表見代理が複雑すぎて難しいです。
たしかに,表見代理は複雑怪奇だな。でも,考え方は単純だぞ!見ていこう。
代理編の第3回目。ついに表見代理です。表見代理は,民法総則の中で最も難しい部分だと思います。今回はいかにわかりやすく,そして体系的に理解してもらえるかに重点を置いて説明していこうと思います。
表見代理のポイント
表見代理は,いままでの代理の知識の集大成です。もし,有権代理や無権代理に不安がある方はこちらの方からご覧ください。
表見代理が成立すると,無権代理にはならず有権代理と同じように本人に対して請求していくことができるようになります。ここで注意なのは,相手方は無権代理人に対して無権代理責任(117条1項)を追及することもできるし,本人に対して表見代理を主張していくこともできるということです。選択可能ということですね。これは意外と見落とす箇所なので注意しましょう。
では,表見代理のポイントは以下の通りです。
②権限外の行為の表見代理を理解する。
③代理権消滅後の表見代理について理解する。
④重畳パターンについて押さえる。
代理権授与表示による表見代理(民法109条1項)
どういう場合か?
代理権授与表示による代理とはどのような場合かをまずは考えてみましょう。
これがいつもの図です。
そしてこれが代理権授与表示の代理の図です。
おわかりいただけただろうか
間違い探しみたいですね。代理権→代理権授与表示になっただけです。代理権授与表示とは代理権があるっぽい表示(実際は代理権を与えたわけではない)というものです。例えばメールで「代理権を与えるよ」という内容を送っていた場合も代理権授与表示になります。この場合に,実際は代理権が与えられていなければ,代理権ではなく代理権授与表示があったということになるわけです。たとえば,代理人が勝手にメールを偽造したような場合ですね。
要件を押さえよ!
次に要件を考えてみます。有権代理の要件は①法律行為②顕名③代理権でしたよね。それがこのように変わります。
条文を確認
最後に条文を確認してきましょう。
(代理権授与の表示による表見代理等)第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
注目は109条1項ただし書です。第三者=相手方が悪意または過失であれば代理は成立しないとされています。つまり代理権授与表示による表見代理が成立するのは,相手方は善意無過失のときだけというのですね。
これに加えて,民法109条1項ただし書をみて,相手方は善意無過失でなければならない。
権限外の行為の表見代理(民法110条)
どういう場合か?
権限外の行為の表見代理(民法110条)はよく出てきます。これも基本形と比べてみましょう。
下の図は,民法110条の表見代理です。
おわかりいただけただろうか
代理権→基本代理権となり,正当な理由(善意無過失)という文言が付け加わりました。ここで民法107条の代理権の濫用との違いに注意してください。代理権濫用はあくまでも代理権の範囲内で行われているのに対して,民法110条の場合は代理権を超えちゃってます。110条の方がやらかしているのです。
民法107条について,詳しくは以下の記事を参考にしてください!
要件を押さえよ!
つまり,権限外の行為の表見代理の要件は以下の通りになります。
基本代理権とは,権限外になる前のもの=本来守るべき代理権です。この代理権を超えることで権限外の代理行為を行ったといえます。
正当な理由が何を意味するかについては争いがありますが,ここでは判例どおり善意無過失を意味するものとします。
条文を確認
(権限外の行為の表見代理)第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
代理権消滅後の表見代理(民法112条1項)
どういう場合か?
最後も同じように間違い探しをしていきましょう(笑)。
代理権消滅後の表見代理とは下の図の通りです。
おわかりいただけただろうか
代理権の部分がもともとの代理権+消滅となっているのがわかりましたか?つまり,代理の要件を前提として代理権が消滅したことを言えればいいわけです。
たとえば,代理権を1年間と決めて与えていたけど,1年経過してから代理人が代理行為をしちゃった場合などがあてはまりますね。
要件を押さえよ!
要件は以下のとおりです。
条文の確認
(代理権消滅後の表見代理等)第百十二条 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
これに加えて,民法112条1項をみて,相手方は善意無過失でなければならない。
重畳適用
重畳適用はまず要件を押さえよ!
表見代理を厄介にさせているのが重畳適用です。109条2項や112条2項のことですね。これは要件を理解した方が早いと思うので要件から行きます。要件は簡単です!
民法110条を基本に考えていきます。なぜなら,民法110条は表見代理の親分だからです(と思っておいてください笑)。表見代理三兄弟をドラゴンボールに例えると,悟空,悟飯,悟天が表見代理であって,悟空が民法110条なわけです(笑)。
この図が理解できれば重畳適用も楽勝です。
民法110条は権限外の行為でしたが,その考えが109条2項,112条2項にも利用されます。109条2項は110条と109条1項が融合したと考えてください。すると,本来110条によれば基本代理権が主張されるところ,109条2項では代理権授与表示でよくなり,112条2項であれば消滅していてもよくなるのです。他の要素は110条と変わらないところがコツです。
条文は要件を押さえたうえで読め!
要件が理解できたら,条文を読んでみましょう。要件を押さえているので条文が読めるようになっているはずです!要件を意識しながら読んでみてください。
第百九条 2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
第百十二条 2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
繰り返しになりますが,どちらも権限外の行為であるので,民法110条を基準に考えるとわかりやすいわけです。
まとめ
どうだったでしょうか。表見代理は難解ですが,要件さえ押さえていけば条文が読めるようになり,問題の適用場面も理解しやすくなります。これらを踏まえて基本書や問題を解くと理解しやすいと思うのでお勧めです!
②権限外の行為の表見代理(民法110条)の主要な要件は㋐法律行為㋑顕名㋒基本代理権である。
③代理権消滅後の表見代理(民法112条1項)の主要な要件は㋐法律行為㋑顕名㋒もともと代理権があったこと②代理権消滅
④重畳適用タイプ(109条2項や112条2項)は権限外の行為の表見代理(110条)を基準に㋒基本代理権を109条2項であれば代理権授与表示に,112条2項であればもともと基本代理権があり,それが消滅したことに変えていけばよい。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。改正民法対応でわかりやすいのでおすすめです。