いよいよ、裁量論に入っていくぞ!
裁量は行政法総論、行政法の実体法分野で一番重要な分野だ。試験に出るのはこれだけといっても過言ではない。
行政法の実体法分野では裁量が大事っていうのはわかるんですけど、結局どう考えればいいのかよくわからないんですよね……。
教えてください!!
行政法の実体法分野では、裁量が重要になってきます。
行政法総論において、試験で出題されるのは、ほとんど裁量であるといっても過言ではありません。
しかしながら、試験における裁量の書き方をしっかり解説しているものはほとんどありません。基本書等は学術的な裁量の解説に終始しています。
そのため、今回は試験において、行政法の裁量をどのように考えればよいのか、どのように論述すればよいのか、丁寧にわかりやすく解説していきます!
裁量のポイント
まず最初に裁量の概念について理解しましょう。
裁量の逸脱・濫用とは何なのか?なぜ裁量の逸脱・濫用である行政処分は違法なのか?
これらをしっかり押さえることが重要です。
次に試験における裁量の考え方を順を追って解説していきます。行政法の行政訴訟法以外の分野で試験に出題されるのは裁量がほとんどです。そのため、しっかり裁量論を押さえさえすれば大丈夫です。
①裁量の概念を理解する。
②試験における裁量の書き方を理解する。
それではみていきましょう。
裁量とは何か?なぜ逸脱・濫用を考えるのか?
行政法における裁量論
行政庁(行政機関)が行う行政処分が違法になる場合とはどのような場合かを考えてみましょう。
裁判官の立場になって考えてください。
「大気汚染だ!道路工事をやめさせろ!」といって住民が裁判所に提訴したとします。
裁判官であるあなたは「ふむふむ、行政側の意見も聞こう」と思いますよね。
行政側は「今回の工事は、〇△※◆…」といって、よくわからない専門用語を羅列します。
これはしょうがないことです。というのも行政側はしっかりと道路工事について説明しているだけである一方、裁判官は道路工事の専門家ではないため、「そんなことを言ってもよくわからない…」という状態になるのは当たり前だからです。
これでは行政処分である道路工事の認可が違法であるかどうか判断できません。
こういった、専門技術的な判断をしなければならない行政処分の場合、行政側には一定の裁量が認められていると考えられています。
専門家(行政)のいうことは専門家(行政)のいうことをおとなしく聞いておいた方がよい(裁判官俺らでは判断しにくいし!)
というのが行政裁量です。
裁量の逸脱・濫用
こうみてみると、
行政に裁量が認められるかぎり、行政処分は違法とはなりえないようにも思えてきます。
しかし、裁判所からしても、
「さすがにこれはダメでしょ、やりすぎでしょ。」
というようなケースがありうるのです。
このようなケースが裁量の逸脱・濫用として処理されます。
行政側には一定の裁量があって、基本的には行政側の判断を尊重するけど、さすがにこれはやりすぎ(逸脱)だよね。さすがにこれは行き過ぎ(濫用)だよね。
という場合に、
行政処分は違法
ということになるというわけです。
規範「重要な事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠く」
最後に、裁量の逸脱濫用と認定する際のマジックワードを教えたいと思います。
まず、裁量の逸脱・濫用の認定の際には
行政処分は、重要な事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠く場合に、裁量の逸脱・濫用として違法となる
という書き方を最初にするのをお勧めします。
以下、この文言について詳しく解説します。
行政法で裁量が認められる行政処分の場合、その処分をするにあたっていろいろな考慮要素があるはずです。
それらの考慮要素をしっかり検討しているか?を裁判所は審査して、しっかり考慮していなければ、裁量の逸脱・濫用として違法ということになります。
逆にいえば、重要な事実であるにもかかわらず考慮していないものはないか(考慮不尽)。考慮しなくていいにもかかわらず考慮しているものはないか(他事考慮)。考慮した事実に対する評価が誤っていないか(評価過誤)。考慮不尽・他事考慮・評価過誤等があれば行政処分は、裁量の逸脱・濫用として違法になるというわけです。
図で考える
下の図をみてください。
行政機関が行う行政処分にも、裁量が認められれば、一定の幅が見られます。これが行政裁量です。
その処分の際には事実Aや事実B、事実Cを考慮しているとします。
考慮不尽
事実Aは行政処分において重要な事実であるにもかかわらず、事実Aを考慮せずに行政処分を行っていたとしましょう。
この場合、行政処分は、考慮不尽により、裁量の逸脱・濫用で違法ということになります。
他事考慮
続いて、事実Dが行政処分で考慮してはいけない事実であった場合にもかかわらずそれを考慮して行政処分を行っていたとします。他事考慮です。
この場合も、行政処分は、他事考慮として、裁量の逸脱・濫用として違法となります。
評価過誤
行政処分をする際の、事実A~Cを踏まえて評価をし、その評価に基づいて行政処分を行っているはずです。
たとえば、事実A~Cがあれば、汚染物質は人的影響はないといえるから、道路工事を行っても大丈夫
といったような評価です。
この評価が合理性を欠く場合、行政処分は、評価過誤として、裁量の逸脱・濫用となり違法となります。
まとめ
以上をみてみると、行政裁量で大事なのは、考慮要素の重みづけです。
重要な事実を考慮していなかったら考慮不尽になりますし、重要でない事実を考慮していたら他事考慮になります。重要な事実の評価に合理性がなければ評価過誤となります。
どの事実や評価が重要であるかをしっかり見極め、その事項についてちゃんと考慮しているかどうかで裁量の逸脱・濫用が決まるというわけです!
試験での行政裁量の書き方
①裁量の有無
法律の文言と処分の性質
まず最初に行うべきは行政処分に行政裁量が認められるかどうかです。
行政機関の処分の中には、裁量が認められないものも存在します。建築基準法など、人の生命・身体・安全にかかわるものであれば裁量は認められないことが多いです。
そのため、まずは裁量があるかどうかを検討しましょう。
ポイントは、
法律の文言と処分の性質を考えること
です。
法律の文言
法律の文言とは、根拠法令が「~しなければならない。」ではなく「~することができる。」という文言かどうかです。
「~することができる。」という表現であれば、行政側に一定の裁量を残していることがわかります。
ただし、「~することができる。」とされていれも行政裁量がないケース、「~しなければならない。」となっていても行政裁量があるケースなど、法律の文言だけで一義的に裁量の有無が決まるわけではない点には注意が必要でしょう。
あくまでも、「~できる。」という文言であれば、行政裁量があるケースが多いというだけです。
処分の性質
続いて処分の性質を考えてみましょう。処分の性質で多いのは、
専門技術的判断
が求められるかどうかです。
たとえば、地域性が要求されるものであったり、科学技術が要求されるものであったりすれば、専門技術的判断が要求される処分のため、行政裁量が認められます。
また、営業の自由との対立として、職業に対する許可については行政裁量は認められにくいという点も覚えておくとよいでしょう。営業の自由に対する規制は必要最小限にしなければならないという配慮によります。
行政事件訴訟法30条
法律の文言及び処分の性質から裁量があることがわかったら、行政事件訴訟法30条を引っ張ってきましょう。
(裁量処分の取消し)
第三十条 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。
②裁量の広狭
続いて、裁量にも広い裁量と狭い裁量があります。
裁量がどれほどの広さ、審査密度があるのかを検討することも重要です。
たとえば、
警察許可(消極目的のために一般的に禁止し、要件を満たす場合に禁止を解除するもの)の場合には裁量が認められたとしても、裁量が広くないのが通常です。
この場合、
一定の裁量が認められる。(広い裁量・広範な裁量が認められるとは書かない!)
といったような文言を書くことになります。
一方で、特許的な側面を有する許可の場合には裁量が広いことが多いです。
この裁量の広狭はよくわからない場合には飛ばして③にいってもよいでしょう。深く考える必要はありません。
③規範「重要な事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠く」
次に規範定立をします。
行政事件訴訟法30条を引っ張っていれば、裁量の逸脱・濫用があれば違法ということを示すことができますが、
さらに、どのような場合に裁量の逸脱・濫用となるかの規範を定立するというわけです。
これは先ほどの文言をコピペします。
重要な事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、裁量の逸脱・濫用として違法となる。
といったような書きぶりになるでしょう。
考慮要素の重みづけ
行政側の考慮要素
あとは、行政機関が何を考慮しているかを検討します。行政機関がどのような事実をどのような評価づけで考え、処分を行ったかを検討するのです。
事実A、事実B、事実C……に基づいて、評価〇〇と考えて、行政処分を行ったんだなー!
ということを丁寧に考えます。
他の考慮要素
続いて他の考慮要素を考えていきます。これは私人側の反論として登場することが多いです。また私人側の意見・反論がなかったとしても、自身で他に考慮要素が考えられないか検討するのも大事です。
他に事実D、事実F…を考慮できないか?
といったような場合です。
重みづけ
以上の過程を経ると、行政処分をする方向に働く+の事実と、行政処分をしない方向に働く-の事実に振り分けられます。
あとは、+-の事実をみて、それぞれ法の趣旨、処分の性質、事案の特性に応じて、どの事実を重要とすべきか、評価はあっているかを考えていくのです。
事実A、B、Cといった、行政処分する方向である行政機関に都合のいい事実しか考慮しておらず、他に考慮すべき重要な事実、Dなどを考慮していな場合は考慮不尽として、裁量の逸脱・濫用となります。
また、事実Aは重要な事実ではないにもかかわらず、それを考慮したがために行政処分する方向になっている場合には、他事考慮として、裁量の逸脱・濫用となります。
さらに、事実A、B、Cを考慮し、そこから導く評価に合理性がないにもかかわらず、その評価をもって行政処分を行っている場合には、評価過誤として、裁量の逸脱・濫用となります。
このように、事実を+・-の方向で列挙して、今回はどの事実を考慮すべきか、そしてそこから導かれる評価に合理性があるのかを検討していくというわけです。
こう考えてみると、裁量論は事実を+-で列挙して、あとは重みづけを考えるだけだからシンプルだね。
事案・問題を通して、どのような事実が「重要な事実」となるのか、どのような評価が「合理的」かどうかを学習していこう。この部分は慣れだな。
まとめ
以上、行政裁量についてみてきました。
再度、論述の流れを復習してみます。
- 手順1行政裁量の有無
法律の文言・行政処分の性質より行政裁量の有無を考える。そして行政事件訴訟法30条を引っ張り「裁量の逸脱・濫用」というワードを出す。
- 手順2行政裁量の広狭
裁量の広い・狭いを処分の性質や事案に即して考える。難しければ飛ばしてもよい。
- 手順3規範定立
「重要な事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠く場合に裁量の逸脱・濫用となる」というワードを出して、規範定立をする。
- 手順4事実評価
行政処分に+となる事実、-となる事実を列挙し、それぞれで重みづけをする。考慮不尽、他事考慮、評価過誤等があれば、「重要な事実の基礎を欠き」又は「社会通念上著しく妥当性を欠く」ものとして違法となる。
こう考えてみると、意外とシンプルに考えらえることがわかりますね。あとは、試験や事例問題を通して、どのような事実が重要とされるのか、どのような評価に合理性があるのかを身に着けていけば大丈夫です。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
行政法でわかりやすい基本書・参考書といえば、基本行政法一択でしょう。
行政事件訴訟法から、行政法総論、行政組織法まで1冊ですべて学習できます。また、事例・判例が豊富なので、実際のイメージをもちながら学習を進められるので理解が深まるものになっています。