違法収集証拠排除法則は論点がいっぱいある分野だね。
刑事訴訟法の証拠法の大きな一分野ですもんね。違法性承継論や毒樹の果実論など,結局どう考えればいいのか,わかりません。
判例通説に従って,『わかりやすさ』を第一に解説していこう!
刑事訴訟法の証拠法の山場の一つが違法収集証拠排除法則です。違法収集証拠排除法則の問題を出せば,捜査法での違法性も論じることになるので,捜査法の理解と証拠法の理解を同時に問うことができ一石二鳥の分野なので出題者には好まれると思います。
その分,証拠法だけでも論点がたくさんあり学説の対立もあるため,大変な分野となっています。今回は判例通説に従って基礎基本をわかりやすく解説していけたらいいなー,と思います。
違法収集証拠排除法則のポイント
違法収集証拠排除法則は刑事訴訟法上に直接の条文がありません!そのため,根拠をしっかり覚えることが大切です。次に,基本的な違法収集証拠排除法則の考え方についてみてみましょう。そして,発展形の違法性承継論と毒樹の果実論についてみていきます。
②違法収集証拠排除法則の基本的な考え方について理解する。
③違法性承継論について押さえる。
④毒樹の果実論について押さえる。
それでは見ていきましょう!
違法収集証拠排除法則の根拠
一般的に違法に収集された証拠は排除すべきであるといわれています。これが違法収集証拠排除法則です。文言そのままですね(笑)。
この根拠として主に3つのことが言われます。
②違法捜査抑止論:将来の違法捜査の抑止
③適正手続論:正義に反する(憲法31条)
選べないなら3つともすべて根拠にしちゃえばいいじゃない
という究極の理論ですね(笑)。
違法収集証拠排除法則の考え方
判例の考え方
次に,基本的な違法収集証拠排除の法則の考え方を見てみます。
根拠条文がないので判例から入ります。判例で違法収集証拠排除の法則を認めた判例では以下のように述べています。
令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。
(最判昭和53年9月7日)
これを一般的に①違法の重大性②排除の相当性の2要件であるとされています。
この要件をどう考えるかも学説上対立がありますが,①②の2要件がそろって初めて違法収集証拠排除されると考えるべきでしょう。
違法の重大性
違法の重大性の判断要素としては,法規からの逸脱の程度及び令状潜脱の意思の有無などが挙げられます。
法規からの逸脱の程度は違法を検討するにあたって当たり前っちゃあ当たり前ですね。ポイントは令状潜脱の意思でしょう。
判決ではわざわざ「令状主義の精神を没却するような」とありました。つまり,令状主義潜脱の意思があると認められれば違法は重大であるといえるわけですね。
排除の相当性
排除の相当性は個別具体的に考えるものであるとされています。よって事件の重大性や証拠の重要性を検討することになります。
違法収集証拠排除法則のまとめ
以上をまとめると以下のような図になります。
ポイントは違法手続によって得られた証拠を排除するかどうかを検討する問題点であり,その際は手続の違法の重大性と排除の相当性を考える点です。
この当たり前とも思われる点が以降の違法性承継論と毒樹の果実論で重要になってくるのでしっかり押さえましょう。
違法性承継論の考え方
違法性承継論の適用場面
次に,違法性承継論についてみてみます。違法性承継論とは,先行手続→後行手続→証拠という流れをとった場合に先行手続について違法性がみられる場合の問題です。
たとえば違法な職質(先行行為)の後に任意同行後任意提出(後行手続)された物の証拠能力が問題になる場面などです。
普通に考えれば,後行手続は適法な過程を経ているので違法収集証拠排除法則の適用場面ではないように思われます。
しかし,先行手続の違法性が後行手続にも影響を及ぼし,後行手続も違法とされる場面があるのです。詳しく考え方を見ていきましょう。
違法性承継論の視点
違法性承継論であっても違法収集証拠排除法則が基礎にあります。もう一度,基本的な形をみてみましょう。
違法収集証拠排除法則はあくまでも証拠物の直前の手続(後行手続)についての①違法の重大性②排除の相当性をみていることがわかりますね。
ここがよく勘違いしやすいポイントだな。
先行行為の違法性とかをみるんじゃなくてあくまでも違法収集証拠排除法則は証拠物の直前の手続(後行手続)を基準にするんだ。
ただし,違法性承継論は先行手続に明らかに違法性がある場合なので,先行手続の違法性の影響が後行手続に及んでいるのかどうかを合わせて考える必要があります。
及んでいるのであれば後行手続の違法の重大性や排除の相当性の考慮要素として機能するためです。
よって,先行手続と後行手続の関連性をみるわけです。判例ではこの関連性を「同一目的・同一利用」で考えているものもありますが,この基準に限られるわけではないと思います。あくまで先行手続と後行手続の関連性が高ければ(因果性が高ければ)違法性の承継が認められるのです。
違法性承継論の考え方のまとめ
以上より,違法性承継論の考え方としては以下のような基準を立てることができると思います。
②後行手続の違法の重大性
③後行手続の排除の相当性
毒樹の果実論の考え方
毒樹の果実論の適用場面
まず毒樹の果実論の適用場面を確認しましょう。
違法収集証拠をもとにした手続(適法)により得られた証拠の証拠能力について問題になる場面です。
違法性承継論と毒樹の果実論の適用場面は,違法な手続からの後行手続か,違法な証拠からの後行手続か,という違いがあります。
毒樹の果実論の考え方
毒樹の果実論でも,あくまで違法収集証拠排除法則をもとにするので,後行手続の違法の重大性と排除の相当性を基準とします。
この図が基本だということです。
ただし,一見,後行手続(毒樹の果実論の場合は通常,令状請求手続)は適法にみえます。しかし,疎明資料となった証拠は違法収集証拠なので,この証拠の違法性が後行手続に影響を及ぼすかが問題になるのです。
毒樹の果実論の場合はあくまでも後行手続の判断に徹します。そして後行手続の違法の重大性・排除の相当性の判断の過程の中で先行手続の違法性,違法収集証拠と後行手続の関連性を考慮するのです。
違法性承継論とは異なり,別の基準として先行手続と後行手続の関連性を立てていない点に違いがあるといえるでしょう。
そうはいっても,違法性承継論と毒樹の果実論って結局考慮している要素はほとんど一緒ではないんですか?両者にあまり違いはないような……
いいところに気が付いたね。実は両者の考え方はほとんど同じだね。
違法性承継論と毒樹の果実論は実質的に同じものであるとする学説もあるくらいなんだ。
毒樹の果実論の考え方のまとめ
以上より,毒樹の果実論の考え方としては以下のような基準を立てることができます。
②後行手続の排除の相当性
まとめ
以上,違法収集証拠排除法則についてみてきました。違法性承継論や毒樹の果実論といった応用パターンもあるので大変かと思います。ポイントはどちらも違法収集証拠排除法則の基本的な考え方=証拠の直前の手続の違法の重大性・排除の相当性を考えているという点です。勘違いしやすい点なので注意しましょう。
さて最後に違法収集証拠法則の根拠について覚えていますか?条文がないので忘れやすいですよね。最後にこの根拠について確認して終わることにします。
②違法捜査抑止論:将来の違法捜査の抑止
③適正手続論:正義に反する(憲法31条)
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事訴訟法の参考文献として「事例演習刑事訴訟法」をお勧めします。はじめての方にとっては解説が大変難しい問題集ですが,非常に勉強になるものです。また,冒頭にあります答案作成の方法について書かれた部分については,すべての法律について共通するものなのでぜひ読んでほしいです。自分も勉強したての頃にこれを読んでいれば……と公開しております。
最初は学説の部分はすっとばして問題の解答解説の部分だけを読めばわかりやすいと思います。冒頭の答案の書き方の部分だけでも読む価値はあるのでぜひ参考にしてみてください。