民法総則は全体にかかわるメジャーな分野が多いのだが,特にメジャーでよく使われる分野が時効だ!
物権でも債権でもよく出てくる論点みたいですね。
そうなんだ,「時効を理解せずして民法は成らず」ともいえるだろう。今回は取得時効の考え方をみていこう。
時効は法律を知らない方でも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。それくらいよく登場する分野なのです。しかし,法科大学院では要件中心の勉強をするのに,大学の学部では要件の勉強はあまりしないため,条文をおろそかにしてしまいがちでなんとなくで解いてしまうことの多い分野だと思います。今回は「わかりやすさ」を極めるために要件から入っていきましょう。
取得時効のポイント
取得時効は要件を理解すれば終わりです。非常に単純ですが,要件を押さえずに理解しようとすると論点をすっとばしてしまう恐れがあります。しっかり理解していきましょう。
②時効の要件を押さえる。
時効の根拠
覚えておきたい3つの趣旨
時効には大きく分けて取得時効と消滅時効の2種類のものがありますが,まず法律を学んだ者であれば時効の根拠くらいは(だけでも)言えるようになっておきたいところですよね。
問題としては出題されにくい部分だと思いますが,なぜ時効制度があるのか理解するのは非常に大事だと思います。
時効の趣旨については以下の3つがよく言われます。
②権利の上に眠る者は保護しない
③立証困難
社会の安定性
時効というのは何年も所有しているからその人の物にしていいよー(取得時効),とか何年も権利行使しないから権利消滅するよー(消滅時効)とかいうものです。
なぜこのような権利があるのか?と聞かれて最初に思いつくのがコレだと思います。
つまり,何年もその状態であるからもうその状態を権利として認めていいんじゃね?ということです。何年もそのままでオッケーとされているならあえてその関係をほじくり返していろいろ探らなくていいでしょということですね。
みなさんもパンドラの箱を見つけてもそっとしておきましょう。触らぬ神に祟りなしですから(笑)。
権利の上に眠る者は保護しない
時効というのは上記で述べたように何年も触られていない関係があるからもうそのままでよくない,という考えがバックにあります。さらに過激化して,何年も黙ってたのに,急に権利を主張してくるのはおかしくね,との考えにも発展するのです。これが権利の上に眠る者=何年も黙っていた者は保護しなくていいでしょ,という論理です。
立証の困難
最後に訴訟法上の問題点を理解しておきましょう。時効がないと,何年たっても法律関係を争うことができます。
たとえば,権利の取得から100年たったものでも争おうと思えば争うことができることになるのです。100年前の証拠なんて残っていると思いますか?当時の人はおろか証明書等が残っているかどうかすら怪しいですよね。このような立証の困難さを回避するために,時効制度があるとの説明をすることができます。
時効の要件を押さえよ
民法162条
まずは条文を確認してみます。
(所有権の取得時効)第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
1項は20年間そのままであった場合であり長期取得時効ということにします。
2項は10年間そのままであった場合であり短期取得時効ということにします。
それぞれの要件を確認してみましょう。
長期取得時効(民法162条1項)の要件
(所有権の取得時効)第百六十二条 ①二十年間、②所有の意思をもって、③平穏に、かつ、公然と④他人の物を⑤占有した者は、その所有権を取得する。
(時効の援用)第百四十五条 ⑥時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
民法162条1項と民法145条をまとめると以下のようになります。
①20年間
②所有の意思
③平穏かつ公然
④他人の物
⑤占有
⑥時効の援用
20年間の占有(①・⑤)
占有は皆さんがイメージする占有(直接占有)のほか,誰かに占有してもらう(間接占有)も含まれますが,それほど意識しなくて大丈夫でしょう。また実際には,民法186条2項があるので占有開始時と20年経過時に占有していたことの主張立証があればよいことになります。とはいえ実体法上の要件でここまで理解する必要はないでしょう。
所有の意思(②)
所有の意思とは(自分=時効を主張する者が)所有する意思のことです。所有の意思を主張する際には,外形上の客観的な観点から示す必要があります。
「俺は所有の意思を持ってたの~~!!」と言ったって誰も相手にしてくれないということです。客観的な観点から示す必要があるのですね。
ただし,これは民法186条1項より推定されるため,実際には相手方が他主占有事情や他主占有権限を主張することになりますが,深入りは避けましょう。
平穏かつ公然(③)
これは文字通りです。しかしこれも民法186条1項により推定されるので,実際には相手方が強暴または隠秘であることを示す必要があります。
他人の物(④)
この要件は勘違いしやすいので注意してください。判例では自己の物の時効取得も認めています。よって他人の物=争いのある物とだけ理解しておきましょう。決して自分以外の他人の物と理解してはいけません。
時効の援用(⑥)
非常に忘れやすい要件なので注意です。民法162条1項ではなく民法145条に書かれている点を意識しましょう。
短期取得時効の要件(民法162条2項)
2 ①十年間、②所有の意思をもって、③平穏に、かつ、公然と④他人の物を⑤占有した者は、その占有の開始の時に、⑥善意であり、かつ、⑦過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(時効の援用)第百四十五条 ⑧時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
長期取得時効と異なるのは⑥⑦だけです。しかし復習として①~⑤,⑧は再掲しておきます。
20年間の占有(①・⑤)
占有は皆さんがイメージする占有(直接占有)のほか,誰かに占有してもらう(間接占有)も含まれますが,それほど意識しなくて大丈夫でしょう。また実際には,民法186条2項があるので占有開始時と20年経過時に占有していたことの主張立証があればよいことになります。とはいえ実体法上の要件でここまで理解する必要はないでしょう。
所有の意思(②)
所有の意思とは(自分=時効を主張する者が)所有する意思のことです。所有の意思を主張する際には,外形上の客観的な観点から示す必要があります。
「俺は所有の意思を持ってたの~~!!」と言ったって誰も相手にしてくれないということです。客観的な観点から示す必要があるのですね。
ただし,これは民法186条1項より推定されるため,実際には相手方が他主占有事情や他主占有権限を主張することになりますが,深入りは避けましょう。
平穏かつ公然(③)
これは文字通りです。しかしこれも民法186条1項により推定されるので,実際には相手方が強暴または隠秘であることを示す必要があります。
他人の物(④)
この要件は勘違いしやすいので注意してください。判例では自己の物の時効取得も認めています。よって他人の物=争いのある物とだけ理解しておきましょう。決して自分以外の他人の物と理解してはいけません。
善意(⑥)
注意が必要な点があります。善意とは一般的に「知らない」ことを意味しますが,ここでの善意というのは「信じていたこと」「疑いのないこと」を意味するとされている点です。というのも時効取得は継続状態に対する信頼を保護することを目的としているため(社会の安定,権利の上に眠る者の保護の裏面的解釈)知っていたよりも信じていた(疑ってなかった)の方が適切と考えられるからですね。他にも94条2項類推適用や表見代理,即時取得の場合の善意は同様に信じていたことと考える見解があります。
ただし,これは民法186条1項により推定されるので,実際は相手方が悪意を主張立証することになります。深入りはしません。
無過失(⑦)
無過失は上記の善意に対応するものです。よって,「信じたことに過失がなかったこと」を意味します。
これも他の要件同様,推定規定等がありそうですが,ありません!ひっかけです!
時効の援用(⑧)
非常に忘れやすい要件なので注意です。民法162条1項ではなく民法145条に書かれている点を意識しましょう。
まとめ
以上,要件を中心に取得時効についてまとめてみました。完全に条文から要件を抜き出して当てはめていけば終わりです!簡単ですね!
逆に要件に頼らず自分勝手に認定していくと論点を抜かしたりしてしまう可能性があるので注意しましょう!
回答は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。改正民法対応でわかりやすいのでおすすめです。