民法をはじめて勉強するんですけど,教科書とか問題集とか全部改正前のものなんですよねー。
しかし,改正民法に対応している教科書や問題集は少なく,なかなか勉強しにくい状況にあります。さらに,改正民法をわかりやすくまとめたものもあまり見かけないように感じます。今回の「はじめての民法総則シリーズ」では,改正民法をわかりやすく,どいう言う点に注意していけばいいか説明していこうと思います。
心裡留保と通謀虚偽表示は民法学習の最初のステップ
今回取り上げるのは,心裡留保と通謀虚偽表示です。えっ,なぜ権利制限能力者からじゃないんですか?といわれるかもしれません。普通の教科書では権利制限能力者から解説していくことが多いからです。
しかし,権利制限能力者は学習が大変な割に試験に出ることが少なく,また,出たとしても未成年でほぼすべての行為が取り消せるんですよ,っていう程度なので,本記事の趣旨の体系的に理解することから少し外れてしまします。なので,権利制限能力者等はあとでやるとして,試験に出やすく民法の考え方の基礎となりやすい心裡留保・錯誤から勉強していくのがよいと思ったわけです。
心裡留保・錯誤のポイントは以下の通りです。
②通謀虚偽表示について理解する。
③善意の第三者について理解する。
よって,試験等でも参照できる条文にそって理解できるかが民法理解のカギです。以下,条文を中心に説明していきます。
心裡留保は土下座事例を考えよ
試験に出やすい心裡留保・錯誤から勉強していきます,と言いましたが,実は心裡留保はほとんど出ません(笑)。私も会社法では少し見かけますが,民法で出ているのは見たことがないです。それくらい影が薄いやつです。しかし,会社法では出てくるし,もしかしたら(笑)出るかもしれないので,勉強しておきましょう。
心裡留保とは,①意思表示と内心の意思の不一致②その不一致を認識している場合です。
不一致からわかるように,錯誤に近いですが,自分自身が錯誤であると最初から認識している場合になります。なので錯誤ではありません。
条文は93条になります。
(心裡留保)第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
条文をみてもよくわかりませんよね。これを,表示と意思の不一致で,かつ表意者が不一致を認識していることと考えるわけです。真意とは意思のことであり,意思表示が表示のことですね。
よくわからないので,私は心裡留保をみたら,土下座事例を考えます。以下見ていきましょう。
Aさんは「やめます(やめるとは言っていない)。」という感じで,本心ではやめようと思っていませんでした。つまり,内心(やめない)と表示(やめます)が不一致ですが,あらかじめAさんはそのことを知っていたのです。
これは意外と日常でよくあることだと思いませんか?例えば,先生から怒られて「帰れ!」といわれたとき,これは先生は実際は「帰るな,ちゃんと反省しろ!」という意図を伝えたい場合が多いですよね。これも心裡留保的な関係に該当すると思います(厳密には法律関係ではなく事実関係に該当するので異なりますが…)。意思「ちゃんと反省しろ!」と表示「帰れ!」は不一致であるが,そのことを先生は意識しているからです。
私は,心裡留保!と言われたら土下座事例を考えてしまうわけです(笑)。では心裡留保の場合,どうなるかわかりますか?条文を見てみましょう。
「そのためにその効力は妨げられない」とありますよね。つまり,表示の効果は発生するというわけです。先ほどの土下座事例の場合はAさんは「やめる」が表示だったのでやめなければいけないことになります。先生事例だったら,先生は「帰れ!」と言っているので帰ることになります。
しかし,Aさんとしては驚愕です。誠意を示したつもりなのに,やめることになるなんて……。そこで民法はこうも規定しています。
「ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」
つまり,相手が意思と表示の不一致を知るか,知ることができた場合は表示は意味をなさないよ,と規定しているわけです。よって,上司がAさんが実は本意ではやめようと思っていないことを知っていれば,Aさんの「やめる」という意思表示の効果は発生しないということですね。
土下座事例でも,上記場合だと,Aさんは本心ではやめようとは思っていないことが一般的に推認されるのでAさんはやめなくてよいと思います。
民法93条2項はそれほど注意しなくてよいでしょう。善意の第三者等,通謀虚偽表示と重なるので,通謀虚偽表示の方で説明しますね。
通謀虚偽表示は通謀虚偽を考えればオッケー
続いて,通謀虚偽表示(民法94条)について解説します。通謀虚偽表示も,これが問題として出ることはほとんどありません。しかし,民法94条2項は頻繁に類推適用されます。そのため,仕組みを理解してい置く必要があるのです。
通謀虚偽表示は①表示と意思の不一致②通謀(意思があるよう装う合意)が要件となります。
(虚偽表示)第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
言っていれば,共同で悪だくみをするというような事例ですね。例えば,税金対策などでAとBで土地を売ったことにした場合(実際には売っていないので,意思=売らないことと表示=売ることが対応していないことになる。)などがあげられます。
これは悪だくみのために(=通謀して)行われたものなので,無効です。
善意の第三者は確実に覚えよ
心裡留保も通謀虚偽表示も2項で善意の第三者に対抗できないとされています。
善意の第三者について学説ではいろいろ言われているところではありますが,ここでは簡単に,知らずに取引関係に入った者と考えましょう。また,対抗できないとは,主張できないとざっくり考えることにします。
どういうことか?これは図を描いてみた方がわかりやすいので一緒に下の図で考えてみましょう。
AB間の土地の売買を考えます。AB間の売買契約は通謀虚偽表示でした。しかし,Bが裏切り,土地をCへ売ってしまいます。そして,CがAに対して,「俺はAB間で売買があったのを知っていて,Bから土地を買ったんだい。土地を渡せ!」と主張してきたとします。CはAB間の売買が通謀虚偽表示であったことを知りません。
この場合,Cは通謀虚偽表示を知らない(=善意)で新しく取引関係(=BC売買契約)に入った者といえます。よって,Aは善意の第三者に対抗できない(=AB間の売買契約が通謀虚偽表示で無効であったことを主張できない)ということになるのです。
これを定めたのが,94条2項です!
通謀虚偽表示を心裡留保(かつ相手方が悪意有過失であった場合)に置き換えれば93条2項になります!
この善意の第三者の問題は94条2項類推適用という形で頻繁に使うことになります。学説上もさまざまな議論が展開されていますが,各自参考書等で確認をお願いします。
まとめ
これまで,心裡留保と通謀虚偽表示についてみてきました。どちらもあまり使われないものですが,民法の考え方の基礎になっています。特に94条2項は頻繁に類推適用されるので,しっかり理解しましょう。
②通謀虚偽表示(94条1項)は㋐意思と表示が不一致㋑通謀が要件となる。
③93条2項や94条2項の善意の第三者とは,事情をしらないで新しく取引関係に入った者のことであり,対抗できないとは,主張できないことを意味する。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。改正民法対応でわかりやすいのでおすすめです。