贈与(民法549条)を民法改正の条文からわかりやすく解説【契約法その7】

民法

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法上向

今回は贈与についてみていくぞ。

贈与ってほとんど試験に出てきませんよね。論点もよくわからないし……。

法上向

そうだね、ただ短答では出題されるし、社会では行われいるものだから法律を学習する者として最低限は理解しておくようにしよう。

贈与は論述の試験問題としてはほとんど出題されることはありません。論点も少ないからです。

ただし短答では出題されますし、贈与は社会で一般的に行われるものです。法律を学習した者としては贈与について「どうなれば贈与契約が成立し、どういう効果が発生するのか?」という最低限の知識は知っておく必要があります。

それでは見ていきましょう。

贈与のポイント

贈与の契約成立についてまずチェックします。そして贈与契約では書面でする場合と書面でしない場合について解除ができるかどうかで違いがあります

さらに贈与から生じる債権債務についてもしっかり押さえましょう。

また、贈与には特殊な贈与がいくつかあります。この点については最後に簡単に押さえることにします。

①贈与契約の成立についての要件を押さえる。その際に書面による場合の効果についても確認する。
②贈与から生じる債権・債務を理解する。
③特殊な贈与について知る。

それではさっそく解説していきます。

贈与の成立

贈与の条文は民法549条

贈与の要件を確認する場合はまずは条文を確認する必要があります。民法549条をみてみましょう。

(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

この条文をみれば、贈与契約は相手方との合意によって成立するといえます。このように合意のみによって成立するものを諾成契約といいます。

贈与契約は諾成契約です。財物が受贈者にわたってはじめて贈与が成立するのではなく、合意で贈与が成立するということです。

ただし、贈与は基本的に書面ですることを見据えています。これは民法550条を見てみましょう。

(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

書面によらない贈与の場合には「債務不履行がなかったとしても」当事者で解除できるというわけです。

つまり書面によらない贈与契約はすごく拘束力が弱いものになるといいうわけです。

そこで、贈与契約では基本的に書面ですることが要求されていることがわかります。民法550条の条見出しが「書面によらない場合」を規定していることからも書面によることがデフォルトであることがわかりますね。

よって贈与の基本は

贈与の合意+書面
※書面によらない場合には当事者で解除できる

というわけです。

書面によらない贈与(民法550条)

まずなぜ贈与では基本的に書面ですることが要求されているのかを理解しましょう。

贈与は、贈与者が無償で受贈者に財物を渡すことの合意です。一方的に不利益があるのは贈与者ということになります。

つまり贈与は当事者間で不公平な契約なのです。そのため、後々問題が生じないように、贈与者は慎重に判断して贈与をしてもらう必要があります

そこで民法では贈与契約について「書面」ですることを要求しているわけです。

ここでもう一度条文を見てみましょう。

(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない

書面によらない贈与の場合には当事者は「債務不履行がなくても」解除することができますが、民法550条ただし書によれば「履行が終わった部分」については解除できないとしています。

これは受贈者の期待の保護を目的としたものです。財物をもらったのに、贈与者から「書面してなかったからいつでも解除できるよね。解除するから財物返して」といわれると受贈者はたまったものではなりません。

履行は外部的な行為態様が認められればよいとされているので、不動産の場合は実際の引渡しがなくとも、「所有権移転登記」がされた場合でも履行が終了したとされます。

贈与から生じる債権・債務

贈与者の債権・債務

贈与者は財物を引渡す義務があります。これは贈与契約が贈与者から受遺者への財物引渡しを合意するものであったことからも当然です。

そして、売買の場合と同様、贈与でも「契約に適合した財物」を引渡さなければこの引渡義務を履行したとはいえません。

ところが贈与の場合にはこの引渡義務について推定規定が置かれています民法551条1項を見てみましょう。

(贈与者の引渡義務等)
第五百五十一条 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。

ポイントはあくまで「推定」であるという点です。

贈与者と受贈者の契約としては「契約適合物を引渡す義務」があることを前提として、主張の段階では「特定した時点(引渡す時点)での財物を引渡せば一応贈与契約が成立したと推定する」というわけです。特定については債権総論の種類債権・特定物債権の学習を参考にしてください。

逆に受贈者としては「いやいや、契約内容と違うぞ!」ということを反論として主張しなければならないというわけです。

この反論が通れば、贈与契約は「契約適合物を引渡さなければならない」という義務が正面から認められますので、受贈者は追完請求や損害賠償請求をすることができることになります。

受贈者の債権・債務

贈与は一方的に贈与者が財物を与えるものです。「無償」が原則となっています。

そのため、基本的には、受贈者は贈与者に対して債権を持たないことになります。

贈与の場合も売買の場合と異なり一般的に受領義務はないと考えてよいでしょう。とはいえ、受領義務があるかどうかは契約内容次第ということになります。

特殊な贈与

定期贈与(民法552条)

(定期贈与)
第五百五十二条 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。

これは条文を読めば簡単に理解できると思います。定期贈与とは、一定期間ごとに財産を贈与する贈与契約のことです。贈与者はすごくいい人ですね(笑)。

負担付贈与(民法551条2項)

(負担付贈与)
第五百五十三条 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する

負担付贈与とは、受贈者も一定の義務が課されている贈与のことです。少しわかりにくいので下の図を確認してみましょう。

ポイントは、受遺者が負う負担は別に財産的なものでなくてもよいことです。たとえば贈与を受ける代わりに贈与者の生活の面倒を見る、といったものでも負担付贈与となります。

また、この一定の給付が財物の対価=代金である場合は売買契約となるので、しっかり契約内容・当事者の意思等を確認するようにしましょう。

贈与契約では負担(一定の給付)は贈与者の利益を上回ることができません。贈与者は財産の不適合について「負担の限度で」責任を負います。このことは民法551条2項からもわかります。

(贈与者の引渡義務等)
第五百五十一条 
2 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。

つまり受贈者に損失を与えてはいけないということです。贈与者はその調整は双務契約に関する規定によるとされています。

たとえば、贈与者が契約不適合について実際は1000万円の価値である不動産を贈与して、受贈者は5000万円の負担を負っていた場合、贈与者は受贈者の負担分(4000万円)の責任を負うということです。この場合、受贈者は売買契約のときのように代金減額請求等をすることができるでしょう。

一方、贈与者が契約不適合により実際は1000万円の価値がある不動産を贈与することになっているが、受贈者は100万円しかそもそも負担しなくてよかった場合には受贈者は実質上900万円の利益を受けることになるので、受贈者に「損失」がなく、問題はないことになります。

死因贈与(民法554条)

(死因贈与)
第五百五十四条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する

死因贈与は遺贈として考えることになります。

ただし贈与契約であることは前提ですので、遺贈のように書面が要件となっているわけではなく、遺贈の承認・放棄に関する規定(民法986条以下)も準用されません。

詳しくは家族法の遺贈を学習してから戻ってくるとわかりやすいでしょう。

まとめ

贈与について確認してきました。いかがだったでしょうか。

贈与は試験には出にくい分野ですが、日常生活ではよく聞く言葉だと思います。友だちから「贈与って法律的にはどういうものなの?」と聞かれた際にすぐ答えられるくらいには知識をつけておきたいものですね。

贈与とは、基本は「無償」で財物を渡す「合意」のことです。間違っても「財物を渡すことが贈与」と勘違いしないようにしましょう。贈与は「合意」で成立するものですからね。

解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

契約法について、初学者が学習しやすい本としては潮見佳男先生の『債権各論Ⅰ』をおすすめします。薄いため、最低限の知識がコンパクトにまとめられており、語り口調も丁寧語であるため、しっかり読めば理解できる流れになっています。青・黒・白と三色刷りなのでポイントも青の部分を読めばわかります。

もちろん、改正民法対応です。ぜひ読んでみてください!

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