強盗罪の最後の分野、強盗致死傷罪について考えていこう。
強盗致死傷罪も出題されることが多いですよね。
そうだね、強盗罪や事後強盗罪が出題されたときに合わせて強盗致死傷罪が成立しないかも考えるのが定石だな。
強盗致死傷罪は一見すると強盗罪の結果的加重犯であり論点はなさそうに見えますが、実は奥深い分野であり、基本書等でも一つの章を当てて説明することが多いと思います。
強盗致死傷罪を一つの罪名として保護法益、要件、論点を考えていこうと思います。
強盗致死傷罪の保護法益
強盗罪、事後強盗罪は人身犯的側面と財産犯的側面の両面があると説明してきました。詳しくは以下のボタンでチェックしてみてください。
強盗致死傷罪についても同様に人身犯的側面と財産犯的側面があるのですが、「致死傷」という名前からもわかる通り、人身犯的側面が強いです!要件として傷害や死を検討することからもわかりますね。
そのため、保護法益は生命・身体を主として占有は付随的なものに過ぎないと考えるとよいでしょう。
強盗致死傷罪(刑法240条)の要件
刑法240条の要件
条文は刑法240条です。
(強盗致死傷)第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
要件としては以下の通りになります。
②が負傷の場合には強盗致傷罪、死亡の場合には強盗致死罪が成立することになります。
①については強盗罪の通常の要件と一緒です。反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫と強取が必要です。また事後強盗罪は「強盗として論ずる」ので①の要件は事後強盗罪でもよいことになります。この場合は窃盗と反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫、そして窃盗の機会が必要となります。
強盗罪と事後強盗罪について詳しくは以下の記事に書いていますのでご参照ください。
問題は④の故意と③の強盗の機会についてです。
強盗致死傷罪の故意は傷害や殺人の故意を含むか
強盗致死傷罪の名前からすると、強盗罪の結果的加重犯と考えられます。しかし、判例・通説は強盗罪の結果的加重犯としての強盗致死傷罪の他に、傷害や殺人の故意があった場合にも強盗致死傷罪は成立するとされているのです。
つまり、強盗と殺人の故意をもって、強盗し、殺害もしたときは、強盗罪と殺人罪の観念的競合ではなく、強盗致死傷罪(刑法240条)が成立します。これをわかりやすく強盗殺人罪といったりします。
刑法240条は強盗致死傷罪のほか、強盗殺人罪、強盗傷害罪も規定した犯罪というわけです。
理由は、強盗罪と殺人罪の観念的競合とすると逆に法定刑が軽くなってしまうことなどが挙げられますが、一番わかりやすい理由は刑法240条は「よって」が使われていないので結果的加重犯以外も対象になる、というものです。この理由づけは条文さえみればわかるものなので理由を無理に覚える必要はなくなりおススメです。
まとめると、強盗致死傷罪(刑法240条)の故意は強取行為に加えて㋐暴行の故意㋑脅迫の故意㋒傷害の故意㋓殺人の故意のいずれかがあればよいことになります。
強盗の機会
強盗の機会と事後強盗罪でやった窃盗の機会って何となく言葉が似ていると思いませんか?ここで単純に強盗致死傷罪には強盗の機会が要件なんだよー!って押し付けてもすぐに忘れてしまうかもしれません。
ここでは少し深めて、なぜ「強盗の機会」という要件が必要かを考えてみましょう。これを考えることで「窃盗の機会」との違いを考えることができます。
強盗致死傷罪は何が原因で致傷結果が生じる場合を罰するのかを規定してはいません。そのため、単純に条文をみるだけだと「原因に関係なく」致傷結果が生じた場合はすべて強盗致死傷罪が成立することになってしまいます。
しかし、一般的に考えてもそうはなりませんよね。強盗致死傷罪であるということは強盗に何かしらの関連性が必要だということは自ずと理解できると思います。
ではその関連性について何を基準にするのか?ここで窃盗の機会と同じように時間的場所的近接性で考えればいいじゃん、という意見が出てくると思います。
しかし、窃盗→事後強盗の場合はそれでいいかもしれませんが、強盗致死傷罪はかなり法定刑が重い犯罪です。そのため、強盗罪+過失致死・過失致傷罪(強盗罪+殺人罪・傷害罪)か強盗致死傷罪かは非常に慎重に判断しなければなりません。
そのため、強盗致死傷罪で罰するなら死傷結果にまで犯意が及んでいないといけない=意思の継続性を要求するのが一般的です。
さらに被害者の同一性も考慮要素の一つになります。結局は総合考慮ですが、わかりやすさ重視のために
まとめ
以上、強盗致死傷罪を見てきました。保護法益と要件は簡単ですが、強盗致死傷罪は殺人の故意、傷害の故意の場合も含むこと=強盗殺人罪、強盗傷害罪もありうることをまず押さえましょう。
そして強盗の機会も隠された要件となっている点を理解します。窃盗の機会と混乱しがちなので最後にこの点を図表にまとめたいと思います。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑法各論は刑法総論に引き続き,基本刑法をおすすめします。事例問題を示しながら解説されているので,初心者から司法試験対策まで幅広く対応できる作りになっていると思います。