債権はなんとなくわかるんですけど、債権総論って特定物債権とか種類債権とかよくわからない用語が多いじゃないですかー。あれってどうにかなりませんか?
たしかに債権は〇〇債権といった用語が多いなー。あのほとんどは覚えなくていい用語だよ。ただし特定物債権と種類債権は覚えるべき用語だろうな。
それって論述にもかかわってきます??
むしろ特定物債権と種類債権の論点は論述で必須のものだぞ。詳しく見ていこうか。
物の引き渡しを目的とする債権については特定物債権と種類債権の違いが非常に重要です。いかなる場合に種類債権から特定物債権に進化するのか?特定物債権になるとどのような義務が発生するのか?が非常に重要になっていきます。
実はこの論点は、発展的内容です。というのも基本的には問題文からすでに特定物債権とされている場合がほとんどだからです。種類債権から特定物債権へと移る論点を出題することは応用的といえるでしょう。
とはいえ、債権総論を勉強するにあたってこの分野は避けて通れませんし、実務では種類債権であることが多いです。
債権総論ではじめに出てくる論点だということを理解しつつ、しっかり押さえていきましょう!
特定物債権と種類債権のポイント
まずどのような場面で出てくる論点なのかをしっかり理解しておく必要があります。というのもあまり出てこない論点だから使う場面をしっかり理解しておかないと意味ないためです。
その次に、特定物債権と種類債権の意味を考えていきます。
そして種類債権から特定物債権へ進化させる「種類債権の特定」という論点を解説した後、特定物債権になるとどういう効果があるのかを説明していこうと思います。
よってポイントは以下の通りになります。
①特定物債権と種類債権の論点が出てくる場面を押さえる。
②特定物債権と種類債権の意味を理解する。
③種類債権を特定物債権にする方法を知る。
④特定物債権の効果を理解する。
以上、それぞれ見ていきましょう。
特定物債権・種類債権を使う場面
債権各論を勉強したらよくわかりますが、通常の債権は特定物債権だとか種類債権だとか区別はしません。なので、この論点は忘れられがちな論点だと思います。
ではどのような場面で出てくる論点なのか?
それはズバリ、
物の引渡しを目的とする債権の場面
です。
「物の引渡しを目的とする債権」と言われてもどういうものかわからないわ。
普通は売買を想定していれば大丈夫だろう。売買以外の物の引渡しを目的とする債権は、最初から特定物債権であることが多いからね。
売買契約の場合に特定物債権や種類債権といった論点が登場するというわけです。
くれぐれも、あらゆる債権が問題となる場面で最初は特定物債権か種類物債権か判別しないといけない!と勘違いしないようにしてください。
あくまで物の引渡しを目的とする債権(基本的に売買契約)の場面で、この特定物債権か種類債権かの判別が必要になるというわけです。
では特定物債権とは何か?種類債権とは何か?気になってきますよね?
さっそくみてみます。
特定物債権・種類債権の意味
特定物債権の意味は「これじゃないとダメ」な債権
特定物債権とは、
物の引渡しを目的とする債権のうち、当事者が物の個性に着目して目的物を指定した債権
のことを言います。
え?全然わからない?
ならこう考えましょう。
特定物債権とは、
売買契約で、「これじゃないとダメ!他の物じゃダメ!」となる債権
のことです。
よく問題として登場するのは、中古車や絵画ですね。これは明らかに問題文自体が「特定物債権だよ」と主張しています。
中古車を買う場合は、車の状態をよく見て決めるはずです。「どれでもいいから中古車を1台ください」という人はいませんよね。「この中古車をください!」と言って決めるはずです。
このような中古車売買契約に基づく中古車の引渡請求権(物の引渡しを目的とする債権)は特定物債権ということになります。
絵画も同じです。絵画は唯一無二のものです。「どれでもいいから絵画を1個ください」という人はいません。「この絵いいですね~。欲しいので売ってくれませんか?」という流れで売買契約を結ぶはずです。
このように絵画売買契約に基づく絵画の引渡請求権(物の引渡しを目的とする債権)は特定物債権ということになります。
特定物債権かどうかの判別方法は
①物の引渡しを目的とする債権かどうか(そもそもの前提)
②本当にこの物を引き渡さないとダメなのか
を考えるとよいでしょう。
種類債権の意味は「一つに絞られていない」債権
特定物債権の意味が分かれば種類債権の意味を考えるのは楽です。
物の引渡しを目的とする債権(売買契約に基づく目的物引渡請求権)のうち、特定物債権ではないものはすべて種類債権になります。
もっとかっこよくいうと
特定物債権とは
物の引渡しを目的とする債権のうち、当事者が種類と数量によって目的物を指定した債権
をいいます。
当事者が種類と数量を……、と考えると頭がこんがらがると思うので、特定物債権以外はすべて種類債権と考えると楽でしょう。
たとえば米1トンの売買契約を考えてみましょう。
米はその場で買主が「今見ている米一粒一粒が正確に入った米1トンをください」ということはありませんよね。銘柄等の指定はあるかもしれませんが、とりあえず指定した種類の米が1トンあれば買主は満足するわけです。
中古車や絵画の「今見ているこれがほしい!」という場合との違いがわかりますでしょうか?
こう考えてみると、私たちが普段行う売買契約はほとんど種類債権だということがわかります。
スーパーで何かを買う場合を考えてみてください。
同じ商品であれば基本的にその棚のどれでも構いませんよね?つまり「これじゃなきゃダメ!」というような特定物債権ではないわけです。
これでなんとなく、特定物債権と種類債権の違いが分かってもらえたと思います。
それでは次に種類債権を特定物債権へと進化させる方法を見ていきましょう。
種類債権の特定という論点
まずは民法401条2項を見よ
さて、ここからがいよいよ本番です。
種類債権が特定物物債権へと進化する場面を覚える必要があります。というのも、種類債権はいつかは特定物債権になるからです。たとえば先ほどの米も、購入後は特定の「一袋の米」として特定されているわけですので、その時点では特定物債権ということになります。
では「いつ」種類債権は特定物債権へ進化するのか?
これは条文で規定されています。民法401条2項です。
(種類債権)
第四百一条
2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
民法401条2項より、債務者が必要な行為を完了したor債権者の同意を得た指定によって、種類債権は特定物債権へと進化することがわかります。なお、債権は基本的に当事者の定めが優先されるので、当事者の合意によっても種類債権を特定することができます。
難しいのは、「物の給付をするのに必要な行為を完了した」場合です。
なるほど、給付するのに必要な行為を完了すればいいわけか。けど、その必要な行為が何か、条文からはわからないですよね。
そうだね、何が「物の給付をするのに必要な行為」かは解釈によるわけさ。おおまかに決まっている体系があるから覚えていこう。
持参債務・取立債務・送付債務の3種類がある
物の引渡しを目的とする債務・債権には大きく分けて3種類のものがあるとされています。
それが、持参債務・取立債務・送付債務です。
持参債務とは
持参債務とは、債務者が目的物を債権者の住所等に持参して履行すべき債務です。これが原則とされます。民法484条1項に規定があります。
(弁済の場所及び時間)
第四百八十四条 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
債務者が物の引渡しの義務を負っているのだから、債務者が債権者に物を届けるのは当たり前の形ですね。だからデフォルトとされているわけです。
取立債務とは
取立債務は持参債務の逆えす。取立債務とは、債務者が債務者自身の住所で履行すべき債務のことを言います。この場合は債権者が債務者の住所まで「取立」にいくことになるので「取立債務」というわけです。
借金の取立てを思い浮かべればわかりやすいでしょう。
この場合、債権者の方が債務者へ物を取立てに行くので、取立債務のイメージがつかみやすくなると思います。実際、取立債務は怖いものでもなんでもありませんが。
送付債務
最後に送付債務です。送付債務とは、債権者の場所でも債務者の場所でもない第三の場所に目的物を送付する債務のことを指します。
持参債務は現実の提供で特定
持参債務は、債務者が債権者の場所で目的物を渡す債務のことでした。この場合の、特定のタイミング(種類債権が特定物債権になるタイミング)は
現実の提供
といわれています。つまり、債務者が現実に受け取ったタイミングで「今、種類債権が特定物債権へと変わりました!」となるというわけです。
取立債務は目的物の分離+口頭の提供
取立債務は、債権者が債務者の場所で目的物をもらう債務のことでした。この場合の特定のタイミング(種類債権が特定物債権になるタイミング)は
目的物の分離+口頭の提供
といわれています。
つまり、物を引き渡す側=債務者は、目的物を取り分けて(目的物の分離)、弁済の準備をしたことを債権者に通知してその受領を催告した場合(口頭の提供)に種類債権が特定されるというわけです。
この口頭の提供は民法493条ただし書に規定されています。
(弁済の提供の方法)
第四百九十三条 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
逆にいえば、口頭の提供だけでは、取立債務の場合、種類債権の特定は発生しないというわけです。
送付債務は現実の提供or発送時
送付債務は意外と難しいです。送付債務は第三の場所で目的物を送付する債務のことでした。
この場合、まず債権者と債務者が合意によって履行地を第三の場所として定めている場合が考えられます。
この場合は、持参債務と同様に現実の提供が、特定の時期になります。
また、契約後に、債権者の要請を受けて債務者が行為で第三の場所に送付することになった場合も考えられます。これはあとから第三の場所になったパターンですね。
この場合は、発送時が特定の時期になります。
このような考え方の違いを、わかりやすくまとめると
「送付債務は基本的には送付時だが、あらかじめ履行地が定められてる場合には送っただけではだめで、ちゃんと債務者が受け取らないとダメだよ」
というわけですね。あらかじめ定められてるか即興で定めたかどうかによって、どの程度の履行で特定するかが変わってくるわけです。
特定物債権の効果
さて種類債権が特定物債権になるとどのような効果が発生するのでしょうか?逆に言えば、特定物債権になると、特別な効果が発生するために、種類債権の特定という論点が重要になってきたわけです。
特定物債権になると①保存義務②履行不能になりうる、という主に2つの効果が発生します。
それぞれ見ていきましょう。
①特定物債権には保存義務(民法400条)が発生
民法400条を見てみてください。
(特定物の引渡しの場合の注意義務)
第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
これは物の引渡しを目的とする債権の規定ですが、種類債権の場合には保存義務は生じません。厳密にいえば保存義務は生じようがありません。特定されていないのでどれをちゃんと保存すればよいかわからないからです。
物の引渡しを目的とする特定物債権では、特定物がちゃんと定まっているので、その特定物をきちんと管理すること(善管注意義務)が発生します。
ちゃんと管理していない(不具合が生じた)場合などは債務不履行(債務をちゃんとしなかったために責任を負う)という効果が発生するわけです。
物の引渡しを目的とする債権だから、物を引き渡しさえすれば履行完了!というわけではないということを頭に入れておきましょう。
売買でも、売主(物を引き渡す債務者)は、特定後は物を引き渡すまできちんと管理しなければならないというわけです。
もちろん、物の引渡しを目的とする債権なので、引渡義務は当然に発生しています。それに加えて保存義務が生じるというだけです。
②特定物債権になると履行不能の可能性が発生
特定物債権でもう一つ重要な効果としては、履行不能になりうるようになるというものがあげられます。逆に種類債権は履行不能にならないといった方がわかりやすいかもしれませんね。
なぜ種類債権の特定の時期が重要になるかはこの点にあります。履行不能になる前提として特定物債権でなければならない→特定物債権かどうかをチェックする、という思考をたどるので、履行不能が論点として出てきそうな問題の場合には、特定物債権かどうかのチェック=種類債権の特定という論点が問題になるというわけです。
種類債権が代えがいっぱいあるので履行不能にはならない、逆に特定物債権の場合にはその特定物を引き渡すことが目的なわけだから、特定物が滅失などによって履行不能になることがありうるということです。
まとめ
以上、種類債権と特定物債権の論点を見てきました。
難しいと感じられた方は、「種類債権の特定」という論点と「特定物債権の効果」を覚えとけば大丈夫です。
再度復習のために記載しておきます。
〈種類債権の特定〉
「物の給付をするのに必要な行為」(401条2項)とは、
①持参債務の場合は現実の提供時
②取立債務の場合は目的物の分離+口頭の提供時
③送付債務の場合は、あらかじめ履行地として第三地を定めている場合は現実の提供時、そうでない場合には送付時
そのほか、債権者の同意を得た指定や債権者と債務者との合意でも特定をすることができる。
〈特定物債権の効果〉
①引渡義務のほかに保存義務(善管注意義務)が生じる。
②特定物債権になると、履行不能になる可能性が生じる。
以上、読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
債権総論では初学者にもおすすめのとてもわかりやすい基本書があります。有斐閣ストゥディアの債権総論です。
改正民法に完全対応ですし、事例や図解、章ごとのまとめもあるのでとてもわかりやすい基本書になっています。ぜひ読んでみてください。