罪数がいまいちわからないわ。
たしかに罪数を苦手にしている人は多いな。特に初学者は気にしてしまうかもしれないね。けれど、罪数って実は正解がないと意識しておくことも大事だぞ。
罪数に正解はない……?どういうことですか?
罪数処理は一人が複数の犯罪を犯している場合は必ず検討する必要があります。しかし初学者の方は苦手としていることが多いです。次第に刑法を勉強していけば、各論の理解も相まって慣れてきます。
そのため、今のうちはあまり罪数に卑屈になる必要はないでしょう。とはいえ、論述でほぼ確実に書く必要のある項目なので最低限の理解は必要です。
ここでは最低限の理解を得てもらうという方針で、罪数論について書いていきたいと思います。
罪数論のポイント
罪数論で一番念頭において欲しいのは、
明確に定められた答えはない
という点です。どうしても罪数論だと「併合罪」でなければいけないんじゃないか、とか「包括一罪」にしないとダメじゃないか、というような正解を追い求めてしまいますが、意外と学説の対立もあり明確に定まっていない場合が多いです。
逆に言えば、論理的に罪数処理をしていれば、よほど変な処理でない限り間違いとはなりません。論拠付けが大事というわけですね。
以下では、それぞれの処理方法について、論拠付けを中心に解説していきます。
①観念的競合の処理方法を押さえる。
②牽連犯の処理方法を押さえる。
③包括一罪の処理方法を押さえる。
④法条競合の処理方法を押さえる。
それでは見ていきましょう。
観念的競合の処理方法
観念的競合は刑法54条1項前段
(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
刑法54条1項前段は観念的競合を規定しています。この際、必ず「前段」まで含めるようにしましょう。刑法54条1項後段は牽連犯と全く別の処理方法になるからです。
観念的競合は一個の行為で二個以上の罪名の場合
観念的競合は、1個の行為で2個以上の罪名に触れる場合の処理方法です。条文からすぐにわかると思います。
これだけ覚えれば大丈夫でしょう。一つの行為で2つ以上の結果(犯罪)が発生しているかどうかを見るのです。
たとえば具体的事実の錯誤でやった改造びょう打銃事件を覚えていますでしょうか?
この場合、Xに対する殺人罪とYに対する殺人罪が成立しました。この罪数処理について考えてみましょう。
甲がした行為は銃を撃つという1個の行為です。その1つの行為からX殺人とY殺人という2個以上の罪名が成立しています。なお、殺人罪は生命に対する罪であり、生命は個々人により判断されるのでX殺人とY殺人をまとめることはできません。別々の犯罪として2個として扱います。
よって、1つの行為で2個以上の犯罪が成立した場合であるから、観念的競合(刑法54条1項前段)という処理になるのです。
観念的競合(刑法54条1項前段)の論述方法
論述で使う際の論拠付けも条文に従って以下のように書いておけばよいでしょう。
〇〇という1つの行為で〇〇罪と〇〇罪……が成立しているので、観念的競合(刑法54条1項前段)となる。
牽連犯の処理方法
牽連犯は刑法54条1項後段
(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
牽連犯は刑法54条1項後段に規定されています。前述のとおり観念的競合(刑法54条1項前段)との区別のために、必ず「後段」まで含めるようにしてください。
牽連犯は住居侵入or文書偽造→偽造文書行使の場合のみ
牽連犯が登場するのは、基本的に住居侵入罪がある場合と文書偽造罪から偽造文書行使罪が成立する場合の2パターンしかありません。
基本書等には述べられていませんが、刑法を数年勉強している者なら大体予想される結論だと思います。この2パターン以外でも牽連犯を使う場合はありえますが、その場合は学説上の対立があったりと明確に定まっていない場合が多いです。
つまり、住居侵入罪、文書偽造→偽造文書行使の場合には必ず牽連犯でないと間違いになるが、それ以外の場合で牽連犯を使う場面はほぼないといってよく、使う場合は慎重に丁寧に論拠付けて使わなければならないというわけです。そのため、住居侵入、文書偽造→偽造文書行使以外の場合には牽連犯を使うのを避けた方がいいかもしれません。
自分であれば、住居侵入、文書偽造→偽造文書行使以外では併合罪、包括一罪などを使うようにしています。
住居侵入はかすがい現象を押さえる
住居侵入罪(刑法130条)について詳しくは以下の記事が参考になると思います。
住居侵入罪から犯罪が成立する場合はすべて牽連犯の関係になると考えておいてよいでしょう。
住居侵入から強盗や住居侵入から殺人、住居侵入から傷害、住居侵入から放火など、すべて牽連犯です。
また牽連犯にはかすがい現象というものがあります。本来、併合罪関係にあるものでも牽連犯が成立すると一罪として扱われるというものです。
X殺人とY殺人は別のものでしたが、これが住居内で行われている場合には、住居侵入罪→X殺人・Y殺人が行われているということになり、住居侵入罪、Xに対する殺人罪、Yに対する殺人罪について牽連犯が成立するといえます。本来別々に処理されるはずのX殺人とY殺人が、牽連犯という関係によってまとめて処理されていることがわかると思います。
文書偽造罪→偽造文書行使罪は牽連犯
文書偽造罪が成立する場合、その文書は行使されている場合がほとんどなので、偽造文書行使罪も成立するでしょう。
文書偽造罪、偽造文書行使罪については以下の記事をご覧ください。
偽造したことによって行使しているから牽連犯関係に立つということですね。大した理由はないです。覚えた方が楽だと思います。
牽連犯(刑法54条1項後段)の論述方法
論述で使う際の書き方例を書いておきます。繰り返しになりますが、牽連犯は住居侵入罪の場合と文書偽造→偽造文書行使の場合しかほぼ使われません。
住居侵入罪と〇〇罪……とは手段結果の関係にあるから牽連犯(刑法54条1項後段)となる。
文書偽造罪と偽造文書行使罪とは手段結果の関係にあるから牽連犯(刑法54条1項後段)となる。
包括一罪の処理方法
包括一罪に条文はない。まとめて一つにしているだけ。
包括一罪は刑法に条文がありません。罪数の処理方法として例外的に認められている方法ということになります。
包括一罪を簡単にいうと、別々の犯罪をまとめて一つにしているだけという処理方法です。
ではどういう場合にまとめられるか気になりますよね。法益侵害や行為が似ているかどうかを考えるとするのが一般的でしょう。
法益侵害が似ていたり、行為が似ている場合には別々の犯罪でも1つの犯罪としてまとめられる、重い犯罪の方に吸収される場合が多いです。
また、他にも手段目的関係、原因結果関係、時間的場所的近接性、保護法益などから一体性を考慮している場合が多いように感じます。
なお繰り返しになりますが、住居侵入罪での手段目的、原因結果関係はすべて牽連犯となり、文書偽造罪→偽造文書行使罪は手段目的関係、原因結果関係、保護法益が同一ですが、包括一罪ではなく牽連犯となります。この2つの場合は特別に牽連犯となるということです。
包括一罪は慣れーその際のコツを紹介
法益侵害や行為から一体性を考える、という基本観念を押さえたら、どのような場合にまとめられるかは慣れになります。
問題演習を積んで意識していくしかありません。
慣れといわれても、そんなものわからないよ!
しょうがないなー。ならコツを少し教えておこう。
悩むべきは包括一罪か併合罪かだと思います。観念的競合や牽連犯はわかりやすいからです。
包括一罪にするか、併合罪にするか、で明確な正解はありません。学説によっては包括一罪であると述べる人もいれば併合罪と述べる人もいるという場合がほとんどだからです。
重要なのは、なぜ包括一罪にするのか、なぜ併合罪にするのか、論拠をしっかり説明できることです。
自分自身が、複数の罪について法益侵害や行為より一体性が認められると考えれば包括一罪でいけばいいですし、認められないと考えれば併合罪にすればいいでしょう。
また、裁判官側の視点になってみるのもおすすめします。すべての罪を併合罪にして、被告人にかわいそうじゃないかな?まとめてしまうと被告人には軽すぎないかな?という視点です。
まとめるかまとめないかは究極的には裁量によるところなので、きちんと自分なりの論拠付けができる方を選びましょう。
包括一罪の論述の書き方
あくまでも一例ですし、包括一罪にはいろいろなパターンがありますので問題演習を積んで慣れていきましょう。
〇〇罪と△△罪について、両罪の法益と行為より一体性が認められるから、包括一罪として〇〇罪は吸収され、重い罪である△△罪のみが成立する。
法条競合の処理方法
ほぼ出題されない法条競合
法条競合は刑法上に規定がありません。さらに出題されることはほぼありません。その理由を説明していきます。
まず法条競合と包括一罪の違いです。包括一罪は別々の犯罪を特別にまとめているものでした。一方で法条競合は構成要件で見ても結局は同じ犯罪というものです(法益侵害結果が1つということです)。
つまり、罪責の検討段階で法条競合は一掃されるのが通常です。構成要件検討の段階で1つの法益侵害に対して1つの罪名を定めようとしているのが罪責の検討なのですから当然ですね。
法条競合の例としてよく出されるのが、保護責任者遺棄罪と遺棄罪です。これは構成要件検討段階で保護責任者遺棄罪であれば、保護責任者要件も検討しているはずなので、遺棄罪が別個成立すると通常は考えません。構成要件検討段階で遺棄罪の成立(法条競合になるような場合)は排除されているというわけです。
もし後になって法条競合が判明した場合は罪責検討の段階がしくっているといえるでしょう。もし法条競合関係にある場合には、「自分は罪責認定の段階でちょっとしくったんだな~」と思いながら罪数処理の段階で調整する(一つの犯罪成立にする)ようにしましょう。
併合罪の処理方法
併合罪は刑法45条前段
(併合罪)
第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
併合罪は刑法45条前段に規定されています。この際必ず「前段」を入れるようにしましょう。「後段」も併合罪なのですが、処理方法が異なるので、必ず刑法の論述の際の併合罪の場合には刑法45条前段の「前段」まで入れてあげてください。
罪数処理の原則は併合罪
併合罪が一番罪数処理で出題されます。というか基本は併合罪です。ではなぜ最後に取り上げたか?
それは原則が併合罪であるから、観念的競合、牽連犯、包括一罪すべて成立しなかった場合の例外を最初に考えるためです。併合罪はあくまですべての例外が当てはならなかったときの受け皿的立ち位置なので罪数の検討手順としては最後に検討することになりますし、併合罪が成立しないということはありません。
観念的競合、牽連犯、包括一罪が成立しなくても、他はすべて併合罪が守ってくれる、そんな優秀な存在が併合罪なのです。
併合罪(刑法45条前段)の論述方法
併合罪は原則的なものなので特段の論拠を述べる必要はないと思います。付け足すとしたら以下のような文言になるでしょうか。
〇〇罪と△△罪は、手段結果の関係にないから、併合罪(刑法45条前段)となる。
まとめ
以上、罪数論について解説していきました。
繰り返しになりますが、罪数処理に正解はなく、学説でも結構対立があるという点は知っておくといいと思います。初学者は特に完璧な正解があると思いがちですがそういうわけではありません。
自身の論拠に沿ってしっかりと説明できていれば罪数は大丈夫でしょう。住居侵入や文書偽造→偽造文書行使で牽連犯を使わないのはさすがにまずいですが……。
検討手順は以下の通りになります。参考になれば幸いです。
- 手順1牽連犯を考える
住居侵入罪や文書偽造→偽造文書行使罪である場合は必ず牽連犯
- 手順2観念的競合を考える
1つ行為で罪名が発生している場合には観念的競合を疑う。
- 手順3包括一罪を考える
法益侵害や行為から一体性が認められるかどうかを考える。自身の考えでよい。
- 手順4併合罪を考える
基本的には併合罪である。ほとんどの場合には手順1~3は満たされず併合罪が成立する。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。