前回の記事で占有権の効果として果実や費用の償還請求権を勉強したね。
たしか、占有権にはもう一つ重要なものとして「占有の訴え」がありあしたよね。
そうだね!占有の訴えとは、いわば占有における物権的請求権だぞ!
意外と重要だから、しっかり押さえていこう。
占有権の効果として、果実や費用の償還があるということは前回解説しました。
もう一つ、占有権の大事な効果、権利として、占有の訴えというものがあります。
今回は、占有の訴えについて詳しく学習していきましょう!
占有の訴えのポイント
占有の訴えは、いわば所有権における物権的請求権と同様の権利です。
占有の訴えは、物権的請求権同様3種類あります。そして、それぞれの権利はほぼ物権的請求権の3種類(返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権)に対応しています。
>>>物権的請求権についてのわかりやすい解説【物権法その2】
そして占有の訴えの要件について確認していきましょう。
占有の訴えとはどういうものか?
そして、
占有の訴えが認められるには何が必要か?
この2点を押さえることが大事というわけです。
①占有の訴えの種類について理解する。
②占有の訴えが認められるための要件について理解する。
それでは見ていきましょう。
占有の訴えとは?
占有の訴え(民法197条)
占有の訴えとは何か?をまずは考えていきましょう。
占有の訴えは、わかりやすくいうと、所有権に基づく物権的請求権の占有権バージョンです。
意外に思われるかもしれませんが、
物を占有していただけでも、相手方に対していろいろな請求ができるのです!
これが民法197条に規定されています。
(占有の訴え)
第百九十七条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
民法197条は「次条から第202条までの規定に従い」と規定しています。ではそれぞれ見ていきましょう。
占有保持の訴え(民法198条)
占有保持の訴えの条文は民法198条です。
(占有保持の訴え)
第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
占有保持の訴えは、所有権に基づく物権的請求権でいうところの妨害排除請求権です。
「占有が妨害されているから、やめろー」
というやつですね。
また、民法198条に従えば、損害賠償もすることができるとされています。
この損害賠償とは、実質的には不法行為に基づく損害賠償のことです。不法行為をまだ勉強していない人も多いと思われるので、ここでは省略しますが、
占有保持の訴えは、妨害排除の他に損害賠償もできる!
という点は押さえておくようにしましょう。条文に規定されているので覚えるまでもないですが……。
占有保全の訴え(民法199条)
占有保全の訴えの条文は民法199条です。
(占有保全の訴え)
第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
占有保全の訴えは、所有権に基づく物権的請求権でいうところの妨害予防請求権です。
「占有が妨害される可能性があるから、やめろー」
というやつですね。
こちらも、占有保持の訴え(民法198条)同様、損害賠償請求ができます。
占有回収の訴え(民法200条)
占有回収の訴えは民法200条になります。
(占有回収の訴え)
第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
占有回収の訴えは、所有権に基づく物権的請求権でいうところの返還請求権です。
「返せ!!」
というやつですね。
実際、占有の訴えとして試験で登場するのは、民法200条くらいです。他の、占有保持の訴えや占有保全の訴えは問題として見たことがありません。
民法200条2項は少しわかりにくいですが、
占有回収の訴えは占有を侵奪した特定承継人(すなわち、侵奪者からの転得者)には、基本的に、提起することができないという点も押さえておきましょう。ただし、転得者が悪意(侵奪を知っていた)場合にはその者に対して提起できます。
簡単にいえば、
占有回収の訴えは、侵奪者+悪意の転得者に対してしか提起できないということです。
また、占有回収の訴えの場合も、占有保持の訴えや占有保全の訴え同様、損害賠償が可能です。
重要!占有の訴えは1年以内にせよ!(民法201条)
占有の訴えで、物権的請求権と似たものなんですよね!なんか占有していただけでこんな強い権利が認められているのが受け入れがたいです!
たしかにそうだよね!
占有していただけで、返せ!というのはなんか違和感を感じちゃうよね。けど、実は占有の訴えには1年以内という時間制限があるという弱点があるんだ。
占有の訴えは、相手方に対して占有の妨害排除等を請求できる非常に強い権利です。
それが占有しているだけで認められるのは少し違和感がありますよね。
しかし、占有の訴えには致命的な弱点があります。
それは時間制限があるという点です。
物権的請求権は絶対的権利なので、時間制限などはありませんでした。しかし、占有の訴えには提起までに時間制限があるのです。
民法201条をみてみましょう。
(占有の訴えの提起期間)
第二百一条 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。
2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。
3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。
占有の訴えでは占有回収の訴え以外は基本的に出題されないので、占有回収の訴えだけをみてみましょう。
占有回収の訴えは、占有を奪われた時から「1年以内」に提起する必要があります。
1年以内に提起せよ!
これが占有回収の訴えという占有だけで強力な権利行使のために認めらた枷なのです。
占有の訴えの要件
占有の訴えの要件は①占有していたこと②現在の妨害(相手の占有など)
物の返還などの場合
占有の訴えは物権的請求権と同様に考えることができました。
物権的請求権の訴えの要件は、①もと所有②現在の妨害(現占有など)でした。
これを占有の訴えに返還すると、
①もと占有②現在の妨害(現占有など)となります。
もと占有という言葉はあまり使わないので、正確には、
①占有していたこと②妨害(相手方の占有など)
となりますね。
試験に出るとしたら、占有回収の訴え(民法200条)なので、
①占有していたこと②相手方が占有していること
の2つを主張することになります。
こう見ても、占有の訴えは、占有しているだけで非常に強い権利が与えられているといえるでしょう。
損害賠償
また、条文によれば、損害賠償もできました。
これは不法行為における損害賠償の考え方が用いられているので、
①占有していたこと②相手方が妨害していること(占有など)
の他に、
③損害・額④因果関係⑤故意・過失
が必要になります。
ただし、損害賠償は発展的で試験にもほぼ出ませんので、
不法行為を学習した後に軽く復習するくらいで大丈夫だと思います!
占有を奪われたこと・1年以内
そのほか、注意点がいくつかあります。
前項目で解説したとおり、占有の訴えには期間制限がありました。
そのため、1年以内かどうかもチェックする必要があります(これは相手方が1年以内ではないという反論として登場するものです)。
また、占有回収の訴えでは「占有を奪われたこと」(民法200条)も要件としては必要なことには注意が必要です(請求権者と相手方のどちらが主張するかには争いがあります)。
まとめ
いろいろ書きましたが、少なくとも覚えてほしいのは、
占有の訴えの要件は
①占有していたこと②現在妨害されていること(相手方の占有など)
+
1年以内(民法201条)
+
占有回収の訴えの場合には「占有を奪われたこと」
が要件となるということです。
まとめ
以上、占有の訴えについてみてきました。
占有の訴えは実は試験にはあまり出ない分野です。しかし、知っておく必要がある分野ではあります。
占有についても、
所有権に基づく物権的請求権同様の権利があるんだなー
けど、基本的に1年以内じゃないと無理なんだなー
くらいは押さえておきましょう!
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
物権法のわかりやすい基本書としては佐久間先生のものをお勧めします。
事例付で詳しく解説されているので、初学者の方には特におすすめです。