誤想防衛や誤想過剰防衛の問題を簡単に解決する方法【刑法総論その11】

刑法

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誤想防衛って正当防衛みたいなのに責任段階での検討になっている理由がようわかりません。

法上向

なるほど,たしかに検討要素は正当防衛と似ているのだが,根本にある考え方が異なるのだよ。
ちなみに誤想過剰防衛の議論は理解しているかな?

あー,あれはノリとフィーリングですね(笑)。

法上向

なるほど,では誤想防衛と誤想過剰防衛を理論的に理解していこうか。

誤想防衛誤想過剰防衛は刑法のが学説でも非常に混迷を極めており,初学者には理解しがたい状況になっています。ここでは判例通説に絞って結局どのように考えればよいのかについて解説していきます!

誤想防衛・誤想過剰防衛のポイント

よく誤想防衛は故意を阻却すると習いますが,なぜ故意を阻却するのか?誤想過剰防衛は過剰性の認識によって考えるといいますが,なぜそう考えるのか?なぜ違法性阻却段階ではなく責任段階での検討要素なのか?……答えるのは難しいですよね。
このような問いに対する答えを理解していると,考え方もマスターしやすいと思います。そこで今回は背景にある考え方から一緒に学んでいけたらいいなーと思います!

①誤想防衛の背景にある考えについて理解する。
②誤想防衛の考え方について押さえる。
③誤想過剰防衛の考え方について押さえる。
それでは見ていきましょう!

誤想防衛は違法性の意識の問題だから責任要素で検討

責任故意は構成要件での故意とは別!

さて,刑法では結果→行為→因果関係→故意(過失)→違法性阻却→責任阻却の手順で考えるんでした。ではここでもう一度責任要素の検討がなぜ必要かを考えてみます。それは…

責任がなければ刑罰を問えない

という背景の考え方があるからです。だからこそ,刑事未成年心神喪失の場合は不可罰になるのでしたね。詳しくは以下の記事を参照ください。

すると,違法性の意識がない場合=自分がやっていることが悪いと思っていない場合は責任がないとして刑罰を問えないとも考えられます。これを刑法的には責任故意で検討します。

責任故意とは,上記検討要素で出てきた結果→行為→因果関係→故意(過失)→違法性阻却→責任阻却のうちの故意の部分とは少し異なります。この検討要素中の故意は構成要件での故意の検討でした。今問題にしているのは責任段階の故意の検討なのです。

なぜ故意を構成要件段階と責任要素段階で分けて検討するかは難しい問題ですが,ここでは客観的要素についての故意と主観的要素についての故意は別なんだと考えてみましょう。つまり,客観的要素の認識がある=構成要件についての故意はあるとしても,それが違法だとは思っていない場合=責任故意がない場合があり,その場合は不可罰としてよいのではないか,という考えです。

構成要件段階についての故意の話は以下の記事にまとめてあります。

責任故意の違法性の意識の可能性の考え方

では,構成要件での故意はあるが責任故意がないとされ,不可罰になる場合はどのような場合か気になりますよね?

学説上は様々な議論がありますが,まず違法性の意識可能性がない場合は責任故意がないと考えられています。

なんだ,責任故意って簡単に否定されるんだな,と思ったそこのあなた!実はそうではないんです。

責任故意はほとんど阻却されません。なぜなら,違法性の意識可能性がない=その行為が違法性なしと思ってもしょうがないという場合に限られるからなんです。

たとえば弁護士からこの行為なら違法になりませんよ,といわれて実際には違法な行為をしたとしましょう。

この場合,結果→行為→因果関係→構成要件での故意→違法性阻却事由なし,となるのでラストに責任阻却事由が問題になるのはいいですよね?ここで弁護士に言われたから違法性阻却事由はないですー!と主張しても実は責任故意は否定されないことになります。つまり不可罰にはならないということです。

違法性の意識可能性がないとは,判例や公的機関の見解を信頼した場合にのみ認められるとされています。それくらいのハードルがあるということです。

責任故意の誤想防衛の考え方

違法性の意識可能性の検討では阻却されないことの多い責任故意ですが,誤想防衛の場合は話が別です。

誤想防衛の場合は責任故意は阻却されます。この理由を考えていきましょう。

法上向

なぜ責任故意が必要だったかな?

 

ええっと,責任がなければ刑を問えないからです。つまり,違法性の認識がなければ不可罰になるということです。

法上向

そうだよね,単純な故意の場合は違法性の意識可能性の検討はハードルが高いんだが,誤想防衛はそうではないんだ。誤想防衛=正当防衛の状況だと思って行為に及んでいる場合は,違法性の事実の認識がないとして,責任故意は阻却してもいいことになっているんだな。

誤想防衛の場合は正当防衛の状況だと思って行為を行っています。このような認識での行為は違法性の事実の錯誤であり責任故意を阻却してよいとされているのです。議論があるところですが,ここでは簡単に違法性の事実を基礎づける事実の認識に欠けるからと考えることにします。

よく基本書には「誤想防衛は事実の錯誤であるから故意を阻却する」と書かれていますが,僕はあれがよく理解できなかったんですよね~。

法上向

学説で議論のあるポイントだな。
まず事実の錯誤は故意を阻却するという前提は大丈夫だな。

はい,故意の記事を読みましたから。

 

法上向

それなら話は早い。責任故意についても事実の錯誤は成立すると考えるんだよ。ここでは事実とは構成要件該当事実だけではなく正当化事由も含む考えるんだ。

なるほど,今までの事実の錯誤は構成要件該当事実についての錯誤でしたが,責任故意段階では違法性阻却の段階を乗り越えてきているので,錯誤の対象が構成要件該当事実だけでなく正当化事由も含まれるということですね。

法上向

となると,正当化事由要素に錯誤があった場合は事実の錯誤として責任故意が阻却されるという考え方に結びつくわけだな。何度も繰り返して悪いがこの根本には違法性がないから責任故意がないとするという大前提を忘れないでおいてね。

 

 

責任故意の考え方のまとめ

責任故意は学説も錯綜し大変難しい分野だと思います。以下の図でまとめてみたので参考になれば幸いです。

誤想防衛の問題はあくまで故意犯の検討過程についての問題なので,もし誤想防衛で責任故意が阻却される場合は過失犯の検討=誤想が一般人ならば避けることができたか,の検討をしなければいけないことになる点には注意しましょう。以下で詳しく取り上げます。

誤想防衛の考え方

誤想防衛とは

誤想防衛とは,客観的には正当防衛状況になかったが,行為者は正当防衛状況にあると思って行為をした場合のことを言います。

よくあるのが急迫不正の誤想です。つまり急迫性がない状況なのにあると思って行為に及んだ場合のことですね。襲われていないのに襲われていると思って殴ったような場合がこれにあたります。

影が薄いですが,相当性を誤想した場合なども誤想防衛とされる点には注意です。正当防衛状況の誤想であればよいということです。

誤想防衛の考え方は事実の錯誤

上記のとおり,誤想防衛は事実の錯誤として考えます。理由はもう大丈夫ですよね?違法性の事実の認識がないから責任故意が否定される=責任要素が否定されるからでした。

ただしここですぐに不可罰になるわけではありません。あくまでも責任故意が否定されただけであり,過失の検討が必要になるからです。

構成要件段階で故意が否定された場合も過失犯を検討しますよね。それと同じです。ただし構成要件段階では過失については予見可能性と結果回避可能性を検討していました。それに対して誤想防衛の場合はその誤想について一般人なら避けることができるかどうかを検討することになります。一般人でもさけることができない場合は過失犯でもなくなり不可罰となります。逆に一般人なら誤想しなかったであろう状況なら過失犯が成立することになります(責任故意が阻却されている点は変わらない)。注意が必要ですね。

誤想防衛の場合は事実の錯誤として責任故意が阻却される。この場合,次に誤想について一般人なら避けることができたかどうか=過失を検討しなければならない。

誤想過剰防衛も違法性がないことを意識すれば大丈夫

応用問題として誤想過剰防衛の問題があります。ここもざっくりと確認してみましょう。誤想過剰防衛とは,正当防衛状況がないのに正当防衛状況があると誤想し行為に及んだが,その行為が相当性を欠く行為=過剰防衛だったというような場合です。

正当防衛でも要件の相当性を欠く場合は過剰防衛とされます(刑法36条2項)。

誤想過剰防衛とは,いわば誤想防衛と過剰防衛がフュージョンした場合ということです。この場合も客観的には正当防衛状況はなかった=違法阻却要素はないとされるので責任要素での検討となります。責任故意が阻却されるのかが問題になるということです。

誤想過剰防衛も誤想防衛であることには変わりないから責任故意を阻却してもいいですよね?

法上向

それは早計だな。もう一度誤想防衛の趣旨にさかのぼって考えてみよう。何度も趣旨を確認したのはこのための伏線だったんだよ。

誤想防衛が責任故意を阻却される趣旨は,違法性がないからでした。果たして過剰な行為をしておきながら違法性がないとされるでしょうか?通常の違法性阻却段階での検討の際も過剰防衛は違法性を阻却されてはいません。あくまでも正当防衛の要件である相当性を欠くため正当防衛にはならないが量刑上考慮されるだけです。つまり本質上は相当性を欠くので違法な行為ということです。

となると,誤想過剰防衛でも過剰な行為をしている時点=相当性を欠く時点で違法なことには変わりありません。よって通説は過剰性の事実の意識がなければ故意を阻却し,過剰性の事実の意識があれば故意は阻却しないとしています。なぜ過剰性が問題になるのか理解していただけたでしょうか?

たとえば,襲われていると誤想して実際は襲われていないのにナイフで刺した場合を考えてみます。この場合,襲われているとの誤想=誤想防衛とナイフで刺した=相当性を欠くので過剰防衛の要素が合体した状況ですので誤想過剰防衛ですね。

さて,責任段階では違法性があるかどうかをチェックしていたので,通常の誤想防衛であれば正当化事由があると思っていた=違法性を基礎づける事実の認識がないとして責任故意が阻却されますが,今回は誤想して素手等で応戦すればいいものをナイフで刺すという相当性を欠く行為で対処しているので過剰防衛です。よって,ナイフで人を刺す=過剰事実の認識があり,違法であることはわかって行為に及んでいるので責任故意は阻却されないことになります。

責任故意の考え方を理解すれば,誤想過剰防衛は考えやすくなります。結論だけ覚えるのではなく趣旨から理解していきたいところですね。また,責任故意が阻却されても誤想防衛の場合と同様に過失の検討が必要である点は注意してください。

誤想過剰防衛は,過剰性の事実の認識がなければ責任故意は阻却され,過剰性の事実の認識があれば責任故意は阻却されない=過剰防衛として扱われる。
責任故意が阻却された場合,過失犯の検討になり,誤認が避けられる場合は過失犯,誤認が避けられなかった場合は不可罰となる。

まとめ

以上,誤想防衛と誤想過剰防衛を中心になかなか理論的で難しい問題を扱ってみました。考え方は単純であり,根本にある理論=違法性があるかどうかという点は変わらないので問題等を解いてしっかりと身に着けていってほしいと思います。私も頑張ります。

最後にまとめの図を貼ってみたいと思います。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。

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