物権法の第2のボス「抵当権」が全然わかりません!
抵当権は日常のイメージがわかないから、苦手にしている人が多いな。
しかし抵当権で覚えることは少ないんだ!
今回から抵当権攻略に入っていくぞ!
物権法の第1のボスは「物権変動」でした。動産と不動産についていろいろ学習してきましたね。
さて、今回から、物権法の第2のボス「抵当権」に入っていきます。抵当権は日常生活にあまり登場しないのでイメージしづらく、苦手とする方が多いです。
しかしながら、抵当権の分野で試験に出る論点は2~3個しかなく、学習する箇所を絞れば簡単に攻略するのです。
今回は抵当権で覚えるべきポイントを押さえつつ、そもそも抵当権とは何か?について学習していきましょう。
抵当権のポイント
抵当権とは何か?
これが今回の学習のポイントです。イメージしにくい抵当権を理解していきます。
そのうえで、抵当権の性質を押さえましょう。
抵当権の性質は今後の担保物権、さらには民法全体の学習においても非常に重要になっていきます。しっかり理解しておきたいところです。
①抵当権とは何か?を知る。
②抵当権の性質を押さえる。
それではみていきましょう!
抵当権とは何か?
抵当権の条文は民法369条
何ごともまずは条文からスタートです。
抵当権の条文は民法369条になります。
(抵当権の内容)
第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
民法369条1項をみてもよくわからないかもしれません。
分解して考えてみましょう。
「抵当権者は、債務者…が…債務の担保」
という部分から、
抵当権者と債務者との間に債権債務関係があることがわかります。
すなわち、債務者が抵当権者からお金を借りているなど債務を持っているというわけです。
これを
被担保債権
といいます。
抵当権とは、被担保債権のために設定されるものというわけです。
「供した不動産について」
という部分から、抵当権は必ず不動産に対して設定されるということがわかります。
最後に、
「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」
という部分から、抵当権者は優先的に弁済を受ける権利を持つことがわかります。
以上をまとめますと、
抵当権とは、①被担保債権を担保するために②不動産に設定されたもので③優先弁済効をもつ
というわけです。
抵当権を図で理解する
先ほどは条文から抵当権を読み解いていきました。
今度はわかりやすく図を用いてみてみましょう。
債務者が債権者よりお金を(=被担保債権)借りました。その際、債務者の所有する不動産に抵当権を設定しました。
この場合の図が以下のようになります。
ここで押さえてほしいのは、被担保債権の債権者を抵当権者(抵当権をもつ者)、被担保債権の債務者を抵当権設定者(抵当権を設定した者)ということです。
よくある間違いとして、債務者を抵当権者としてしまう勘違いがあります。
しかし債務者は
「私の不動産に抵当権を設定してください!」
と申し出る側ですので、抵当権を設定する者であり、抵当権設定者です。
抵当権者ではない点に注意しましょう。
また、上図からわかるとおり、
抵当権は被担保債権とともにあります。これは抵当権の性質ともかかわってきますので、しっかり理解するようにしてください。
抵当権は被担保債権の回収を図る方法
条文や図で確認したとおり、
抵当権は被担保債権について設定されるもの
ですが、これは、
抵当権が被担保債権の回収を図るためのもの
だからです。
抵当権者(債権者)は自身の債権(被担保債権)に抵当権を設定することで、抵当権設定者(債務者)の不動産より被担保債権の回収を図ります。
抵当権設定者(債務者)が被担保債権を払えなくなった場合には、不動産を売ることで被担保債権の回収ができるためです。
以上を踏まえると、抵当権者(債権者)は別に不動産を使いたいわけではありません。
そのため、抵当権が設定されたとしても抵当権設定者(債務者)は自由に不動産を使用収益できます。
これを、
抵当権は、不動産の交換価値を把握するにすぎない(使用価値については及ばない)
と表現します。
抵当権設定者(債務者)は抵当権設定後不動産を自由に利用ができる、しかし、被担保債権を払えなくなった場合には、抵当権者によって不動産が処分される可能性がある。
というわけです。
抵当権の性質
抵当権の性質として覚えてほしいのは4つです。どの性質も意外と出題されるのですべて理解しておきたいところです。
性質①:附従性
先ほども言った通り、抵当権は被担保債権とともにあります。
常に2つで一つというわけです。
ということは被担保債権がなくなった場合は抵当権も消滅することになります。
これを「付従性」というわけです。
非常に重要な性質ですので、必ず覚えましょう。
抵当権がなくならないかなー、と思ったら、被担保債権をなくせばよいのです。付従性があるので。
性質2:随伴性
こちらも、抵当権は被担保債権とともにある、という点から導かれる性質です。
被担保債権が移転すると、抵当権も一緒についてきます。
「随伴性」という性質です。
被担保債権は債権なので、債権譲渡で第三者に移すことができます。その場合、抵当権はついてくるので、第三者と債務者(抵当権設定者)との間で抵当権が生じるということになります。
性質3:不可分性
先ほどの付従性を思い出してください。
抵当権を消滅させるには被担保債権を消滅させることが必要でした。
では被担保債権1000万円のうち、500万円だけ弁済した場合に抵当権はどうなるのでしょうか。
答えは、500万円弁済したとしても、被担保債権は500万円残るため、抵当権は消滅しない(抵当権は依然として不動産全部について生じる)
です。
すなわち、抵当権者は、被担保債権の全部の弁済を受けるまでは、不動産の全部について抵当権を行使できることになります。
抵当権は一度設定されると、被担保債権が完全に消滅しない限り、不動産の全部に及ぶというわけです。
これを
不可分性
といいます。
性質4:物上代位性
物上代位はわかりづらいのでしっかり理解していきましょう。
民法372条をみてみます。
(留置権等の規定の準用)
第三百七十二条 第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
民法304条にとびます。
(物上代位)
第三百四条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
抵当権の物上代位は民法372条が準用する民法304条です。この流れをしっかり頭に入れましょう。
物上代位とは、民法304条を見ればわかるとおり、
抵当権者が、目的物(不動産)の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、抵当権を行使することができるとする権利です。
本来、抵当権は設定された不動産にしか及びませんが、物上代位はさらにその範囲を拡大し、抵当権者の被担保債権の回収をしやすくしているわけですね。
イメージしづらいので、例を用いて考えてみましょう。
AさんはBさんより1000万円借りました(BはAに対して1000万円の被担保債権をもつ)。この被担保債権について、Aさんの不動産に抵当権が設定されました。
Aさんは当該不動産をCさんに賃貸することにしました(抵当権は不動産の交換価値を把握するにすぎないから、抵当権設定者は自由に不動産を利用することができる)。
この場合、AC間の賃貸借契約より発生する賃料に対して、Bさんは物上代位をすることができます。
すなわち、Bさんが賃料について、被担保債権回収のためにゲットできるというわけです。
抵当権の物上代位については一つの論点ですので、また別の記事で詳しく書くことにします。
少なくとも、今回の記事では
抵当権は不動産以外にも物上代位によって被担保債権を回収することができる
という点を押さえておきましょう。
まとめ
以上、抵当権とは何か?を見てきました。
抵当権でまず押さえるべきは下の図です。抵当権者や抵当権設定者という用語についてしっかり理解しましょう。そして、抵当権は不動産の交換価値を把握するものでした(抵当権設定者は不動産を自由に利用することができます)。
その上で、4つの性質を押さえます。
①付従性(被担保債権がなくなれば抵当権もなくなる)
②随伴性(被担保債権が移転すれば抵当権も移転する)
③不可分性(被担保債権がなくならない限り、抵当権は不動産すべてに及ぶ)
④物上代位性(抵当権は不動産以外の権利にも物上代位することができる)※詳しくは別記事
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
担保物権についてわかりやすい解説は、はじめての法でおなじみストゥディアシリーズです。
これを超える担保物権の基本書はないと思います。三色刷り+事例問題が豊富なので、楽しく担保物権を学習できるはずです。
初学者の方はまずはこの本から読んでみてください!