試験対策!不当廉売の論点・要件をまとめてみた!【経済法その8】

経済法

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法上向

「安く売ること」についての経済法の規制って何か知ってるかい?

安く売ること?それって経済的にはいいことじゃないですか!経済法ってそんなことも規制してるんですか!?

法上向

経済的に見ればただ安く売ればいいってもんじゃないんだ。何も考えずに安く売るとその市場が最終的に共倒れする可能性もあるからね。

なかなか理解しづらい「不当廉売」について今日は学習していくことにしよう。

経済法は「安く売ること」についての規制があります。安く売ること=廉売は経済自体に悪影響がなさそうな行為に思われるかもしれませんが、実際には安く売ることが経済に悪影響をもたらすこともあるのです。このような廉売を「不当廉売」と言います。

とはいえ、安く売ることは基本、経済にとっていいことです。そのため、「不当」になるかどうかを見極める必要があります

よって、不当廉売は、不公正な取引方法とは異なり、独自の要件が存在することになるのです。つまり不当廉売特有の考え方を理解する必要があるというわけです。

不当廉売について要件から理解していくことも目的に、今回も解説していきます!

不当廉売のポイント

不当廉売とは、「安くで売る」ことを規制するものです。なぜ「安く売ること」を規制するのか?疑問に思うと思います。そのため、まずは不当廉売についてしっかりと理解していきましょう。

その次に、不当廉売の要件「供給に要する費用」、「著しく下回る対価」、「継続して」、「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ、公正競争阻害性といった要件を検討していきましょう。

他の要件にはあまりない要件が多いので、しっかり独自の論点として押さえていく必要があります。

①不当廉売とは何かを理解する。
②要件「供給に要する費用」を理解する。
③要件「著しく下回る対価」を理解する。
④要件「継続して」を理解する。
⑤要件「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」を理解する。
⑥公正競争阻害性を理解する。

それでは見ていきましょう!

不当廉売とは?

不当廉売とは不当に安く売ること

不当廉売とは不当に安く売ることです。当たり前ですが……。

ポイントは「廉売」=安く売るだけでは違法にはならないということです。

経済上、市場競争が活発になれば、安く売る方向になるのが通常です。このような形での廉売は「不当」ではないので規制対象にはなりません。

基本的に価格については自由に事業者が決定できます。そのため、ただ単に安く売ったからといって違法にはならないわけです。むしろ消費者によっては安く売ってくれた方がありがたいので推奨されるかたちになります。

しかし、次の場合を想定してみましょう。

俺は市場で独占的な地位を気付きたいから、収益とか考えずに、めっちゃ安く売ってやる!

このような自滅行為にもなりうる廉売が起こったとします。これでその事業者だけ自滅してくれれば何も問題ないのですが、

他の事業者は競争のために安く売らざるを得なくなります。

え?あの事業者めっちゃ安く売ってない?俺のところも安く売らないと売れなくなるなー。

という形で他の事業者も合わせるしか選択肢がなくなっていくのです。すると安く売りすぎて両事業者共倒れしてしまう可能性がでてきます。

すなわち、不当廉売は、廉売する事業者が自滅するだけならいいものを、他の事業者を巻き込んだり・道連れにしたりするから規制されているわけです。

適用条文は独占禁止法2条9項3号・一般指定6項

条文は2つあります。

独占禁止法2条9項3号一般指定6項です。

二条
⑨ この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
三 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

(不当廉売)
6 法第二条第九項第三号に該当する行為のほか、不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。

条文の違いが分かりにくいですが、

独占禁止法2条9項3号の要件は④「正当な理由がないのに」①「供給に要する費用を著しく下回る対価で」②「継続して」供給すること③「他の事業者の事業活動を困難にさせる」ことの4つです。

それに対し、一般指定6項の要件は③「不当に」①「低い対価」で商品・役務を供給し②「他の事業者の事業活動を困難にさせる」ことの3つになります。

よって大きな違いとしては、

㋐対価が「著しく下回る」かどうか
㋑継続性があるかどうか

の2点ということになります。

試験問題の検討順としては、

まず独占禁止法2条9項3号にあてはまらないかを検討し、継続性や著しく低い対価の要件を満たさないのであれば、一般指定6項の検討に移る

という流れをとっていくのが普通です。

まずは独占禁止法2条9項3号、ダメだったら一般指定6項

を合言葉に検討していきましょう!

それでは、まず独占禁止法2条9項3号の各要件についてみていきましょう!

要件①:「供給に要する費用を著しく下回る対価」

この要件が最も不当廉売の要になる要件です。

まず「供給に要する費用」からです。供給に要する費用とは、総販売原価と解されています。

総販売原価=仕入原価・製造原価+販売費+一般管理費

です。

そして「著しく下回る」必要があります。すなわち総販売原価を著しく下回る必要があるのです。

ここで不当廉売がなぜいけなかったのかをもう一度確認してみましょう。

総販売原価を下回って販売すること自体がすぐに違反とされるわけではありません。総販売原価には設備投資費や研究開発費のような固定的性質の費用があるので、下回っていても原価割れではないこともあり、市場戦略上、安売りの手段も有益とされるからです。

では何がいけないのか?

ここで学説・ガイドラインでは、「供給に要する費用を著しく下回る対価」とは、「廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用」を下回る対価である場合とされています。

もっと簡単に言えば、

平均回避可能費用を下回る=供給に要する費用を著しく下回る

というわけです。

平均回避可能費用とは、

㋐廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減する費用
㋑廉売対象商品の供給と密接な関連性を有する費用

などをいいます。たとえば原材料費用や仕入れ費用は供給に応じて変化するものなので平均回避可能費用に含まれます。

え!なんか色々出てきてわかんないんですけど!

法上向

もう一度確認しよう。

「供給に要する費用」=総販売原価だったね。

はい。そして「著しく下回る対価」というのは、平均回避可能費用(廉売対象商品を供給しなければ発生しない費用)を著しく下回ることなんですよね。

法上向

喝!

それは違うぞ。

「著しく下回る対価」=平均回避可能費用を「著しく」下回る対価ではなく

「著しく下回る対価」=平均回避可能費用を下回る対価

ということだ!

著しく下回るとはどのような場合かという解釈の中で、平均回避可能費用を下回るという基準をとるわけなんだ。平均回避可能費用は下回っていさえすればいい。

もう一度確認ですが、

「供給に要する費用」=総販売原価
「著しく下回る対価」=平均回避可能費用を下回る対価

です。平均回避可能費用は

㋐廉売対象商品の供給量の変化に応じて増減するか
㋑廉売対象商品の供給と密接な関連性を有するか

といった観点から判断します!

問題は総販売原価は下回っているが、平均回避可能費用は下回っていない場合です。この場合は「著しく下回る対価」にはなりません。

この場合は一般指定6項の「低い対価」に該当することになるわけです。

「著しく下回る」=平均回避可能価格を下回っていない場合でも低い対価であれば一般指定6項が使えるというわけですね。

固定的費用
固定的費用
平均回避可能費用
平均回避可能費用
総販売原価
総販売原価
「低い対価」
(一般指定6項)
「低い対価」(一般指定6項)…
「著しく下回る対価」
(独占禁止法2条9項3号))
「著しく下回る対価」 (独占禁止法2条9項3号))
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要件②:「継続して」

継続性の要件も対価と同様、独占禁止法2条9項3号一般指定6項を分ける要件です。

継続して」とは、廉売行為が一時的なものにとどまらず、相当期間にわたって繰り返し行われているか、その蓋然性があることを指します。

よく「継続して」という言葉を聞いて、ずっと廉売していないといけないと思いかもしれませんが、ずっと連続している必要はなく、たとえば毎週末(平日は廉売しない)場合でも状況によっては「継続して」の要件を満たすことになります。要は相当期間にわたって繰り返されていればよいわけです。

どれほどの期間にわたって行われていなければならないかというのは、各商品市場によって変わってきます。

廉売が廉売行為者自らと同等に効率的な事業者の事業の継続等に係る判断に影響を与えうる期間で行われていれば、継続性は認められるというわけです。

たとえば家電製品などはシーズンごとで新しい物が出ることが多いと思います(春モデル、夏モデル、秋冬モデルといった感じです)。となると1つの季節(4カ月~5カ月程度)継続性があれば「同等の事業者の判断に影響を与えうる」期間であるといえ、「継続して」の要件を満たすでしょう。

要件③:「他の事業者を困難にさせるおそれ」

他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」とは、他の事業者の事業活動を困難にさせる結果が将来される蓋然性が認められることを言います。

すなわち現実的に困難になっていなくても状況から困難になりそうであれば認定できるというわけです。

①廉売を行っているとされる事業者の事業の規模と態様
②問題となる商品、役務の性質、供給の数量、期間、方法
③廉売によって影響を受けるとされる他の事業者の事業の規模と態様等

を総合的に考慮して判断するのが相当であるとされています。

他の事業者に視点を当てて、他の事業者はどうなりそうかな?ということを考えていくというわけです。

要件④:公正競争阻害性

独占禁止法2条9項3号では「正当な理由がないのに」という文言が、一般指定6項には「不当に」という文言があります。

これらの文言は公正競争阻害性を表す文言でしたよね。不当廉売の場合には「自由競争減殺」を言意味します。

そのため、市場を画定し、総合的に悪影響を考えていくことになるというわけです。

>>>不公正な取引方法における公正競争阻害性の考え方【はじめての経済法その5】

しかし、不当廉売は安く売っているだけです。

事業者が他の事業者を巻き込むために自滅行為をすることはなかなか考えにくいでしょう。

そのため、不当廉売では公正競争阻害性の要件検討段階で「正当化事由」が認められることがよくあります。

そんな目的・理由があるんだったら、安売りしていてもしょうがないよね

という理由が認められることがあるということです。

たとえば、人気が落ちたことによる見切り販売、原価が低くなったことによる低価格設定、想定しがたい原材料の価格の高騰など「しょうがない」といえる理由があれば割と公正競争阻害性がないという判断も全然ありでしょう。

競争者排除の意図がないということや公益目的であるという視点で正当化事由が認められた判例も存在します。

まとめ(論証)

不当廉売を見てきました。論証として覚えるべきは「供給に要する費用を著しく下回る対価」の点くらいでしょう。

「供給に要する費用」とは、総販売原価(平均総費用)を意味し、「著しく下回る」とは、平均回避費用を下回ることを意味する。
平均回避費用は、供給量に応じて増減する費用か、供給と密接な関連性を有する費用という観点から判断される。

不当廉売は、この基準を覚えていなければほぼ終わります。しっかり対価をチェックして、独占禁止法2条9項3号の問題か、一般指定6項の問題か注意していきましょう。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

経済法を本格的に学習する人の中で入門的に使ってほしい参考書を上げてみます。というか論証の暗記として使えるものを用意してみました。

とりあえず経済法のスタートは「要件の暗記」です。そのため、要件自体のガイドラインや判例通説をもとに逐条的に解説してある『条文から学ぶ独占禁止法(第2版)』をおすすめします。

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