会社法429条の議論に終結を!わかりやすくまとめてみた【会社法その7】

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法上向

取締役の責任で一番考慮する論点が多いのが対第三者責任だな。

たしかに,いろいろな議論があって結局のところよくわからないんですよね。

 

 

法上向

錯綜した論点議論に終止符を打つことにしよう!

取締役の対第三者責任(429条)は論点が多く,結局よくわからないで終わることがあります。今回は対立する議論たちに正面から向き合わず(笑),わかりやすくまとめることを目指して書いていきたいと思います。

取締役の第三者に対する責任のポイント

取締役の第三者に対する責任(429条)は,取締役の会社に対する責任(423条)と同様に会社法ではよく出てきます。さらに,429条は423条と違って,取締役が誰かについても議論があるのでやや難解です。今回もポイントに沿って進めたいと思います。

①取締役の第三者に対する責任について判例から理解する。
②第三者の範囲について理解する。
③取締役が名目的取締役の場合を理解する。
④取締役が退任した取締役の場合を理解する。

取締役の第三者に対する責任は判例が重要!

条文429条1項の場所は覚えよ!

取締役の第三者に対する責任(429条1項)の条文は以下の通りです。

(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
一見簡単に見える条文ですが,法律の条文は簡単に見えるほど奥深いということで,さまざまな議論がなされてきました。特に大事な議論は直接損害と間接損害どちらを規定したものか,という議論です。

直接損害とは,役員(とりあえず取締役と考えておけばオッケーです)が第三者に対して損害を生じさせた場合であり,間接損害とは役員の行為が会社に損害を与え結果として第三者に損害が生じたパターンですね。楽な覚え方を下に挙げておきます。

〈直接損害〉
取締役の行為→第三者の損害
〈間接損害〉
取締役の行為→会社の損害→第三者の損害

とりあえずは,429条が取締役の対第三者責任を規定している。423条(対会社責任)と近いところにあるんだなーっと思ってもらえば大丈夫です。

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対会社の責任である423条については大丈夫だよな?

 

さらに,取締役の行為がもし取締役会で決定されていれば,その取締役会に参加していた取締役も責任を負う可能性があることにも注意が必要です。条文の「その職務を行うについて」というのは広いということですね。といっても,悪意重過失で否定されることもあるので注意しましょう。

429条は判例をしっかり理解すべし

議論が錯綜してる中,判例が結論を出しました。この判例はこれまでの議論を解決に導くものなので判例の要点を押さえるのが429条攻略の近道です!

最判昭和44年11月26日判決
①429条は民法709条とは異なる特別の法定責任を定めたものである。
②429条は民法709条と競合する。
③直接損害・間接損害どちらも適用対象。
④429条の悪意重過失とは会社に対する任務懈怠について必要。
この4点は重要なのでできれば覚えたいところです。重要なのは③④ですね。
これまでの学説の議論であった③直接損害・間接損害を429条はどちらも含む,というのは必ず覚えてください。

さらに注目は④です。これは勘違いしやすいです。取締役が第三者に直接損害を与えた場合を考えてみましょう。第三者に質の悪い商品を与えた場合などですね。その場合,普通は第三者に対する加害行為についての悪意重過失と考えてしまうと思います。しかし判例はその立場をとらないのですね。

ここで学者たちは考えました。「どう説明しようか?」と。

これについては,取締役は会社の再建や倒産処理等を検討する義務がありそれに違反している=会社に対する任務懈怠と考えるのが有力となっています。なかなか苦しい説明ですね。まぁ,判例は神なので仕方ありません(泣)。

429条を考える際はしっかり上記判例を意識しましょう。

取締役の第三者に対する責任は429条を見る。
さらに,判例を意識する。特に直接損害も間接損害も含むこと,悪意重過失は会社に対する任務懈怠についての悪意重過失であることを忘れない!

間接損害の第三者に株主は含まない!

これはタイトル通りです(笑)。

たとえば会社が経営に失敗して株価が下がったとします。これに対して株主が「会社の株が下落して損害を被ったんじゃ。何やっとんじゃい!損害を賠償しろー!」と主張してくることが考えられます。これは取締役の行為→会社の損害→第三者の損害の流れをとるので間接損害ですね。

間接損害の場合,429条の第三者に株主は含まないとされます。理由はいくつかありますが,株主は株主代表訴訟を提起できることや,もし株主からの責任追及を認めると取締役は423条責任と429条責任どちらも負うことになり不合理であることの2点を覚えておけばよいでしょう。

ここで間違いやすいのは株主が取締役の行為によって直接損害を負った場合は429条で責任追及可能だということです。たとえば取締役に騙されて株を買ってしまった場合などですね。取締役の行為→第三者の損害なので会社の損害を挟まず直接損害といえます。注意しましょう。

間接損害で株主が損害を被ったとしても429条は使えない。

名目的取締役も429条の責任を負う

ここもサクッといきましょう。名目的取締役も429条の責任を負います。名目的取締役とは名前だけの取締役のことです。幽霊部員みたいな人のことですね(笑)。

この人は責任がないように感じるかもしれませんが,現在の会社法では責任追及されると考えるべきです。理由はいろいろありますが,ここでは取締役という名前を使っている以上責任を負いなさい!と考えておけばよいでしょう。嫌なら辞任してください,というわけです。いつまでの幽霊部員のまま残るな!ともいえますね(笑)。

名目的取締役も429条の責任を負う。

退任した取締役は明示的に承諾を与えたか

最後に退任した取締役です。これは少し注意が必要です。登記の問題がかかわってくるからです。普通に考えれば退任しており現在は取締役ではないので,429条の責任は負いません。しかし,退任登記がある場合がよくあります。

登記と聞いた時点で思い出してほしいのが908条2項類推適用の権利外観法理です。権利外観法理について忘れた人は以下の記事を参考にしてください。

退任したときは退任登記をする必要があります。退任登記をしていない場合,第三者は登記を信じたと主張して退任取締役も取締役として扱うことが可能になり429条の責任追及できるのでは,と考えることができるのです。

ここで判例が結論を出しました。最判昭和47年6月15日の判例です。詳細は避けますが,ここでは退任登記を残すことについてを明示的に承諾を与えていた場合は責任を負うとされました。つまり,明示的に承諾を与えていない場合は登記が残されていたとしても責任は負わないということです。たしかに,部活をやめた選手が「選手名簿から自分の名前を抜いてください」と顧問にお願いする,というのは難しそうですもんね(笑)。

退任した取締役は退任登記を残すことについて明示的に承諾をした場合に限り429条の責任を負う。

まとめ

以上,429条の判例といろいろな取締役が該当することなどを見てきました。この他も事実上の取締役が429条で該当したりと429条は広く問題が散らばっています。この記事が皆さんの勉強の一つの参考になればうれしいです。

①取締役の第三者に対する責任は429条を考える。条文だけでなく判例も理解しておく必要がある。とくに直接損害と間接損害どちらにも適用され,会社に対する任務懈怠についての悪意重過失が問題となることに注意。
②間接損害の場合の第三者に株主は含まない。
③名目的取締役や明示的に登記を残すことを許諾した退任後の取締役も責任を負う。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

会社法の基本書はどれも難解だと思います。問題で論点をつかみながら理解するとよいです。そのため解説の詳しい問題集を載せておきます。参考にしてみてください!

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