刑事実務基礎のよい本がありません!
その通り!!
刑事実務基礎は民事実務基礎の大島本とは違って、参考書が圧倒的に足りていないんだ!!
緊急事態だな。
法上さんが教えてください!
いいだろう!
刑事実務基礎のわかりやすさ第一の解説を目指すぞ!
刑事実務基礎は、予備試験やロースクールの科目であるにもかかわらず、よい参考書がありません!!残念ながらないのです!
民事実務基礎には良質な参考書として大島本があり、多くの受験生はこの大島本を使っています。しかし刑事実務基礎にはそのような本はありません!
刑事実務基礎は誰も教えてくれない!!という緊急事態です!
ちなみに大島本というのはコレです!
そこで、今回の「はじめての刑事実務基礎シリーズ」では「わかりやすさ」第一にしっかりと解説しようと思います!
予備試験受験生やロースクール生の助けなれば幸いです!
まずは、刑事実務基礎の最初のステップ「逮捕」について押さえていきましょう!刑事訴訟法自体の復習にもなります!
逮捕のポイント
刑事実務基礎の観点からみた逮捕はひたすら要件を押さえることから始まります。
刑事訴訟法では詳しく逮捕を扱うことは少ないです。しかしながら、刑事実務基礎では逮捕の要件をしっかり押さえる必要があります。
特に、通常逮捕・現行犯逮捕・準現行犯逮捕・緊急逮捕の要件の違いをしっかり暗記する必要がある(口述では必須)ので注意しましょう!
最後に、逮捕・勾留の時間制限についても軽く触れてみたいと思います。
①通常逮捕の要件を押さえる。
②現行犯逮捕の要件を押さえる。
③準現行犯逮捕の要件を押さえる。
④緊急逮捕の要件を押さえる。
⑤逮捕・勾留の時間制限を理解する。
それでは見ていきましょう。
通常逮捕(刑事訴訟法199条1項)の要件
通常逮捕の要件は刑事訴訟法199条1項
まずは条文をしっかり覚える必要があります。
というのも刑事訴訟法にはなぜか条文に見出しがありません。ポケット六法やデイリー六法には編集者が条文見出しを独自につけてくれていますが、正式な条文見出しはないので、予備試験や司法試験で貸与される六法の刑事訴訟法には条文に見出しがついていないことになります。
となると、
条文番号を知らなければ、条文を引けない!
という事態になってしまうのです。
そのため、しっかり番号を覚えていきましょう。
刑法199条(殺人罪)と同じ条文番号が刑事訴訟法では逮捕の条文である
という感じで他と関連付けて覚えるのもいいかもしれませんね。
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
② 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
③ 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
通常逮捕の要件は2つ
刑事訴訟法199条1項と刑所訴訟法199条2項をみてわかるのは、
逮捕には
①理由②必要
の2つの要件があるという点です。
①逮捕の理由とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足る相当な理由のことです。
②逮捕の必要とは、罪証隠滅・逃亡のおそれを意味するとされていますが、通常逮捕のときには「明らかな逮捕の必要がないとき」に例外的に逮捕できないという規定ぶりなので、基本的には満たされることになります。
刑事訴訟法では「必要」という要件がたびたび出てくるな。これは基本的には「公益の必要性VS被疑者の被侵害利益」という比較衡量を意味するんだ。
けど、逮捕の場合の「必要性」は「罪証隠滅・逃亡のおそれ」なんですか?
そうなんだよ!逮捕の場合は拘束という被侵害利益が著しく大きい行為だから、それがオッケーになる「公益の必要性」としては、「罪証隠滅・逃亡のおそれ」くらいしか考えられないということなんだろうね。
逮捕の場面で出てくる「必要」の要件は「罪証隠滅・逃亡のおそれ」を指すといわれています。通常、法律で出てくる必要性は「あることをする利益VS被侵害利益」ですが、逮捕の場合は拘束についての被侵害利益が大きいので、それが許されるくらいの行為というのは「罪証隠滅・逃亡のおそれ」がある場合に限られるということかもしれませんね。
〈通常逮捕の要件〉
①逮捕の理由
②逮捕の必要
現行犯逮捕(刑事訴訟法213条)の要件
現行犯逮捕の条文は刑事訴訟法213条・212条1項
現行犯逮捕については、刑事訴訟法213条・212条1項を見ることになります。通常逮捕の刑事訴訟法199条から離れているので注意しましょう。
第二百十二条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
しかしこれだけみても要件がよくわかりません。そこで現行犯逮捕の要件はしっかり暗記することをおすすめします!
現行犯逮捕の要件は3つ
通常逮捕の要件は2つ(①理由②必要)でしたが、現行犯逮捕の要件は3つです。
①現行性(時間的場所的近接性)
②犯罪と犯人の明白性
③必要性
①現行性は、この点のポイントは、「時間的場所的近接性」です。逮捕の時点が犯罪と近い場所・近い時間である必要があるというわけです。相場1時間以内ともいわれています。
②犯人・犯罪の明白性は、刑事訴訟法212条1項の「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」の箇所に対応する部分です。
基本的に「現認」を意味します。こいつが犯人だ!こいつが犯罪を行った!ということが明らかである必要があるので「現認(実際に犯行を見たこと)」が必要となるわけです。
とはいえ、「現認(実際に犯行を見たこと)」がなくてもその直後の状態」であれば犯罪と犯人の明白性は満たされるでしょう。
③必要性は、通常逮捕と同様です。罪証隠滅・逃亡のおそれがあることを意味します。とはいえ、基本的には満たされるでしょう。
〈現行犯逮捕の要件〉
①現行性(時間的場所的近接性)ex)1時間以内
②犯人・犯罪の明白性(現認など)
③逮捕の必要
準現行犯逮捕(刑事訴訟法213条・212条2項)の要件
準現行犯逮捕の条文は刑事訴訟法213条・212条2項
準現行犯逮捕の条文は刑事訴訟法213条・212条2項になります。2項によって現行犯と同様に扱うことが規定されているためです。しかし、現行犯逮捕とは別なので、しっかりと分けて要件を確認する必要があります。
第二百十二条
② 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
準現行犯逮捕の要件は3つ
準現行犯逮捕の要件は現行犯逮捕と同様に3つです。
①罪を行ってから間もないと明らかに認められること(時間的場所的近接性)
②刑事訴訟法212条2項各号充足性
③逮捕の必要
①罪を行ってから間もないと明らかに認められることというのは、犯罪と逮捕の時間的場所的近接性を指すといわれています。現行犯逮捕場合には大体1時間以内かどうかを見ていましたが、準現行犯逮捕では少し緩められて、3~4時間程度だと考えてもらえれば大丈夫です。
②は現行犯逮捕の「犯人・犯罪の明白性」の程度を少し落としたものですので、各号が「この人が犯罪である可能性が高い」という事象を指すことになります。
1号「犯罪として追呼されているとき。」というのは被害者から「誰かー!ひったくりよー!」と指刺されているような場面です。イメージしやすいですね。
2号「 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。 」というのは、文字通りの意味ですのでこれもよくわかると思います。ちなみに「贓物」というのは「盗品」のことです。
3号「 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。 」というのは、服に血がついているといったような場合です。
4号「 誰何されて逃走しようとするとき。」というのは 職務質問で停止を求めたのに逃げたような場面です。1号は被害者から呼ばれている場面で4号は警官から呼ばれている場面という違いがあるので注意しましょう。
以上1号~4号のような事情があれば、犯人・犯罪の明白性とまではいえないが、犯人・犯罪であることがある程度は根拠づけられる、ということを意味しています。
③逮捕の必要は、現行犯逮捕と同様に、罪証隠滅・逃亡のおそれのことです。
〈準現行犯逮捕の要件〉
①罪を行い終わってから間がないと明らかに認められること(時間的・場所的近接性)
②刑事訴訟法212条2項各号充足性
③逮捕の必要
緊急逮捕(刑事訴訟法210条1項)の要件
緊急逮捕の条文は刑事訴訟法210条1項
緊急逮捕の要件は口述試験で頻出の箇所です。条文としては刑事訴訟法210条1項です。こちらも通常逮捕(刑事訴訟法199条1項)からは離れているので注意しましょう。
第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
緊急逮捕の要件は4つ
通常逮捕の要件は2つ、現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件は3つでしたが、緊急逮捕はさらに要件が増え、4つ必要になります。
とはいえ、緊急逮捕の要件は刑事訴訟法210条1項に書かれているので、口述試験以外ではそれほど真剣に覚える必要はありません。
①重大な犯罪(死刑、無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪)
②罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由
③急速性
④逮捕後直ちに逮捕状請求すること
以上の4つです。
一番問題迷い勝ちなのが②罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由ですが、通常緊急逮捕を検討する思考手順としては
現行犯逮捕(1時間以内)→準現行犯逮捕(3~4時間以内)→緊急逮捕
なので準現行犯逮捕にはできないけれど、罪を犯したことの疑いが通常逮捕よりは強いなー
といったような場合であれば緊急逮捕を検討することになります。
緊急逮捕は、現行犯逮捕・準現行犯逮捕とは異なり、令状が必要になる、ということはしっかり意識おいてください。緊急逮捕という言葉だけを聞いて令状がいらないと勘違いしやすいので…
〈緊急逮捕の要件〉
①重大な犯罪(死刑、無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪)
②罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由
③急速性
④逮捕後直ちに逮捕状請求すること
逮捕・勾留の時間制限
逮捕の要件充足性以外に手続上問題になることとして、時間制限があります。
勾留とともに時間制限について確認しておきすね。刑事訴訟法の復習です。
48時間ルールと72時間ルール
時間制限をわかりやすく言うと
警察官逮捕の場合には、身体拘束後48時間以内に検察官に送致をしなければならず、検察官は24時間以内に勾留請求をしなければいけない。(刑事訴訟法203条1項・205条1項)
検察官逮捕の場合には、身体拘束後48時間以内に勾留請求をしなければいけない。(刑事訴訟法204条1項)
というルールです。
さらに、検察官逮捕の場合には、
身体拘束~勾留請求までを72時間以内に行う必要があります。(刑事訴訟法205条2項)
このような時間制限は図を通して覚えるとよいでしょう。
まとめ
以上、逮捕の要件について刑事実務基礎の観点から見てきました。
よりよい覚え方は逮捕のランクが上がるにつれて必要となる要件が1つずつ増えていくという覚え方です。
通常逮捕の要件は2つでした。
現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件は3つでした。
緊急逮捕の要件は4つでした。
1つずつ増えていってますよね?
このように個数さえ覚えれば自力で条文等参照しながら考えるもとにすることができます。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事実務の基礎は、よりよい参考書がほとんどありません。
予備校本で勉強するのがよいでしょう。辰巳のハンドブックは予備試験口述の過去問まで載っているので、口述試験対策という意味でもお勧めします。
正直これ以外で改正された刑事訴訟法に対応した良い参考書は今のところないと思います。