刑事訴訟法って理論はよくわかるんですけど、実際の事例問題を見たときにどう解けばいいのかよくわからないんですよね。
そんな時は事例演習刑事訴訟法をおすすめするぞ。司法試験受験生のほとんどが持っている刑事訴訟法の中での良書さ!
刑事訴訟法の演習書といえば、「事例演習刑事訴訟法」といわれています。解説の形式は対話式で若干の癖がありますが、その癖を踏まえても読む価値のある1冊です。
効果的な使い方を含めて解説していきます。
事例演習刑事訴訟法の評価
対応レベルは使い方次第ですが、ロースクール入試以上レベルとしておきました。もちろん学部の定期テストでも使えないことはないですが、学説の対立等応用が含まれているため、無理に理解しようとして読む必要はないと思います。
使い方にはコツがいるという点でも、対応レベルはロースクール以上でしょう。
対話形式なので文章自体のわかりやすさは高いです。とはいえ簡潔性はやや欠けるため、やはり一通り刑事訴訟法を勉強したことがある方が最も適すると思います。
範囲は刑事訴訟法を基本的に押さえるべき分野を網羅しています。とはいえ応用的な部分は章末の「Question & Answer」や「Pointers Towards Clear and Deep Understanding」という箇所で解説しているので、一応の網羅性はあるという印象です。
出題箇所は刑事訴訟法の基礎基本論点なので実用的ではありますが、対話形式なので実際に書くとなると、本筋の部分を対話から抽出する必要があります。そのため、趣味的と実用的と半々とさせていただきました。
おすすめ度は80%です。刑事訴訟法で演習書が欲しい場合に最初に買うべき1冊でしょう。
事例演習刑事訴訟法のメリット
対話形式で読みやすい
法律書は堅苦しい日本語とともに一方通行で会話されがちです。そのため、読んでいると眠たくなってしまうことが多々あります(笑)。
一方、事例演習刑事訴訟法は、対話形式なので、小説のように読み進めることができます。
また、学生と教員の対話なので、学生側の疑問点が読者の疑問点と一致し
「そこが聞きたかったんだよ」「ありがとうA君(対話に登場する学生のこと)」
となったりすることが多々あります。一方的に説明されるよりも頭の中に入りやすいといえるでしょう。
事例が判例をもとにしている
よく法律をマスターするには学説+判例を知る必要があるといいますが、実際、百選のように判例集を読むのは苦痛だと思います。さらに判例集を読んだところで、どのように問題の解答として反映させればいいのか、よくわからなくなることも多いです。
事例演習刑事訴訟法はそもそも事例自体が判例をもとにしたものです。つまりわざわざ判例を独自に学習する手間を省くことができます(もちろん司法試験対策としては判例本体を知っておくことが大事なので判例集で学習するに越したことがありませんが、学部テストやロースクール入試レベルでは事例演習刑事訴訟法だけで十分でしょう)。
さらにその判例をもとにした事例を、解答としてどういう手順を踏んで、どこで判例の文言を用いて、解説すればいいか理解することができるつくりになっています。
つまり事例演習刑事訴訟法さえ読めば、判例+演習をこなすことができるわけです。
章末にQ&Aやワンポイントアドバイスが載っている
基本的に解説は教員と学生の対話で進められていきますが、各問題の解説の後にQ&Aやワンポイントアドバイスが載っています。これは非常に重宝するものです。
いままで勘違いしていたことやわかりにくいなと思っていた部分が解消されます。
たとえばよく刑事訴訟法では「強制処分」という言葉を使いますが、条文上は「強制の処分」(刑事訴訟法197条1項ただし書)になっていますよね。「強制処分」と「強制の処分」って同じ意味ですか?同じ意味ならなんで「強制の処分」とはあまり言わないのでしょうか?
こういった本当はわからないけれど素通りしている部分について「ちゃんと」説明してくれているのです。
刑事訴訟法の理解が深まることは間違いないです。
問題の前に答案の書き方が載っている
事例演習刑事訴訟法の最初の回は設問ではなく、答案の書き方を解説した回です。
これを見たときに私はこう思いました…
もっと早くこれを見ていれば……
この部分はコピーしてでも法学部新入生は読むべきです。いまいち答案の書き方が定まらないなーと思っている学部生やロー生にとっても役立つと思います。
三段論法の使い方や論点抽出の方法、判例・学説をどこでどのように答案で使えばいいのか、といったことまで幅広く解説しており、この部分を読めば、
法律の論述の書き方を理解することができる
といえると思います。
この章が読めるだけでも、事例演習刑事訴訟法を買った意味があります。刑事訴訟法はまだ学習しないやー、と思っている方でも1冊、答案の書き方の教本として持っておくとよいでしょう。
法律を勉強するすべての人たちにぜひ読んでもらいたいです。
事例演習刑事訴訟法のデメリット
使い方をレベルに応じて使い分ける必要がある
対話形式で学説の対立まで踏み込むつくりになっているのでレベルに応じて事例演習刑事訴訟法を使う必要があります。
①初学者・学部定期テストレベル…教員の言っていることだけを信じてください。学生側の意見はただの意見(学説)ですので、深入りして読まないようにしましょう。
②ロースクール入試・予備試験レベル…学生と教員との話が大体は理解できるレベルが必要です。時には学生の意見(学説)の立場で事例を考えれるように読めばいいと思います。
③司法試験レベル…対話、Q&A、ワンポイント、事例のもととなった判例について理解し、少なくとも判例・通説については基本書で内容を押さえる必要があると思います。事例演習刑事訴訟法の言っていることが全部わかるというレベルです。
このように初学者がいきなりすべてを理解しようとすると逆に刑事訴訟法の沼にはまって少数異端説でテストを書いてしまい、単位を落としてしまう可能性もあります。
とりあえず1回目、最初に読むときは教員の言っていることだけを追っていく、というように段階的に「理解していく」必要があるというわけです。
学説の対立を詳しく説明しているので判例・通説がわかりづらい
事例演習刑事訴訟法の評価で対応レベルに「初学者」「学部テスト」を含めなかった理由がここにあります。
対話形式でかつ学説の対立を丁寧に解説しているので、ただ単に読んでいても「じゃあ結局、どの見解が一番有力なの?」という状態に陥ることが時々あるのです。
そのため、事例演習系訴訟法は最初に判例通説を押さえたうえで読むのが最適です。
じゃあ刑事訴訟法の判例通説をわかりやすく解説したものって何?、となったそこのあなた!
はじめての刑事訴訟法シリーズの記事がありますので、そちらをご覧ください。完全に宣伝です(笑)。
判例通説を知った上では、学説の対立があっても、どう書けばいいかに気づけると思うので大丈夫でしょう。
逆に、解説で展開される学説の対立は、ロー生や司法試験受験生は学習に深みが出るので楽しいと思います。
とられている見解がややマイナーなことがある
対話形式とはいえ、最後の方では解答の方向性を解説してくれています。基本的に教員の見解に従っておけばよいのですが、教員自体が判例・通説ではないことも稀にあります。
その際に誤って教員の内容の方向性で解答を書かないように注意が必要です。
この点からいっても、判例・通説をしっかり押さえておく必要があるでしょう。はじめての刑事訴訟法シリーズをおすすめしておきます。
こういう人におすすめ
刑事訴訟法を一通り勉強して、何か演習書を探している人は持っておくべき1冊でしょう。特に予備試験、ロースクール生は持っておくべきです。
また、授業等で判例・通説を教えてもらえる立場にある方にとっての演習書としても有用です。
一方、完全にはじめて刑事訴訟法に触れるという方は基本書や授業等で習ってから事例演習刑事訴訟法に取り組んだ方がいいかもしれません。やや過剰な内容が含まれているので「やりすぎ」になり、逆にわからなくなる恐れがあります。
別の視点になりますが、法律の答案の書き方がわからないという方もおすすめです。最初の章は大変読む価値があります。
いろいろ述べてきましたが、刑事訴訟法の演習書で1冊あげるとすれば有名度合からしてもわかりやすさからしても、人気度からしても「事例演習刑事訴訟法」1択でしょう。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。