令状について、刑事実務基礎の観点から勉強したいんですけど、何を勉強すればいいんですか?
令状の要件は覚えているかい?
理由と必要でしたよね!
そうだね。合わせて令状を実務的に考える際には、特定・明示と関連性も考える必要があるんだ。詳しくみていこうか。
令状は刑事訴訟法でも学習した分野だと思います。刑事実務基礎からしても、令状の学習内容は刑事訴訟法と大して差はありません。
しかしながら、刑事訴訟法の復習&刑事実務基礎の観点から特に問題になる分野について学習することはプラスだと考えています。そのため、今回は令状を取り上げます!
令状のポイント
令状のポイントは、まず令状発付の要件を押さえることです。さらに実務でよく使われる「捜索差押令状」についても確認してみましょう。
その後、令状で特に問題になる、特定・明示・関連性についてみていくことにします。
①令状発付の要件を押さえる。
②捜索差押令状について知る。
③令状の特定・明示・関連性について理解する。
以上を見ていきましょう。
令状発付の要件
令状の要件の基本は理由と必要
令状の要件は何かと聞かれた際にまっさきに想定すべきは「理由・必要」です。これは逮捕の箇所でもやった通り、「証拠物がある・証拠物であるとする理由」と「公益上の必要性VS被侵害利益」のことです。
これは令状主義自体が憲法35条に規定されていることからもわかると思います。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
この図からもわかる通り、①が理由を②が必要性を表しますが、捜索であれ、差押えであれ、①②どちらの要件も求められているということがわかります。
令状の記載事項(刑事訴訟法219条)
令状の記載事項も刑事訴訟実務では頻出なのでしっかり確認していきましょう。刑事訴訟法219条になります。
第二百十九条 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
② 前条第二項の場合には、同条の令状に、前項に規定する事項のほか、差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、その電磁的記録を複写すべきものの範囲を記載しなければならない。
③ 第六十四条第二項の規定は、前条の令状についてこれを準用する。
ここでのポイントは
被疑事実の要旨は求められていない
という点です。逮捕の際には、罪名以外に被疑事実についての記載も求められていました。しかしながら令状は求められていません。
この理由は2つあります。覚えましょう!
〈令状の記載にて被疑事実の要旨が求められていない理由〉
①捜査の秘密
②被疑者等のプライバシー保護
被疑者のプライバシー保護という被疑者にとってプラスな理由と
被疑者が捜査証拠を隠さないように、という被疑者にとってマイナスな理由と
両方の側面があるという点を押さえておくとわかりやすいと思います。
捜索差押令状
刑事実務では捜索令状と差押令状のミックスバージョン、捜索差押令状が用いられることが多くあります。
捜索差押令状を見てみましょう。
「捜索すべき場所」→捜索令状の部分
「差し押さえるべき物」→差押令状の部分
を表します。
また、被疑事実の要旨がない点は確認してください。①捜査の秘密②被疑者のプライバシーの観点から逮捕の場合とは異なり、捜索差押令状では被疑事実の要旨の記載がないわけですね。
令状の特定・明示・関連性
令状について一番問題になるのは、令状と捜査範囲の問題です。令状が出されていたとしても、捜査機関が勝手に捜査を行っては意味がありません。
つまり、捜査機関の捜索・差押えと令状の捜索・差押え対象範囲が合致している必要があるわけです。
その点、特に重要になるのは、①捜索場所・差押物の特定②令状の明示(記載)③差押物の関連性です。以下これらの点についてみてみましょう。
①捜索場所・差押物の特定
上記捜索差押令状からもわかる通り、令状では捜索場所や差押物を特定する必要があります。
ただ漠然と捜索場所や差押物を記載してはダメ!ということです。
たとえば住宅であれば、住所はもちろんのこと、どの範囲か区画(階数や範囲)をしっかり特定する必要があります。
差押物であれば、例示列挙のようにしてある程度何なら差押えができるのかを示す必要があります。
なお、判例では具体的例示があれば「その他本件に関連する一切の物」という記載があっても「特定」の趣旨を満たすとされています。具体的例示から何が差押えできるかどうかがある程度判断できるためです。
②明示
明示は①「特定」に含めて考えられることもあります。
特に差押えの場合には、必ずその物が明示(記載)されている必要があるわけです。
たとえば、差し押さえるべき物が「メモ、ノート」としか書かれていないのに「鉛筆」を差し押さえることはできないわけです。それがたとえ犯罪に関係すると思料される場合であってもです!
③関連性
最後に、差押物や捜索場所は犯罪に関連しなければいけないという大前提を忘れないようにしましょう。
上記の例でいえば、
差し押さえるべき物に「メモ、ノート、鉛筆」とあったとしても、
これは犯罪とは関係しないでしょー、というような鉛筆は差し押さえることができない、というわけです。
まとめ
以上より捜索差押令状の場面では、実は
捜索場所→特定の要件で問題になりうる
差押物→特定・明示・関連性で問題になりうる
というオーソドックスな方向性があるというわけなんです。この点を意識して、刑事訴訟法を学習してもらうとより令状の理解が深まると思います。
そして令状の要件であった①理由②必要というのはほとんど問題としては関係してこないわけです。ここが実体法と実務の大きな違いともいえますね。
令状の要件の①理由②必要はほとんど問題としては出題されないんだねー。
そうだねー。というか令状は形式的に裁判官によって判断されるから、結局は実際の捜索差押の場面で「特定」「明示」「関連性」があって捜査機関が行っているかどうかが主な問題点となるというわけさ。令状の要件①理由②必要より具体化された問題というわけさ。
まとめ
以上、刑事実務の観点から令状についてみてきました。とはいえ、刑事訴訟法で必要な知識とはほぼ変わりません。
しっかり令状の条文を把握して、どういう記載・状況下であれば適法に令状執行できるかどうかという視点を忘れないようにしましょう!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事実務の基礎は、よりよい参考書がほとんどありません。
予備校本で勉強するのがよいでしょう。辰巳のハンドブックは予備試験口述の過去問まで載っているので、口述試験対策という意味でもお勧めします。
正直これ以外で改正された刑事訴訟法に対応した良い参考書は今のところないと思います。