これでこの論点は終わりじゃないですか!!簡単じゃん!
おいおい、付加一体物と言われて、どういう物が付加一体物かわかるかい?
エアコンは?畳は?灯籠は?賃借権は?これらは付加一体物なのだろうか…。
うぅ、たしかに、付加一体物とだけ言われてもよくわかりませんね…。
そうだろ。だからこそ、付加一体物とは何か?という理解が大事になってくるんだ。
たしかに条文は付加一体物に抵当権の効力が及ぶと書かれていますが、付加一体物とだけ聞いても、何が付加一体物なのかよくわかりません。
そこで、付加一体物の理解が大事になってくるのです。
付加一体物=物理的一体性・経済的一体性
結論から言います!
付加一体物とは物理的一体性または経済的一体性がある物のことです。
そのため、必ずしも接着して一体となっている必要はないというわけです。
たとえば、土地(庭)に付属する石灯籠については、簡単に切り離すことができるため、「物理的一体」とはいえませんが、庭の見栄えをよくする(価値を上げる)ものとして「経済的一体」といえます。
そのため、付加一体物といえるのです。
このように、単純に見た目だけで判断することなく、価値を上げるもの(ともにあることが望ましいもの)であれば付加一体物ということになります。
民法370条は、物がいつ抵当不動産に付け加えられたかについて限定していません。
すなわち、抵当権が設定された後であっても、それが物理的一体性または経済的一体性をもつものである限り、抵当権の効力が及ぶことになります。
抵当権は、抵当権者と抵当権設定者との間で被担保債権回収を保障するために設定されるものでした。そのため、抵当権設定後の付加一体物についても、被担保債権が回収しやすくするものであるならば、抵当権の効力が及ぶのが望ましいとの判断があるといえるでしょう。
付加一体物と付合物・従物との関係
付加一体物との関係でややこしいのが、似た概念として付合物と従物があるという点です。それぞれ分けてみていきましょう。
付加一体物(民法370条)と付合物(民法242条)
付合物は簡単にいえば、不動産と物理的にくっついているものをいいます。
(不動産の付合)
第二百四十二条 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
たとえば、
土地に付属する建物や、定着物(木や庭石)、建物増築部分などがわかりやすいでしょう。
くっついていれば、切り離しが容易でない限り付合物となります。
そして、付合物は物理的一体をもつ物=付加一体物にあたります。まぁ付加一体物という文字からも当たり前ですね。
付加一体物(民法370条)と従物(民法87条1項)
従物とは、簡単に切り離せるが、主物である不動産の価値を上昇させるものをいいます。
(主物及び従物)
第八十七条 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
2 従物は、主物の処分に従う。
たとえば、家(不動産)におけるエアコンです。
エアコンは家から簡単に取り外せるため、付合物ではありません。
しかしながら、家の環境をよくし、家の価値を上昇させるものなので従物です。
また、別の例であれば畳です。
畳は家の床から簡単に取り外せるため、付合物ではありません。
しかしながら、家の床や環境をよくするため、家の価値を上昇させます。そのため、従物です。
以上のような従物は付加一体物に含まれます。
繰り返しですが、付加一体物は経済的一体性も見るのでした。そのため、経済的一体性を基礎づける従物は当然付加一体物に含まれるということです。
また、前述のように、抵当権設定前に設置された物も、抵当権設定後に設置された物も付加一体物でした。
そのため、抵当権設定前の従物はもちろんのこと、抵当権設定後の従物も付加一体物に含まれます(この点は学説上議論のあるところですが、判例・通説の理解だけで十分です)。
抵当不動産における果実(民法371条)
では、抵当不動産を賃貸借する際に生じる賃料など、抵当不動産から生じる果実については抵当権の効力は及ぶのでしょうか?
この問題を解決する条文が民法371条です。
第三百七十一条 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
注意してほしいのは、
果実の場合には、被担保債権が債務不履行になっていなければならない
ということです。
先ほども見た通り、基本的に物の場合には時期の制限はなく、物理的一体性・経済的一体性のどちらかが認められれば、付加一体物として抵当権の効力が及びました。
しかしながら、果実の場合には、被担保債権が債務不履行にならなければ抵当権の効力が及ばないというわけです。
これは抵当権の仕組みを思い出すと理解しやすいでしょう。
抵当権は不動産の交換価値しか把握しません(利用価値は把握していません)。
抵当権が設定された後も抵当権設定者は引き続き不動産を利用することができました。そしてそこから収益を得ることも認められてます。
したがって、抵当権者が果実を奪うことは抵当権設定者の収益権を奪うことになり、抵当権の仕組みに反するわけです。
しかしながら、被担保債権が不履行になった場合には、抵当権設定者からの弁済が期待できず、抵当権者はいよいよ債務回収に乗り出す必要があります(もはや抵当権設定者からの債権回収が期待できないからです)。
そのため、債務不履行になったら、抵当権の効力は果実(本来、抵当権設定者の収益できるもの)にも及ぶわけです。
たとえば、抵当権設定者が抵当不動産を第三者に賃貸した場合を考えてみましょう。
債務不履行前までは抵当権者は、その賃料について何も主張できませんが、
債務不履行後は、抵当権者は、その賃料について物上代位等を主張することができるようになります(抵当権の効力が及ぶためです)。
このように、果実の場合には、民法371条もあるので注意しましょう!
まとめ
以上、抵当権の効力の及ぶ範囲についてみてきました。いかがだったでしょうか?
実は抵当権の効力を及ぶ範囲のポイントは2つだけです。
①抵当権の効力の及ぶ範囲=付加一体物(民法370条)=物理的一体性・経済的一体性をもつ物
②果実については債務不履行である必要がある(民法371条)
付合物や従物といった似た用語がありますが、結局は、付加一体物として覚えてしまえば済む話なので、簡単ですね!
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
担保物権についてわかりやすい解説は、はじめての法でおなじみストゥディアシリーズです。
これを超える担保物権の基本書はないと思います。三色刷り+事例問題が豊富なので、楽しく担保物権を学習できるはずです。
初学者の方はまずはこの本から読んでみてください!