行政法総論分野で重要な論点って何ですか?
それは「行政立法」と「裁量」だな。
今回はそのうちの「行政立法」について解説していくぞ!
行政法総論の重要分野は「行政立法」と「裁量」です。この2つを理解して、あとは行政事件訴訟法をしっかり勉強すれば、行政法の基礎はマスターしたといってもよいでしょう。
今回は「行政立法」について勉強していきます。
行政立法のポイント
法律は全て国会によって作られます。三権分立の関係上、行政は関与しません。
一方、国会が作る法律だけでは行政の運用がしにくいという側面があります。細かいルール制定が法律では行われないからです。
そのため、行政で作られるのが「法規命令」と「行政規則」です。
しかしながら、行政があらゆる内容を「法規命令」や「行政規則」で作れるとなると、国会のみが法律を作ることで三権分立を守っている仕組みがおかしくなってしまいます。
そのため、法規命令と行政規則には一定のルール、守るべき論点があるというわけです。
今回はその論点について学習していきます。
①法規命令・行政規則とは何か?を理解する。
②法規命令の論点を押さえる。
③行政規則の論点を押さえる。
それではみていきましょう。
法規命令・行政規則とは何か?
法律は国会のみで作られる
まずは中学校や高校で学習した三権分立を思い出してください。
つまり、基本的に立法と行政は交わらない=国会と内閣は交わらないのが基本というわけです。
しかしながら、不都合が生じるのも事実です。
法律は基本的に一般的かつ抽象的に規定されます。法律を勉強する我々ならその抽象さをよく知っているはずです(笑)。だからこそ、弁護士といった法律の専門家が必要なわけですね。
さて、世の中、法律だけしか存在できないとなると、
行政側からすれば、どのように運用すればいいのか?
一方で国民側からすれば、法律がどのように運用されるのか?
よくわからないことになります。
国民は法律を見ただけではその具体的内容まではわからず、行政機関も運用しづらく、二重で不都合があるというわけです。
これを打開するのが「法規命令」と「行政規則」というわけです。
法規命令は国民の権利義務についての具体的な内容
最初に法規命令についてです。
法規命令には執行命令と委任命令がありますが、執行命令はほとんど出題されないので、今回は委任命令に絞って考えていきます。
法規命令はさきほどの
国民の「法律がどのように運用されるのかわからない!」という疑問を解消します。
委任命令とは、法律より委任されることで、法律の具体的内容を定めるものだからです。
法律に「詳しくは法規命令で定めるよー」と書くことで、行政が委任命令として具体的内容を制定できるというわけです。
つまり法律のサブ的ポジションというわけですね。法律を兄とするとその弟分なわけです。
逆にいえば、法律がなければ、委任命令を制定することはできません。
法律があってこそ存在できるのが委任命令といいうわけです。
委任命令は「○○法施行令」や「○○法施行規則」といったような形で制定されることが多いので、判断もつきやすいのも特徴です。
行政規則は裁量基準や行政指導指針
続いて行政規則についてです。
行政規則は行政機関の内部でのきまり・運用のことをいいます。そのため、委任命令に代表される法規命令とは異なり、法律は必要ありません。国民の権利義務に関しないことなので、法律の制定の必要がないからです。
行政規則は、さきほどの
行政側の「法律をどうやって運用すればいいのかわからない!」という疑問を解消します。
法律を実際に行政機関としてどのように運用すればいいのか、その指針、方向性を定めているというわけです。
行政規則には、裁量基準となる審査基準や処分基準、そして行政指導指針があるという点も押さえておきましょう。
行政手続法2条8条ロ・ハ・二に詳しい定義があるのでチェックしておきます。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 命令等 内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。
イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則
ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従っ¥て判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)
どちらも、とりあえずは
行政規則は、行政の運用についての基準を表している
という理解で大丈夫です。
法規命令と行政規則の違い
意外と迷いやすいのが、法規命令と行政規則の違い・判断方法です。
法規命令は法律の弟分でした。法律は国民の権利義務について規定したものなので、法規命令も国民の権利義務を内容としています。
そのため、法規命令と行政規則の違いは
国民の権利義務について規定しているかどうか
というわけです。
法律についての詳しい内容を定め、法律同様国民の権利義務に関することを規定している場合には法規命令
行政の運用についての内容を定め、法律のような国民の権利義務に関することは規定していない場合には行政規則
と判断するわけです!
もう一つの違いとしては
法規命令は法律の委任に基づくが行政規則は法律の委任は必要ではない
という点が挙げられます。
これも法規命令が法律の弟分であることを考えれば、
法規命令は法律が存在しなければならないのに対し、行政規則は対応する法律は必要ではない
というかたちで理解することができますね!
論点:法規命令は白紙委任と委任の趣旨を考える
白紙委任の禁止
法規命令でやってはいけないことがそのまま法規命令の論点になります。
すなわち、行政法の問題で法規命令が出題された場合には、まずその法規命令でやってはいけないことをしていないかを確認するというわけです。
法規命令でやってはいけないことの1つ目は
白紙委任
です。
法規命令は法律の委任に基づいて制定するという話をしました。「詳しくは〇〇法施行令に書きます!」のような文言が法律に規定されるというわけです。
この委任についてですが
法律は個別的・具体的に委任の対象事項を定めていなければならないとされています。
つまり、
法律が一般的・抽象的に委任している場合には、その委任命令(法規命令)は違法というわけです。
このような、一般的・抽象的な委任のことを白紙委任といいます。
でもなんで白紙委任はダメなんですか?
これも三権分立が関係しているよ。
もし白紙委任が許されてしまうと、法律の実質的な内容はすべて法規命令によって定めることができてしまう。
すると、行政が勝手に法律の実質的内容を制定できるということになって、国会が唯一の立法機関としている三権分立の構造が崩れてしまうわけだ!
三権分立の構造の根幹、国会が唯一の立法機関であることを守るために、白紙委任を禁止し、あくまで法規命令は「法律の弟分」であるということを維持しているというわけです。
なお、日本において白紙委任であると認められた法規命令は未だありません。そのため、試験としてこの論点が出題されることはありません。
しかしながら、問題になったことはありますので、論点の1つとして、法規命令が出題された場合には必ずチェックしておきましょう!
法の委任の趣旨を逸脱していないか
続いて、法規命令は法律の弟分であったことを思い出してください。
あくまで法規命令は法律により成り立つことを考えると、法規命令は法律の委任の趣旨を逸脱してはならないとされています。
すなわち、
弟分である法規命令が勝手に兄貴である法律に沿わない内容を規定してはダメ
というわけです。
行政手続法38条1項にも同様のことが規定されています。
(命令等を定める場合の一般原則)
第三十八条 命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。
実は
委任命令(法規命令)が法の趣旨に反している・反していないとした判例はたくさんあります。重要な論点というわけです。
しっかりと法律の条文を確認し、委任の趣旨を考えるようにしましょう。それを逸脱して定められた法規命令はアウトというわけです。
行政規則は合理性と個別事情を考える
次は行政規則についてです。
行政規則にも、やってはいけないこと、が存在します。
これに反した行政規則や行政処分はアウトというわけです。
行政規則が行政指導指針の場合
行政規則が行政指導指針の場合には、行政指導として処理するのが通常です。
行政指導では、従わないからといって不利益を課してはいけない
という行政手続法の定めがあります。
したがって、行政規則が行政指導指針の場合には、行政指導の問題として考えればよいというわけです。
次回の記事で行政指導については詳しく学習していきます。
また、行政規則が行政指導指針であるものとして出題されることはほとんどないため、今回は行政規則が裁量基準である場合をメインに学習していきます。
行政規則が裁量基準(審査基準・処分基準)の場合
行政庁に裁量が与えられている場合でかつ行政規則が定められている場合、
当該行政規則は、裁量基準として機能することがほとんどです。
裁量の判断要素を規定した基準であるというわけですね。行政手続法に沿って考えると、行政規則は審査基準や処分基準となり、さらにそれは裁量基準として機能するというわけです。
この場合、2つのことを考慮することになります。
①裁量基準は合理性があるか
まず最初に検討してほしいのは、裁量基準が合理的かどうかです。
法の趣旨にしたがって、行政規則(すなわち裁量基準)が合理性をもつかどうかを検討します。
主として比例原則を満たしているかが争点となります。すなわち、公益上の必要性VS被侵害利益を考えるというものです。
比例原則を満たしていなければ、行政規則はそもそも行政法の一般原則に反することになるため、裁行政規則に沿った運用をしている時点で、裁量の逸脱・濫用として、行政処分は違法というわけです。
>>>行政法の一般原理である比例原則について詳しい解説【行政法その13】
②個別事情考慮義務
続いて、裁量基準(行政規則)に合理性があったとしても、個別的に考慮しなければならない事情があることがあります。事案に応じて個別事情を考慮したかどうか、を検討しなければなりません。
個別事情をしっかり考慮して判断していなければ、裁量の逸脱・濫用として、行政処分は違法ということになります。
裁量基準(行政規則)があったとしても、それを機械的に適用していたらダメというわけです。しっかり考えて適用しなさい!ということですね。
まとめ
以上、行政立法についてみてきました。
考え方としては以下の図のようになります。
行政立法を、法規命令と行政規則に分け、
法規命令は①白紙委任か②委任の趣旨に反しないか
行政規則は基本的に裁量基準なので、①行政規則に合理性があるか②個別事情を考慮しているか
を検討していくわけです!
この考え方の流れをしっかり押さえておきましょう。
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
行政法でわかりやすい基本書・参考書といえば、基本行政法一択でしょう。
行政事件訴訟法から、行政法総論、行政組織法まで1冊ですべて学習できます。また、事例・判例が豊富なので、実際のイメージをもちながら学習を進められるので理解が深まるものになっています。