捜索差押えは令状がなければ行えないのが基本だったよね。しかし,実は令状がなくても行える例外的な場合があるんだ。どのような場合かわかるかな?
現行犯逮捕の場合ですよね?
その通り!この場合の捜索差押えについては,緊急処分説と相当説の対立があってわかりにくくなってるなー。しかし,そもそもなんでこのような論点が出てくるのか,条文から意識的に見てみるとわかりやすくなるぞ!
逮捕による無令状の捜索差押えは,緊急処分説,相当説の対立をはじめ,学説上の対立が激しい分野です。ここでは条文から論点を導き出し,その論点をどのように考えれば整理できるのかを解説していこうと思います。
無令状捜索・差押えのポイント
まず,緊急処分説と相当説の対立を整理してみたいと思います。次に,別の論点である「逮捕の場合」「逮捕の現場」について簡単に解説できたらいいなー,と思います。
この2つの論点は条文の解釈から生じる論点です。そのため,条文を意識してポイントを押さえていきます!
②緊急処分説と相当説の対立を理解する。
③逮捕の場合についての解釈を押さえる。
④逮捕の現場についての解釈を押さえる。
無令状捜索・差押えの条文を理解!
刑事訴訟法220条1項2号
第二百二十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。3 第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない。
つまり,通常逮捕,緊急逮捕,現行犯逮捕に伴う場合であれば無令状でも捜索差押えができるというわけです。
この趣旨について,緊急処分説と相当説の対立があり,それに関連して,どの範囲にまで捜索ができるのかといった問題が生じています。
さらに,条文の赤太字からわかるように,「逮捕する場合」と「逮捕の現場」についても議論があります。
以上,3つが無令状捜索差押えの論点というわけです。条文を見さえすれば論点がわかるという意味でも条文は大事というわけですね!
②「逮捕する場合」という文言の解釈が問題になることがわかる。
③「逮捕の現場」という文言の解釈が問題になることがわかる。
緊急処分説と相当説の対立
両説に共通するのは証拠物があることの蓋然性
まず,大前提として,令状がなくても捜索差押えができる理由は,令状がなくても要件を満たす(趣旨から考えて問題ない)からです。
さて,ここで捜索令状の要件を復習してみましょう。以下の記事が参考になります。
もっとも重要な部分が,証拠物があることの蓋然性です。逆に言えば,無令状の捜索差押えが無制限に許されるということはなく,趣旨,要件が妥当する範囲,つまり証拠物があることの蓋然性がある範囲内でしか捜索を行うことができないということです。
これは緊急処分説であれ,相当説であれ大前提として機能します。
また,令状の場合とは異なり,令状を取る必要のないため,令状の種類によって具体的態様を分ける必要はなく,被疑者の身体の捜索も可能です(身体捜索令状と場所の捜索令状は無令状なので区別されない)。
ただし,第三者の身体捜索が許されるかは議論があり,通常は証拠物がある蓋然性に欠けるからどちらの説であれ,できないと考えられています。
ただし,第三者の身体捜索も令状の場合の理論を適用すれば許される場合があるんだ。どのような場合かわかるかな?
捜索を妨害する目的で隠匿した場合ですよね。この場合は刑事訴訟法111条の必要な処分として,原状に回復するために相当な処分をすることができます。令状による捜索差押えでやったところですね。
以上,共通する問題として,証拠物があることの蓋然性,被疑者の身体への捜索,第三者の身体の捜索の問題を見てきました。
学説によって見解が分かれるはより具体的な捜索対象の範囲です!対立の軸を見ていきましょう。
相当説は同一の管理権が及ぶ範囲
相当説では証拠物がある蓋然性からさらに範囲を絞りません。つまり,令状の発付を受ければ捜索できる範囲はすべて無令状でも捜索できるとします。またまた復習です。
捜索令状で捜索できる範囲の基準はどうだったでしょうか?以下の記事が参考になります。
場所的同一性と管理支配の個別性が基準でしたね。そのため,逮捕した際,被疑者の管理権が同一である場所,管理支配が及んでいる場所が無令状でも捜索対象となります。
緊急処分説は証拠隠滅の現実的危険性も加味する
一方,緊急処分説は証拠隠滅のおそれがある範囲に捜索範囲を限定します。つまり,令状を取った場合に比べて基本的に無令状の場合は捜索範囲が狭くなるのです。
これをかっこよく,証拠隠滅の現実的危険性がある範囲としておきましょう(これに人の身体の保全を加える学説がありますが,ここでは省略します)。
まとめ
以上をわかりやすく図でまとめてみましょう。逆にわかりにくいかもしれない(笑)。
「逮捕する場合」の解釈
以上の相当説と緊急処分説の違いを踏まえて「逮捕する場合」の解釈を考えてみます。
第二百二十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
「逮捕する場合」は一見すると,逮捕時と同時に行わなければいけないのかな,と思いがちです。しかしそれではほとんど捜索差押えはできないことになってしまいます。
そのため,緊急処分説からは証拠隠滅の現実的危険性がある場合であれば,逮捕前でも逮捕後での捜索差押えを行うことができるとされています。
また,相当説からは限定的な趣旨はないので,大前提である証拠物があることの蓋然性があれば捜索差押えができることになります。
このように,一見して?となるような文言でも条文の趣旨から緩和され運用されていることがあるので注意しましょう。
「逮捕の現場」の解釈
次に,逮捕の現場の解釈についてです。
第二百二十条二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
ここは先ほどの趣旨による緩和とは異なり,逮捕の現場は文言通り実際に逮捕をした場所とされています。
えっ!?でもたしか判例では,逮捕して近くの警察署で捜索差押するのを認めてましたよね?
よく勉強しているね。この場合は「同視できる」として許されるとするんだよ。
逮捕の現場でのみしか捜索差押えができないとすると,被疑者のプライバシーや交通の妨げになる場合があり,不都合が生じる可能性があります。
そのため,一般的に,被疑者を適当な場所に移動させたうえでの捜索差押えができるとされています。この理論構成にはなかなか難しいものがありますが,判例によれば「同視」できるとして許可しています。
ここでの同視とは,逮捕の現場での捜索差押えと移動された場所での捜索差押えが同視できるという意味です!決して逮捕の現場と移動された場所が同視されているわけではない点は注意しましょう。
これを学説の理論に当てはめると,必要な処分(刑事訴訟法111条)として移動できる考えることもできます。
まとめ
以上,無令状の捜索差押えについてみてきました。緊急処分説と相当説の対立があるが,実際この対立が問題となるのは捜索場所の範囲くらいで,無令状捜索差押えにかかわる他の論点はほぼ共通することもわかってもらえたと思います。
どうしても学説の対立に目が行きがちですが,この記事を通して,無令状捜索差押え自体にかかわる問題,論点を整理していただけたのであれば幸いです。
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事訴訟法の参考文献として「事例演習刑事訴訟法」をお勧めします。はじめての方にとっては解説が大変難しい問題集ですが,非常に勉強になるものです。また,冒頭にあります答案作成の方法について書かれた部分については,すべての法律について共通するものなのでぜひ読んでほしいです。自分も勉強したての頃にこれを読んでいれば……と公開しております。
最初は学説の部分はすっとばして問題の解答解説の部分だけを読めばわかりやすいと思います。冒頭の答案の書き方の部分だけでも読む価値はあるのでぜひ参考にしてみてください。