これで解決!国家賠償法1条を簡単に【行政法その10】

行政法

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法上向

行政訴訟以外にも行政法の分野だとされているものに国家賠償があるね。

国家賠償法って行政法と同じように考えていけばいいんですよね。処分があって,原告適格があって……

法上向

おいおい,それは違うぞ。行政法にまとめられているが,国家賠償法は行政訴訟とは全く別のものだと思っておいた方がいい。検討の方法を見ていこうか。

国家賠償法は社会でもよくでてくる重要な訴訟です。国や公共団体を対象としますが,行政訴訟とは別の訴訟体系なので,行政訴訟で学んできたことが完全に共通するわけではない点に注意です。

国家賠償の考え方を見ていきましょう!

国家賠償法1条のポイント

国家賠償法が適用される場合と,その判断手段を理論的に見ていくことにします。

国に対して「違法な行為だったからお金払って賠償してください!」と頼む訴訟のことです。

学説では職務行為基準説や公権力発動要件欠如説等の対立がありますが,ここでは職務行為基準説で書いていきたいと思います。ただし必ずしも職務行為基準説が判例の立場とはいえない点は知っておいてください。

①国家賠償法の要件を理解する。
②不作為の場合の考え方を確認する。
それでは見てきましょう!

国家賠償法1条の要件

条文は単純明快

まずは条文の確認です。行政訴訟は行政事件訴訟法を中心に見ていましたが,国家賠償の場合は国家賠償法という法律を見ることになります。

国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
単純に考えると,
①公権力の行使②公務員③職務行為関連性④故意または過失⑤違法性⑥損害⑦因果関係
が要件となります。ここでは特に重要な要件である①公権力の行使③職務行為関連性④故意または過失と⑤違法性についてみていきます。

他の要件も一応問題を解く際は触れることになるので条文から要件を導き出せるようにしておくことが大事ですね。

公権力の行使は広義説

まず公権力の行使からです。

公権力の行使と聞いて,行政訴訟の公権力性と同じような感じかな?と思った方も多いはずです。しかし,違います!

国家賠償法での公権力の行使について,通説判例は広義説なるものをとっています。詳しい学説の対立は省きますが,行政訴訟での公権力性より広い概念になるということです。詳しく言うと,国家賠償法2条および私経済上の作用以外の行政行為はすべて公権力の行使ということになります

職務行為関連性は民法715条と同じく外形説

これは民法の使用者責任(民法715条)と同じく外形から考えます。つまり,実際に当該公務員が職務に関連して行おうとしていなくても外形が公務員の行為として認められるのであれば「職務を行うについて」という文言は認められるということです。

刑法のようにあまり公務員の意識を重視しない方がよいでしょう。

過失と違法性の関係は職務行為基準説で。

国家賠償法1条でもっとも難しいといわれているのが過失と違法性を分けて考えるのか,分けて考えないのか,いわゆる公権力発動要件欠如説職務行為基準説の対立です。ここではわかりやすさ重視のために深入りせず職務行為基準説で考えていこうと思います。しかし公権力発動要件欠如説をとっている最近の判例もあるのでどちらの説も理解しておくのがベストだと思います!

職務行為基準説は過失と違法性を一緒にして考えます。

え!要件には過失と書いているのに一緒として考えるんですか?意味わかりません!

法上向

指摘はごもっともだな。しかし判例や学説の形成過程からこう考えた方がわかりやすいんだよ。

過失は長い年月をかけて主観的な考え方から客観的な考え方に変わっていきました。刑法でも新過失論で構成要件該当性のところで過失を検討するようになったようなもんです。すると過失の客観的側面はほぼ違法性の判断と一致することになります

そのため,過失と違法性をまとめて,違法性として,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたかどうか,によって判断する判例ができてきたのです。

職務上通常尽くすべき注意義務というのは予見可能性や結果回避可能性,法律の要件該当性や侵害態様などさまざまな面を考慮して決定することになります。これは明確性の点では書けますが,裁判所の判断過程としてはよくあっているといわれています。

法上向

裁判所お得意の総合衡量してっていうやつだな。

まとめ

以上をまとめてもう一度要件を確認してみましょう!

国家賠償法1条の要件は主に①公権力の行使②公務員③職務行為関連性④故意または過失⑤違法性⑥損害⑦因果関係である。
①公権力の行使は国家賠償法2条と市経済上の作用を除いた行政の行為を言い,③職務行為関連性は外形から考える。職務行為基準説に立てば④の過失と⑤違法性はまとめて考えられ,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしていたかどうかによって判断することになる。

国家賠償法で不作為の場合は消極的裁量濫用論

国や公共団体がちゃんとしてくれないから被害がでたんだよ!ということで国や公共団体の不作為を対象として国家賠償を求めることもできます。

この場合は上記職務行為基準説とは考え方が異なるので注意しましょう。よく出てくるのが消極的裁量濫用論です。この考え方には否定説もありますが,わかりやすいので今回はこれにのっとって進めていきます。

消極的裁量濫用論をとれば,不作為の場合の国家賠償法の検討ポイントは以下になります。

①被侵害利益②予見可能性③結果回避可能性(④期待可能性)
④の期待可能性は考えなくてよいでしょう。重要なのは②③です。②予見可能性③結果回避可能性は何の要素がわかりますか?刑法の過失犯のところででてきた過失の判断要素ですよね。ここでも違法性と過失が一緒に判断されていることがわかると思います。

つまり,本来法律で守られているはずの利益が侵害され,それが過失によるものなら不作為の場合であっても,国や公共団体に対して国家賠償を請求できるというわけです。

上記の要件が満たされるような場合だと,国は見て見ぬふりをすることはできないってことですね。

なお,消極的裁量論はあくまで違法性の考え方なので,このほか公権力の行使や公務員,職務行為関連性,損害,因果関係の要件充足が必要になります

不作為の場合も消極的裁量濫用論に立てば違法性を①日侵害利益②予見可能性③結果回避可能性を検討して,国家賠償請求ができる可能性がある。

まとめ

以上,淡々と国家賠償法1条1項を確認してきました。最後にもう一度だけ要件を確認して終えたいと思います!

国家賠償法1条の要件は①公権力の行使②公務員③職務行為関連性④故意または過失⑤違法性⑥損害⑦因果関係,である。
特に違法性の考え方には議論があったりするのでしっかりと押さえましょう(私もがんばります!)。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。

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