法曹になるには,法科大学院を卒業するか(法科大学院ルート),予備試験に合格するか(予備試験ルート)の2パターンの方法があります。現在,大手予備校はいずれも予備試験ルートを念頭に置き,法科大学院への進学が軽視されている風潮があります。
ここでは現役ロースクール生が,結局どっちのルートの方がいいのか,それぞれのルートのメリット,デメリットは何かを個人的な見解をもとに説明していこうと思います。
私自身,予備校の回し者でも法科大学院偏重の思考を持っているわけでもないと思っているので,できるだけ中立的立場から,これから法曹を目指す方に有益な情報を提示することだけを目的として書いていきます!
法科大学院のメリット・デメリット
まず法科大学院のメリット・デメリットとしてよく言われることを見ていきましょう。
メリット
卒業すれば司法試験の受験資格がもらえる
これはよく言われますね。しかし,法曹制度の当たり前をただ言っているだけにすぎません。実質的なメリットではないでしょう。ただし,よく予備校が主張するように司法試験合格率が予備試験と比べて特段低いわけではないという点は注意してください。特に既習ルートの上位ロースクールであれば数パーセントの違いしかないといえます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
司法試験受験以外の幅の広い勉強ができる
これもよく言われます。司法修習前から実務や専門的分野(M&Aなど)にかかわれるので法曹になってから活躍の幅が広がるというものです。
しかし,この点に関しては若干補足が必要です。予備試験ルートであれば早く法曹に出れるので,法科大学院という限られた施設内での経験(2年)と実世界での経験(2年)では,やはり実世界の方が勝るような気がします。
たとえば,まだ法曹の進路を決めかねている人なら法科大学院のカリキュラムは大いに役立つと思いますが,実際に進路を明確に決めている人にとっては予備試験で早く法曹になれるのであればそちらの方がこの点ではメリットでしょう。
法曹界の交友関係が広がる
法科大学院は2年間,高校の時のようにクラスで授業を受けることが多くなると思います。そのため,大学の時以上にクラスの仲がよくなるのが通常です。さらにそのクラスの大半は法曹になるわけですから,おのずと人脈は広がります。勉強会も盛んにおこなわれます。
さらに,現在の司法修習期間は1年と,司法修習でのつながりより法科大学院でのつながりの方が交友関係が広がりやすい状況です。
法曹の知り合い,友人を増やすという点では法科大学院の方がメリットといえるでしょう。
法学博士(専門職)を持てる
法科大学院を卒業すれば,法学博士(専門職)を得ます。これが評価される対象かは微妙なところがありますが,一応一定の地位にいることは示すことができます!
デメリット
学費が高い
学費がなぜか他の大学院と比べて高いです。奨学金等の制度はありますが,経済的負担は大きいと思います。さらに授業では参考書や基本書を用意する必要があり,専門書は他の本と比べて値段が高いため,その分でも多くの支出が求められています。
しかし,予備試験ルートのメリットで解説するとおり,予備試験ルートでは予備校に通うことがほとんどだと思うのでこの点は予備試験との比較では大きな意味は持たないと思います。
社会に出るのが遅い
大学で4年,既習で法科大学院に入ったとしても卒業まで2年かかるので,社会にでるのは27歳前後です。これで司法試験に落ちたりしたらさらに社会に出るのが遅れていくわけですね。これに対して予備試験では合格すれば次の年に司法試験を受験できるので短縮できるとされます。
しかし,逆に考えれば,学生の期間を延ばせるということでもあります。社会人になったら学生の時ほど自由に使える時間はないでしょう。自由に勉強なり遊びなりに使える時間が増えるという点をメリットとして捉えることもできますね。
予備試験のメリット・デメリット
メリット
早く法曹になれる
やはりこれが一番のメリットでしょう。予備試験に合格すれば次の年には司法試験を受験できるので法科大学院ルートと比べて基本的に早く社会に出られることになります。
しかし注意が必要なのは現在の法曹養成制度改革です。法曹コースが創設されれば,学部3年+法科大学院2年かつ在学中受験が可能となります。そのため,大学3年時に予備試験に合格しない限りこのメリットは効果をもたないといえるでしょう。
法曹養成制度改革については以下の記事をご覧ください。
経済的負担が少ない
これは上記でも少し述べた通り,若干補足がります。たしかに予備試験→司法試験であれば法科大学院の学費は必要ないことになりますが,独学で予備試験に合格することはかなり難しく,大半の人は予備校に通うことになるでしょう。予備校にもよりますが,だいたい1年で100万円前後かかるので経済的負担という面では,予備試験も法科大学院もあまり差はないのかもしれません。
就活に強い
予備試験合格は就活に,特に関東地方の就活に強いイメージです。関東では予備試験偏重の風潮があることは以前の記事で説明しました。
この影響もあってか,予備試験合格という肩書は関東,さらに司法試験合格前に内定を出す四大・五大事務所では有利な武器となります。
デメリット
合格率が低い
これは法科大学院のメリットの「司法試験の受験資格が得られる」と同様に制度上のものなのでどうしようもありません。実質的なデメリットではないともいえます。合格率が低く,さらに合格者の多くは学部法学部や法科大学院出身です。
本来経済的不利益がある者を対象とした予備試験制度ですが,このように司法試験の腕試しや実力を図るための試験として使われている風潮もあります。また,受験資格に制限はないため自ずと合格率は低くなるのは当たり前でしょう。
法科大学院のサイトが,司法試験合格率と予備試験受験者数比の合格率を比べて法科大学院制度の方がよいと主張していましたが,そもそも受験資格のある司法試験と受験資格のない予備試験を比べることはナンセンスです。
予備試験の地位が今後どのように変わっていくかわからない
法曹養成制度改革によって,法曹コースができ,ますます法曹になるルートは多様化します。さらに予備試験合格者が弁護士になり,その弁護士が中心となる世代が始まるので予備試験制度の評価はその弁護士の方々をみて評価されることになります。
これによりもしかしたら予備試験合格という評価は社会情勢の中で下がっていく可能性があります。その一方で法科大学院卒業の法学博士(専門職)の地位はあまり変化しないでしょう。
予備試験がどうなるのか,どのように評価されるのか社会に影響される分,現状は増加傾向にある予備試験ルートがどうなっていくのか誰にもわからないですね。
まとめ
以上,法科大学院のメリットデメリットと予備試験のメリットデメリットを見てきました。いろいろな意見があり,難しい議論だと思います。
現在の法曹制度は謎の多い,おかしな点が多いのは否めませんが,私自身現在の制度の良い点もあると思っています。
それは選択肢,評価されるポイントが多様であるという点です。旧司法試験までは学部の成績+司法試験の成績でしかその人の能力を図ることはできなかったと思いますが,現在は学部の成績+予備試験の成績+法科大学院の入試の成績+法科大学院の成績+司法試験の成績等いろいろな媒体から評価されるチャンスがあります。
これは一発試験だけでその人の人生が決まるわけではなく真のその人の実力が評価できるということです。また,受験生自身にもいろいろな選択肢が与えられているのもメリットの一つでしょう。
どのルートがいい,ということはその人次第なので明言できませんが,選択肢,評価されるポイントがいろいろあること自体はいいことだと思います。よりよい法曹養成制度になることを願ってこの記事をしめたいと思います。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。