行政訴訟でよく出てくるのが取消訴訟ってことで処分性→原告適格→訴えの利益を検討するんだったな。もし出訴期間がすぎてたら……
無効等確認訴訟が提起できる場合があるのでそれを検討します。前回の話ですよね?↓の記事で見ました!
そうだね!今回はまた別の形態の訴訟,直接型義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)と申請型義務付け訴訟についてみていこうと思う!
行政訴訟の形態にはいくつかありますが,今回見ていくのは直接型義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)と申請型義務付け訴訟についてです。合わせて義務付け訴訟と言ったりもします。混乱してしまう分野かもしれませんが,実は要件を意識すれば超楽になります!では見ていきましょう!
義務付け訴訟のポイント
今回も理論で押し切ってみます。義務付け訴訟で特に大事なのは要件です。要件さえわかっていれば後は機械的に当てはめていけばおのずと答え(らしき)ものはでます。はじめての行政法シリーズではまず要件を確実にマスターしてもらうことを目指します!
②直接型義務付け訴訟の要件を押さえる。
③申請型義務付け訴訟の要件を押さえる。
直接型義務付け訴訟と申請型義務付け訴訟の違いとは?
両者は別物である!
まず,はじめて行政法を学ぶ方は直接型義務付け訴訟,申請型義務付け訴訟とは何ぞや?となっていると思います。そこでここでは簡単にどのような訴訟かを見ていくことにしましょう。
ここで注意点があります。直接型義務付け訴訟は非申請型義務付け訴訟と言われたりもしますが,直接型義務付け訴訟と申請型義務付け訴訟は全くの別物であると考えてください。両者を似た物と考えることもできなくもないですが,要件等で間違えやすくなってしまいます。赤の他人なのです!なので私は非申請型義務付け訴訟と呼ぶのはあまり好きではありません。赤の他人なのに非申請型義務付け訴訟と呼ばれている直接型義務付け訴訟の気持ちになってください!
AくんとBさんがいて,Aくんのことを「Bさんじゃない方」と呼ぶのはかわいそうですよね。
そのため,この記事は非申請型義務付け訴訟と呼ばれることもある行政事件訴訟法37条の2の形態を直接型義務付け訴訟と呼ぶことにします!
申請しているかどうか,二面関係か三面関係かどうか
別物であるとはいいましたが,どちらの訴訟か迷うこともしばしばあります。特に初学者のときはそうです。一番わかりやすい判断方法は申請しているかどうかです。
申請をしている場合に起こす訴訟が申請型義務付け訴訟であり,申請する方法とかが規定されておらず,ただ処分を義務付けたい場合は直接型義務付け訴訟である,と考えましょう!
これだけでも不安な方はさらに判断方法を増やしましょう。直接型義務付け訴訟の場合は基本的に三面関係に,申請型義務付け訴訟は基本的に二面関係になります。なぜなら申請型義務付け訴訟の場合は,申請していることがポイントなので当事者(申請権者)である必要があるためです。一方,直接型義務付け訴訟が問題になるのは原告適格でみてきたように第三者が何してるんだ!こうしろ!と主張する場合が多いからです。
申請しているかどうかが主要な基準です。これで間違いはないですが,もし不安なら装備は持てるだけ持っていた方がいいと思うので,二面関係,三面関係かどうかの武器も装備しておく,といったような感じですね。
違いの判断方法は,申請しているかどうかである。もしこれだけだと不安なら二面関係か三面関係かも基準になる。
直接型義務付け訴訟の要件を理解する!
条文をチェック
直接型義務付け訴訟は行政事件訴訟法37条の2に規定されています。要件を確認する際は条文が大事です。さっそく見ていきましょう。
(義務付けの訴えの要件等)第三十七条の二 第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。3 第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。4 前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する。5 義務付けの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その義務付けの訴えに係る処分につき、行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分をすべき旨を命ずる判決をする。
要件① 一定の処分
一定の処分はあまり問題になりません。あくまでまだ来ていない処分を義務付けることを目的とする訴訟なので厳密に特定されていなければいけないわけではないことには注意が必要ですが,それ以外で大きな問題となることは少ないでしょう。
要件② 重大な損害
なんと2項に重大な損害とは何かの説明があります。
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
らしいです。この損害の性質や程度,処分の内容や性質を考慮と同じような文言をどこかで見たことないですか?
原告適格に同じような記載があったような気がしませんか?
つまり,ここでの重大な損害とは原告適格の判断基準をより具体化したものだといえそうです。この点を理解しつつ要件を覚えると行政法全体のつながりが作れますね!
要件③ 補充性
その損害を避けるため他に適当な方法がないときは補充性を意味します。しかしこの補充性は無効等確認訴訟でやったほど厳格に判断されません。個別法等で特別の救済手段がある場合のみ補充性を満たさないことになります。
繰り返しになりますが,無効等確認訴訟の補充訴訟の場合と同様に考えないようにしましょう。直接型義務付け訴訟の場合は補充性はほとんど問題になりません。
要件④ 原告適格
行政事件訴訟法37条の2第3項「第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる」同条4項「前項に規定する法律上の利益の有無の判断については、第九条第二項の規定を準用する」というのは,完全に原告適格(行政事件訴訟法9条)を表したものです。
直接型義務付け訴訟の際の原告適格は取消訴訟の場合の原告適格と同様に考えるというわけですね。
要件⑤ 本案勝訴要件
なんと,直接型義務付け訴訟は訴訟で勝つための要件まで規定してくれています。
行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき
少々読みにくい文言ですが,まず行政処分には羈束処分と裁量処分があることを理解しましょう。
羈束とは縛っていること=これが認められたらこの処分をしなければいけないというような処分のことです。頑固おやじと考えるとわかりやすいです。この場合は法令の規定から処分すべきということが言えれば訴訟は勝ちとなります。
一方で,裁量処分は何も気にしない若者のイメージです。行政に一定の裁量があります。処分するかしないか行政次第次第という処分です。この場合は処分しないことが裁量権の濫用や逸脱の場合にのみ勝訴となります。
行政処分はこれら羈束処分(頑固おやじのイメージ)と裁量処分(若者のイメージ)に分けられるために,このような変な条文の書き方になっていたのですね。要は処分をしないことが違法かどうかを検討しているだけです!
まとめ
直接型義務付け訴訟も大きく分けて5つ要件があることになります!(本案勝訴要件も含んでいます)
申請型義務付け訴訟の要件を理解する!
条文をチェック
申請型義務付け訴訟は行政事件訴訟法37条の3第1項に規定されています。
第三十七条の三 第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。2 前項の義務付けの訴えは、同項各号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる。3 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え5 義務付けの訴えが第一項から第三項までに規定する要件に該当する場合において、同項各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決をすべき旨を命ずる判決をする。
要件① 一定の処分
これは直接型義務付け訴訟と同様ほとんど問題になりません。申請による処分のことです。
要件② 申請
前述したとおり,直接型義務付け訴訟と申請型義務付け訴訟の違いは申請にありました。これは要件になります!詳しく見ると,申請をして処分がない場合や申請して却下された場合など場合分けが条文上されていますが,個々の部分は条文の文言を見ればわかると思うので深入りしません。
とりあえず申請していることが大事ということです!
要件③ 原告適格
これは行政事件訴訟法37条の3第3項からわかりますね!
前項の義務付けの訴えは、同項各号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる。
行政事件訴訟法9条1項の規定を申請バージョンに置き換えただけです。ここで行政事件訴訟法9条2項は適用されないのか,疑問に思ったそこのあなた!
もう一度,直接型義務付け訴訟と申請型義務付け訴訟の違いを考えてみましょう。申請型義務付け訴訟は二面関係の問題でしたよね。そうなると,三面関係の原告適格についての規定である行政事件訴訟法9条2項は適用されないわけです!
要件④ 併合提起
ここが一番重要です!
申請型義務付け訴訟は併合して,取消訴訟等を提起する必要があるのです。条文に詳しく書かれているので忘れることはないと思いますが,実は忘れていなくても検討をしないことが多いです。
併合提起するということはその併合提起される方の訴訟要件も充足している必要があります。取消訴訟の場合の訴訟要件は覚えていますか?処分性,原告適格,訴えの利益,出訴期間などでしたよね?これらも逐一,申請型義務付け訴訟とは別に考える必要があるのです!
要件⑤ 本案勝訴要件
条文では行政事件訴訟法37条の3第5項より㋐併合提起の訴訟に理由があること㋑羈束処分なら法令上明らか,裁量処分なら裁量権の逸脱濫用を言うことになります。
どちらも結局は提訴した訴訟(2つ,併合提起されているため)が正当であれば勝てるという当たり前のことを言っているだけなのです!
㋑については処分の性質によって分けることを意識するとよいでしょう。これは直接型義務付け訴訟と同様ですね。念のためにイメージを再掲しておきます(笑)。
羈束処分イメージ→法令から処分すべきことが明らかであるかを検討する
裁量処分のイメージ→処分をしないことが裁量権の逸脱,濫用かどうかを検討する
まとめ
申請型義務付け訴訟も大きく分けて5つ要件があることになります!(本案勝訴要件も含んでいます)
併合提起する際の,取消訴訟等の要件充足の検討も忘れない!
まとめ
いかがだったでしょうか。長々と述べてきましたが,重要なのは要件であり,条文をみて要件を抜き出せればとりあえずは大丈夫です。要件ゲームなのでちょろいですね!
最後にもう一度,条文から要件を出せるか考えてみましょう。いけますか?
①一定の処分②重大な損害③補充性④原告適格⑤本案勝訴要件
申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法37条の3)の要件は
①一定の処分②申請③原告適格④併合提起(それの訴訟要件充足も検討)⑤本案勝訴要件
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。