新株予約権の判例を総解説!買収防衛策の考え方【会社法その15】

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新株予約権の判例ってポイズンピルとかライツプランとかよくわからない単語が満載ですよね。

法上向

新株予約権の判例は、それぞれの場面と考え方の違いを押さえればどうってことないぞ!詳しく見ていこうか。

新株予約権の判例は大きく2つあります。今回は主要なニッポン放送事件とブルドックソース事件を解説し、論述で出題される可能性のあるほかの場面については説明にとどめたいと思います。

新株予約権の判例(買収防衛策)の考え方

買収防衛策としての新株予約権発行とはどういう考えをもとにしているかをまず押さえましょう。その次に、主要な判例を押さえます。

判例を覚えただけでは論述で使うことができません。どのような場面での判例なのかを意識し、場面に分けて、どう考えていけばよいかを解説していきます。

①買収防衛策としての新株予約権の考え方を押さえる。
②有事の買収防衛策について理解する。
④平時の買収防衛策について理解する。

それではみていきましょう。

買収防衛策としての新株予約権の考え方

買収防衛策としての新株予約権発行とはどういうものか考えてみます。買収者が出てきたタイミングでの有事での買収防衛策敵対的買収者が出てくる以前の平時の買収防衛策があるのでそれぞれ見ていきましょう。

買収者が出現した段階での買収防衛策

まず、自身がある会社の代表取締役であると考えてください

敵対する企業があなたの会社の株を大量購入していることが判明しました。あなたはどういう対策をとりますか?

この対策として多くの判例で出てきているのが差別的条項を付けた新株予約権を発行するというものです。

たとえば、新株予約権無償割当てを行い、行使条件について当該買収者は行使できないとします。すると、買収者は新株予約権を無償割当てによって得ますが、行使できず、他の株主は行使するため、結果として持ち株比率が下がることになるのです。

また、買収者が現れた際に、新株予約権第三者割当て(特定の者に発行すること)を行い、その者の持ち株比率を上げることで、買収者の持ち株比率を下げるという方法もあります。

このように新株予約権の発行は買収者に対応するために利用することも可能というわけです。新株予約権は行使条件なども自由に柔軟に考えてよいため、利用しやすいわけですね。

買収者が出現する前の事前の防衛策

次に、買収者が出現する前にあらかじめ買収防衛策をとっておく方法です。

これも代表取締役の立場に立って考えてみてください

新株予約権は自由に条件を設定することができました。そのため、将来出てくるかもしれない買収者への対策として、新株予約権を発行し、その行使条件を「ある株主の持ち株比率が20%以上になったこと」と定めることもできるのです。

また、ある株主が20%以上になったら新株予約権無償割当てを行うが、20%以上の株主は行使できない」という警告をすることも可能です。

こう考えると、新株予約権がいかに柔軟に設定できるか、というのがわかってもらえると思います。

発行段階でも、行使段階でも自由に対策を練れるというわけですね。

買収者が出現した段階での買収防衛策

では、買収者が出現した段階での買収防衛策としての考え方を見てきましょう。

買収者に持ち株比率を与えたくないので、㋐第三者に新株予約権を発行したり、㋑株主全員に対する新株予約権無償割当てをして行使条件について買収者が行使できないようするといったものでした。

判例を確認してみましょう。

ニッポン放送事件(東京高裁平成17年3月23日決定)

㋐買収者が出現したのち、この者に対抗するため、第三者に対して新株予約権を取締役会決議により発行した事例です。

この事件で争点になったのは、

不公正発行として差止事由になるのではないか(会社法247条2号

結論として、このような買収防衛策は認められず不公正発行に該当し差止めが認められました(より正確にいえば差止めの仮処分が認められました)。

新株予約権は前回の記事でも言及したように資金調達という言い訳が通用しません。そのため、正面から買収者対策と主張したのですが、主要目的ルールより会社の支配維持目的として不公正発行に該当されたのです。

とはいってもグリーンメイラー(株価をつり上げて高値で会社に売りつけて利益を得ようとする悪い奴)の場合には防衛策を認められるとした点も知っておくとよいでしょう。ただし本事案については認められませんでした。

ブルドックソース事件(最高裁平成19年8月7日第2小法廷決定)

続いて超有名判例のブルドックソース事件をみてみましょう。

これも買収者出現後の有事の買収防衛対策が問題となった事案です。この事案では㋑株主全員に対する新株予約権無償割当てをして行使条件について買収者が行使できないようする、という方法がとられました。

この場合問題になるのは

①株主平等の原則違反(会社法109条)より法令違反として差止事由になるのではないか(会社法247条1号類推)
②不公正発行として差止事由になるのではないか(会社法247条2号類推)

というものです。

なお、新株予約権無償割当ての場合でも新株予約権差止め(会社法247条)は類推適用されるとなっているので覚えておくとよいでしょう。

新株予約権無償割当てなので取締役会決議で発行できますよね。けれど不公正発行や株主平等違反は明らかだからやはりこの買収防衛策もダメだったんでしょうね……。

法上向

実はそれが違うんだよ。上記2つのポイントに配慮した行為を行うことで差止めになるのを回避したんだ。差止めが認められなかった事例だぞ。

なんと、ブルドックソース会社はあることを行ったことで差止事由になるのを回避しました。その理由として判例では3つのことが指摘されています。

①取締役会決議で発行できるのに、あえて株主総会決議を行った。
②その株主総会は多数の参加者のもと圧倒的多数で可決された。
③買収者に対しては相当の対価が支払われた。

このような経緯がある場合には、株主平等の原則や不行正発行の観点を考慮しても、新株予約権無償割当ては必要性・相当性があるものとして認められたわけです。逆に言えば差止めは認められなかったわけです。

株主総会によって株主の圧倒的意思によって買収防衛策がとられ、さらに買収者には株の代わりに相当の金銭を支払うというフォローがなされている場合には、さすがに裁判所も、株主平等の原則違反だ!とか不公正発行だ!とは言えなかったわけですね。

判例はどう整理されるか

買収者が出現した後の買収防衛策について判例に基づくと以下の結論が導き出せると思います。

①取締役会決議で行う場合には差止めは認められやすい。
②株主総会で行う+買収者にフォローをしている場合には差止めは認められにくい。

以上の結論については学説上での細かく議論のあるところですが今回は省きます。①②の方向性は判例で形成されたものなのでしっかり押さえるようにしましょう。

買収者が出現する前の事前の防衛策

買収者出現前にあらかじめ買収防衛策をする方法㋐新株予約権無償割当てをし、行使条件をある株主が〇%以上になったこととする方法㋑事前に〇%以上の者が現れたら新株予約権を発行すると警告しておく方法などがあります。

特に㋑の方法は広く行われているものであり、事前に警告している場合にはそれほど問題はないでしょう

㋐の方法は差止めが認められるとした裁判例もあるので注意が必要です。

とはいえ、平時の買収防衛策については判例学説も見解の統一が見られていない節があります。経産省の方で買収防衛策に関する指針が出ているので気になる方はチェックしてみるとよいでしょう。

「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」要約

簡単に書くと以下のようになります。

平時の買収防衛策の指針

[指針]
①企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
②事前開示・株主意思の原則(株主総会の承認or株主の意思で廃止できる措置)
③必要性・相当性の原則(過剰なものとしない)
ex)株主の意思により消却できる条項や,取締役会の裁量権の濫用を排除するための措置(客観的な買収防衛策廃止条項や独立社会社の判断重視)等を採用する必要がある。

とはいえ、試験で出題されることは少ないでしょう。

まとめ

新株予約権の判例から買収防衛策についての考え方についてみてきました。

平時(買収者出現前)の対策は議論も煮詰まっておらず、あまり試験には出ないと思われます

出題されるとしたら有事(買収者出現後)の新株予約権発行です。

この場合は取締役会決議で発行するのか、株主総会を開いていろいろフォローするのかで判例上違いがみられるので、この点に注意して考えると方向性が合うと思います。

取締役会だと買収防衛策は認められにくく=差止めが認められやすく
株主総会だと買収防衛策は認められやすい=差止めが認められにくい

という方向性になります。もちろん個別事情考慮は必要です。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

会社法の基本書はどれも難解だと思います。問題で論点をつかみながら理解するとよいです。そのため解説の詳しい問題集を載せておきます。参考にしてみてください!

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