いよいよ、債務不履行による損害賠償という債権総論の大きな論点に入っていこう。
なんか、債務不履行の損害賠償って言っていることはわかるんですけど、学説の対立もあって頭に入ってこないんですよね。
そうだね、基本書とかでは変に学説の対立を述べていて、結局どう考えればいいのかわからないことが多いよね。
ここでは判例・通説にしたがってわかりやすい考え方をとっていこうと思う!
債務不履行による損害賠償は、債権総論分野での大きな論点です。しかし基本書をみてもわかるように結局どう考えればいいのか、よくわからない分野でもあります。
私自身も、債務不履行による損害賠償は一時期、適当に過ごしていました。なんとなくで答案を書いていた感じです。しかし、そんな感じでは答案を書いていても、これが本当にあっている考え方なのか自信がもてないんですよね。
そこで、今回は判例・通説に従って、できるだけわかりやすく簡潔に迷わない画一的な考え方を提示していこうと思います。
少数説を知りたい、とりたい方は基本書等で確認をお願いします。
債務不履行による損害賠償の考え方
債務不履行による損害賠償には、学説によって要件が異なるという最初の問題点があります。この点、わかりやすい説にとって話を進めていきます。具体的にいうと、要件に「債務不履行」が必要であるという説です。
もう一つの通説は「債務不履行」は必要ではなく、民法412条3項を基礎として「催告」「催告後相当期間の経過」を必要とする説なのですが、この説をとると、沼にはまってしまうと思います。
いかに簡潔にわかりやすく理解するかが債務不履行の損害賠償のおすすめの勉強法なので、
今回は「債務不履行」を要件の一つとして考えていきます。なお、文末に掲げる参考文献「民法4 債権総論(有斐閣ストゥディア)」もこの説なので安心してください。
そのほかの点は判例・通説にとって、差額説、相当因果関係説でいきます。
また、この回では民法415条1項による損害賠償について解説していきます。次回は民法415条2項(填補賠償)についての解説です。
①債務不履行による損害賠償要件と考え方を押さえる。
②債務の発生について理解する。
③債務不履行について押さえる。
④損害の考え方を理解する。
⑤債務不履行と損害の因果関係の考え方を理解する。
それでは見ていきましょう。
債務不履行による損害賠償(民法415条1項)の要件
債務不履行による損害賠償の要件とは
債務不履行による損害賠償を学習するにあたって、最初に押さえておきたいのは要件です。要件とは、簡単にいえば、事実のことで、すべての要件(事実)を主張すれば、その要件に基づく効果を発生させることができます。
つまり、債務不履行による損害賠償の要件をすべて満たすと、損害賠償をすることができます。ようは要件を満たしているかどうか考えることが債務不履行による損害賠償を理解するコツというわけです。
さて、債務不履行による損害賠償の要件を、出し惜しみをせずここで示しておきます。
〈債務不履行による損害賠償の要件(民法415条1項)〉
①債務の発生
②債務不履行
③損害・額
④②と③の因果関係
この4つはしっかり覚えましょう。
①債務の発生→②債務不履行→③損害・額→④②と③の因果関係という流れを意識するのです。
そのうえで、条文を見てみましょう。
債務不履行による損害賠償の条文は民法415条1項
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
民法415条1項が基本的な損害賠償の条文です。2項は民法415条1項による損害賠償の進化系です。とりあえず今回は民法415条1項の損害賠償を考えていきます。
条文をみただけでも、債務不履行と損害の要件を導くことができます。
あとは「債務不履行」があるということは「債務が発生」していることが必要であり、
「損害」と「債務不履行」の間には「因果関係」が必要、ということを覚えておけば、
債務不履行による損害賠償の要件は①債務の発生②債務不履行③損害④②と③の間の因果関係という要件を導き出せるというわけです。
債務不履行による損害賠償の反論
債務不履行による損害賠償権を使うには、①債務の発生②債務不履行③損害④②と③の間の因果関係という①~④の要件を主張するんでしたね。
これに対する、相手方の反論(抗弁)は何が考えられるかわかりますか?
実はこれも条文に載っています。もう一度、民法415条1項を見てみましょう。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
民法415条1項ただし書ですね。
債務者の責めに帰することができない事由(帰責事由不存在)が相手方の反論となります。
つまり、「あなたは私に損害賠償を請求するけど、債務不履行は私のせいじゃないですよ」という反論です。この帰責事由があるかどうかは条文に書かれているとおり「契約や社会通念」によって判断されます。
民法改正によって変わった部分なのでしっかり意識しましょう。
っていっても、どういった場合に帰責事由不存在かわからないんですけど。
たしかに、基本書とかでも「契約や社会通念によって帰責事由がない場合には損害賠償請求は認められない」と書かれているだけで、具体的にどういった場合が帰責事由不存在になるかどうか書かれていないな。具体的をあげてみようか。
さて、多くの初学者の方が悩まれるのが、どういった場合に相手方の反論(帰責事由不存在)が使えるかどうかです。
具体例を教えろ!
ということですね。
「はじめての債権総論シリーズ」では、学生目線をモットーにしていますので、ちゃんとお教えします!
民法415条1項ただし書(債務不履行帰責事由不存在)になる代表的な場面というのは
不可抗力(天災など)で債務不履行になった場合・債権者のせいで債務不履行になった場合
のことです。もちろん、最終的には契約内容や社会通念により決まるのですが、天災や債権者のせいの場合にはほぼ民法415条1項ただし書が認められると考えればよいでしょう。
台風で債務不履行になったり、債権者が壊したなどで債務不履行になった場合には、相手方は民法415条1項ただし書が使えるため、債務不履行による損害賠償ができないことになります。
まとめ
以上、債務不履行による損害賠償の要件をみて考え方を学んでみました。もう一度おさらいしてみましょう。
①債務不履行の要件は㋐債務の発生㋑債務不履行㋒損害㋓㋑と㋒の間の因果関係である。
②相手方からは、債務不履行帰責事由不存在の反論(抗弁)が可能である。具体的例としては不可抗力(天災など)や債権者のせいで債務不履行になった場合があげられる。
債務不履行(民法415条1項)による各要件を検討してみる
さて、債務不履行の要件を押さえられたところでもう少し各要件を深堀してみましょう。
①債務の発生
債務の発生で代表的なものは契約です。基本的に契約があるということは債務が発生していることを意味します。
②債務不履行
債務不履行は前回で詳しく説明した。詳しく確認したい方は下の記事をご覧ください。
代表的なものには履行遅滞と履行不能がありました。なお、損害賠償請求では履行不能の場合は基本的に民法415条2項(填補賠償)を用いるので、今回勉強している民法415条1項による損害賠償の基本的な債務不履行は履行遅滞と考えておけば大丈夫でしょう。
契約では基本的に履行期が定められてるため、履行期と履行期の経過を主張すれば履行遅滞の立証ができます(民法412条1項)。
難しいと感じる方は、民法415条1項の債務不履行の要件の代表は履行遅滞だということだけ覚えておけば大丈夫でしょう。履行遅滞とは履行期に遅れることです。
③損害
損害の考え方については対立がありますが、判例通説は差額説をとっているので、以下差額説に沿って説明していきます。
損害とは、利益状態の差です。債務不履行がなかった場合と債務不履行となっている現状との利益状態(お金)の差を考えることになります。
たとえば、本来ちゃんと目的物の引渡しが履行されていれば、転売して10万円得られていたのに、履行がされないために得られなかったとなれば、損害は10万円ということになります。
これを言い出すといろいろな損害が発生するということもなんとなくわかってくると思います。ちゃんと履行されていれば100万円得られたし、得られた金額で宝くじを買えば1億円当たったし、株価が上がって1000万円得られたし……
「だから3億くらい損害があるわー」
というような感じですね。
しかし、債務者からすれば、本当にその損害って債務不履行と関係ある?と思うはずです。そのために因果関係の立証もしなければいけないわけですね。
④債務不履行と損害との間の因果関係
この因果関係については民法416条がありますので、条文に沿って確認してみましょう。
(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
少しわかりにくい条文ですが、考え方を整理していきます。
まず民法416条1項は通常損害を規定したものとされています。通常損害とは、その契約でその債務不履行であれば通常発生するよね、という損害です。これは社会一般によって判断されます。
次に民法416条2項は特別損害を規定したものとされています。特別損害は通常損害ではない損害のことです。特別損害であっても、「当事者が予見すべきであった場合には」因果関係が認められるというわけです。
これを判例通説は当事者=債務者、事情=損害のことと考えているので、「債務者が予見可能であった損害」であれば特別損害であっても因果関係を認めるということになります。
実をいうと、この通常損害か特別損害かという事情はあまり重要ではありません。結局は因果関係が認められるかどうかの判断基準に過ぎないからです。
より覚えておきたいポイントとしては、債務者が予見可能であった損害は因果関係が認められるという点です。通常損害に因果関係が認められることは誰でもフィーリングで分かります。因果関係が問題になるのは、「損害に含めてよいかよくわからない場合」です。この場合は「債務者が予見可能であったかどうか」を考えるというわけです。
先ほどの宝くじの場合には「債務者が予見可能」であったとはいえないので含まれないでしょう。株価も同様だと思います。もちろん、最終的には債権者の特徴や契約内容によっても「予見可能であったかどうか」で変わってきます。
まとめ
債務不履行による損害賠償についてみてきました。いかがだったでしょうか。
ポイントはやはり要件です!債務不履行による損害賠償の要件が言えるようになれれば、あとは演習を積むだけなので心配することはありません。
債務不履行による損害賠償(民法415条1項)の要件を言えますか?
〈債務不履行による損害賠償の要件(民法415条1項)〉
①債務の発生
②債務不履行
③損害・額
④②と③の因果関係
でしたね。しっかり覚えるようにしましょう。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
債権総論では初学者にもおすすめのとてもわかりやすい基本書があります。有斐閣ストゥディアの債権総論です。
改正民法に完全対応ですし、事例や図解、章ごとのまとめもあるのでとてもわかりやすい基本書になっています。ぜひ読んでみてください。