略取・誘拐罪は3つの条文に分かれているな。やや細かい分野だが、逮捕・監禁罪と同様に刑法各論の試験では出る可能性があるぞ。
たしかに、未成年者の場合や営利の場合、身代金目的の場合とかがあって若干ややこしい規定ですよね。
ぼくは言葉の意味について復習したいな。
略取・誘拐罪は要件も複雑で、規定も多く、あまり出題例もないわりに、出てくると戸惑う分野となっています。今回は言葉の意味、適用する条文はどれなのか、を中心に解説できればいいなーと思います。
ちなみに、略取・誘拐罪のことを拐取罪と言っている参考書・基本書、演習書もあるので注意しましょう。両者は同じことを言っているだけです。略取の「取」と誘拐罪の「拐」をとって一語にしているだけです。
なんで略拐とか略誘とかではないんですか?
そんなことを気にしてもしかたがないぞ(笑)。気にしない気にしない。
略取・誘拐罪のポイント
まず保護法益です。保護法益は被拐取者の自由と監護権です。さらに略取や誘拐の用語の意味について知ることが必要ですね。
また、略取・誘拐罪には①未成年者略取・誘拐罪②営利目的等略取・誘拐罪③身代金目的略取・誘拐罪の3種類があります。この使い分け方法を罪数問題と合わせて意識する必要があります。
そして、もっともよく出る論点である、監護者の誘拐について一緒に考えてみましょう。
②それぞれの要件を押さえる。
③頻出の問題、監護権者からの誘拐罪の論述ができるようになる。
④罪数関係より略取・誘拐罪の使い分けができるようになる。
それでは、みていきましょう。
略取・誘拐罪の保護法益
略取・誘拐罪は①未成年者略取・誘拐罪②営利目的等略取・誘拐罪③身代金目的略取・誘拐罪の3種類ありますが、まず基本となる保護法益は被拐取者の自由という点を押さえましょう。
被拐取者の移動の自由のほか、すべての自由を含んでいるため、単純に「自由」という文言になっているわけですね。行動の自由といってもよいでしょう。
さらに、未成年者略取・誘拐罪の場合には、監護者の監護権も保護法益の一つになると考えられています。この点は、最後に述べる論点にもかかわってくるのでしっかり意識してください。
もちろん、②営利目的等略取・誘拐罪③身代金目的略取・誘拐罪は被拐取者が未成年であっても成立しますので、その場合は監護者の監護権も保護法益になることになります。
まとめると以下のようになります。
略取・誘拐罪の要件
3種類あるといいましたが、未成年者拐取罪が基本(デフォルト)となります。これを意識してください。そのため、まずは未成年者拐取罪の要件をしっかり押さえる必要があります。
未成年者略取・誘拐罪(刑法224条)
(未成年者略取及び誘拐)第二百二十四条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
要件は簡単にわかると思います。
さてここで気になるのは、略取と誘拐の意味でしょう。
こちらも覚えておきましょう。
略取とは、暴行・脅迫を手段として連れ出す行為です。
誘拐とは、欺罔・誘惑を手段として連れ出す行為です。
簡単にいえば、略取は「おりゃー」って感じで無理やり連れだす行為であり、誘拐は「こっちへおいで」って感じでだますことで連れ出す行為というわけですね。
この意味をしっかり理解すると、ニュース番組とかで誘拐罪と聞いたときは、「あ、無理やりじゃなくて、欺罔とか誘惑で誘い出したんだな」ということがわかりますね。
なお、略取・誘拐罪には未遂処罰規定があるので、未遂と既遂の区別も大事になってきます。略取や誘拐で自己または第三者の実力支配内に移したときに既遂になるとされています。
営利目的等略取・誘拐罪(刑法225条)の要件
(営利目的等略取及び誘拐)第二百二十五条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
営利目的等略取・誘拐罪は、未成年者略取・誘拐罪の変化形です。法定刑がアップしています。さらに未成年者でなくてもよくなっています。
ここで再度、略取・誘拐の意味を確認してみましょう。頻繁に思い出す作業をすると、記憶の定着率もアップします。
略取とは、暴行・脅迫を手段として連れ出す行為、誘拐とは、欺罔・誘惑を手段として連れ出す行為でした。
さらに、略取・誘拐罪は状態犯と考える見解が通説です(継続犯ではない)。
身代金目的略取・誘拐罪(刑法225条の2)の要件
(身の代金目的略取等)第二百二十五条の二 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。2 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。
こちらも未成年者略取・誘拐罪の変化形となります。2項は応用系ですので、今回は無視します(笑)。
要件は以下のようになるでしょう。
ここでのポイントは、安否を憂慮する者の意味です。
判例では広く解されており、社会通念上当然とみられる特別な関係であればよいとされています。仕事上の深い信頼関係という感じでもよいのです。
さらに、この「社会通念上」という文言に着目してください。社会通念上ということは、客観的にみて、という意味になります。よって、実際に不快関係になくとも、社会通念上当然に深いと考えられる人物関係にあれば、安否を憂慮する者に当たるといえるわけですね。
だって、実際、半沢直樹の世界を考え立って、頭取の普通の社員が認識ある、ましてや安否を憂慮する者の関係にあるとはいえませんもんね。
監護権者による拐取
さて、以下の問題を考えてみましょう。
要件は①未成年者②略取または誘拐③故意なのですべて満たす感じがします。しかし何かひっかかりますね?
まず、子どもの同意がある点です。さらに実行行為者が監護権者である点も気になりますよね。ここで保護法益をもう一度確認してみましょう。
被拐取者の自由と監護者の監護権でした。となると子どもだけの同意ではダメというわけです(今回では妻の同意も必要)。さらに、今回は監護権者は2人いることになるので監護者自身による行為であっても、もう一方の監護者の監護権を侵害することは許されないとされています(もちろん反対説もあります)。
じゃあ行為者が監護者であることはどのように考慮されるのか、疑問に思うと思います。ここで思い出してほしいのが、上記の議論はあくまで構成要件段階の話というわけです。
「構成要件で考慮できないなら、違法性阻却事由で考えればいいじゃない」いつぞやのマリーアントワネットが出てきそうです(笑)。
判例では、「被告人が親権者の1人であることは、その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮される事情である」(最決平成17年12月6日)としたものがあるので、違法性阻却事由として考えるわけです。
ちなみに、違法性阻却事由として例外的に阻却される場合として、よく虐待から守る場合などが挙げられます。この点も押さえておくとよいでしょう。
なお、実力支配下に被拐取者が移される前に、親権者が取り戻すような場合には未遂となります。
罪数関係
拐取後に監禁をした場合は、拐取罪と監禁罪とで併合罪(刑法45条前段)となると考えるのが有力とされています。これは拐取罪を状態犯(継続犯ではない)と捉えるからです。この点も押さえておくと事例問題に対応できるでしょう。
さらに、未成年者が営利目的等で拐取された場合や身代金目的で拐取された場合はどうなるの?という疑問が生じると思います。
答えは簡単で、未成年者略取・誘拐罪はあくまで基本形なので、変化形(営利目的等略取・誘拐罪や身代金目的略取・誘拐罪)が成立する場合はそちらが優先され、未成年者略取・誘拐罪は成立しません(正確にいえば吸収される)。
未成年者略取・誘拐罪が基本形なんだ、と考えるのがポイントです。
まとめ
以上、略取・誘拐罪についてみてきました。略取・誘拐罪の基本は未成年者拐取罪です。この要件をしっかり押さえたうえで、他の要件に手を伸ばしてみましょう。
②略取とは、暴行・脅迫を手段として連れ出す行為、誘拐とは、欺罔・誘惑を手段として連れ出す行為です。
③身代金目的略取・誘拐罪の安否を憂慮する者は社会通念上から考える。意外と広い。
④監護者による拐取は保護法益を考えて許されない。監護者によるという点は違法性阻却事由として考える。例外が認められる一例としては虐待から守るような場合である。
⑤罪数関係は略取・誘拐罪を状態犯として考える。よって基本は併合罪。また未成年者略取・誘拐罪(刑法224条)は基本形なので、営利目的(刑法225条)や身代金目的(刑法225条の2)が成立する場合には、未成年者略取・誘拐罪は成立しない。
以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。