ロー生が過失犯を判例通説でわかりやすく解説【刑法総論その5】

刑法

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故意が認められなければ,過失を検討するんですよね。

法上向

そうだね,過失犯が規定されているときに限るけどね。

過失が認められてる場合ってわかるかい?

え!?過失に考慮要素ってあるんですか?

故意が認められない場合,過失を検討することになります。ただし,刑法において,基本は故意がなければ処罰されません。つまり,故意が認められない場合は,基本的には刑罰を問えないが,例外的に過失犯が規定されている場合には過失犯として責任を問うことができる,ということになります。

過失の検討要素として,大きく2つあります。さっそく見ていきましょう。

過失犯のポイント

過失犯では,予見可能性と結果回避可能性をえます。この2つだけ検討すればオッケーです。なので,今までの錯誤の議論と比べてかなりわかりやすいと思います。

①過失犯の過失とは何かを理解する。
②予見可能性とは何かわかる。
③結果回避可能性とは何かわかる。
毎度のごとく,上記ポイントに沿って解説していきます!

過失とは結果回避義務違反である

過失犯について,学説の流れがあります。旧過失論と新過失論です。しかし,このシリーズではわかりやすさを求めたいので通説とされる新過失論的説明で行こうと思います。ご了承ください。

刑法において,過失とは,結果回避義務違反です。

予想される結果を回避しなかったことが過失であると考えているのです。

では,どのような場合であれば結果回避義務に反した,といえるのでしょうか?それは,予見可能性があり,結果回避可能性があるにも関わらず行為をした場合に結果回避義務違反があるといえるとされています。順にこれらの要素を見ていきましょう。

過失とは,結果回避義務違反である。結果回避義務違反を考える際には,予見可能性があるかと結果回避可能性があるかを検討していく。

予見可能性とは具体的+因果関係の場合は基本的要素

予見可能性は文字どおり,行為当時に結果を予見できたかを考えることになります。この予見可能性があれば,過失の考慮要素の一つが満たされることになります。

予見可能性の程度は原則,具体的

予見可能性を考える際に学説ではどの程度の予見可能性が必要か争いがあります。具体的な予見可能性が必要であるとする見解や抽象的な予見可能性でよいとする見解,さまざまな見解がありますが,ここでは具体的な予見可能性が必要だと考えます。

けど,一口に具体的といっても,よくわかりませんよね。そこである裁判例があります。

医療事故で業務上過失致死が問われた事例の判旨
「結果発生の予見とは,内容の特定しない一般的・抽象的な危篤感ないし不安感を抱く程度では足りず,特定の構成要件的結果及びその結果の発生に至る因果関係の基本的部分の予見を意味するものと解すべきである」
札幌高裁昭和51年3月18日判決
このように,予見可能性は構成要件的結果+因果関係の基本的部分の予見が必要なのです。これは結果回避義務を意識しているように思えます。
これをざっくり私の言葉でまとめると,予見可能性は基本的には具体的だけど,因果関係は基本的部分でいいよ,と言っているように感じます。

これを踏まえて次の裁判例を見てください。

被告人の運転する車の荷台にA・Bが乗車していました。被告人はA・Bが乗っていることに気づいていませんでした。被告人は運転中,ガードレールに衝突しそうになり,ハンドルの操作を失って,信号中に衝突。A・Bが亡くなった,という事件です。最高裁は,たとえ被告人が自動車の後部荷台にA・Bが乗車している事実をにんしきしていなかったとしても,両名に関する業務上過失致死罪の成立は妨げらない,としました。
最高裁平成元年3月14日決定
この事件で皆さんは「えっ⁉なぜ?」と思われるかもしれません。さきほどの裁判例を参考にすると,被告人の行為には具体的=構成要件的結果=A・Bの死の予見可能性はないように感じられるからです。
被告人にとって,A・Bが荷台に乗っているなんて運転中具体的に予見できるはずありません。

しかし,ここでもう一度,どれほど具体的でなければならないかを考えてください。結果回避義務を意識して,特定の構成要件的結果の予見があればよいのでしたよね?

運転中の結果回避義務には当然「人」を傷つけるような結果をもたらしてはいけない,という結果回避義務があるといえます。よって被告人の予見すべき結果=特定構成要件的結果というのは人一般の死だということになるのです。

といっても交通事故のような特殊な場合以外であれば,「具体的」というのは普通に考えてもらえばいいと思います。人に危害を加えることと隣り合わせの行為は一般的に自動車運転くらいしか思いつかないからです。

判断基準は同種の一般人

次に判断基準が問題となります。具体的予見が必要だとしても赤ちゃんからの予見と大人の予見は程度が異なるからです。

これは通常,同様の地位にいる人の予見可能性といわれています。

つまり医者の過失行為なら,同種の医者からすると具体的に予見可能であった事情に反したことが過失であり,自動車運転者なら,同種の自動車運転者(自動車免許をもって標識等の理解がある者)からすると具体的に予見可能であった事情に反したことが過失となるのです。

予見可能性は,原則,具体的予見可能性であり,因果関係の場合は基本的部分について必要である。この具体的予見可能性については,その行為にはどのような結果を回避する必要があるかを考慮する必要がある。
予見可能性の判断基準は同種の一般人である。

結果回避可能性の検討を忘れるな

結果回避可能性について

よくある例として予見可能性だけを検討して,過失を認定してしまうことがあります。しかしこれは厳密にはよくありません。もちろん論述で時間的制約の中で省略することはありますが。

予見可能性の他に結果回避可能性の検討が必要なのです。これは結果回避義務があったといえるには,その行為をしていれば結果が回避できた,といえなければ論理としておかしいと考えているからですね。

これも判例をみてみましょう。

タクシーを運転していたが,交差点で時速30~40キロメートルの速度で侵入したところ(本来なら見通しのきかない交差点なので徐行すべき),左方より赤色点滅なのに一時停止せずに進行してきた時速70キロメートルの自動車と衝突。傷害を負わせた。判決では,一時停止も徐行もせず時速70キロメートルという拘束で侵入してくる車両がありうるとは想定しがたいものであり,たとえ時速10~15キロメートルに減速して安全に運転していれば衝突を回避できたかはわからないとして無罪とした。
最判平成15年1月24日
この場合,自動車運転者であり速度も違反してるので予見可能性があるといえそうです。しかし,結果回避可能性に欠けます。ちゃんとしていても結果が発生したとされるからです。

ちょっと納得がいかないかもしれませんが,結果回避可能性がないと,刑法で過失犯は問わないとしているのです。

信頼の原則とは?

ここでちょっと信頼の原則を考えてみましょう。ただし,信頼の原則は限定的に捉えられているため,今回は軽く触れる程度にとどめます。

信頼の原則とは,その状況下では当然そのような行為はとらないと信頼できるから,信頼していた私に過失はない!相手が悪いんだー。というような場合です。

信頼の原則をどこに位置づけるかも難しいですが,ここでは過失を否定する要素と捉えることにします。信頼の原則は基本的に認められません。自分が過失行為=結果回避義務違反をしておきながら相手が悪い,といった主張はおかしいからです。

では信頼の原則が認められるのはどのような場合か?それは交通事故と医療事故の場合くらいだと考えます。医療現場では分担がされることが多く,役割分担がされている場合,その役割さえやっていれば他の役割については信頼してもよいと思われますし,交通の場合でも歩行者等,相手がちゃんと交通ルールを守るものと思って行動してよいとされるからです。

上記裁判例と同じような事例では信頼の原則をもとに過失を否定したものがあります。

結果回避可能性がない場合には,予見可能性がある場合でも結果回避義務は否定される。

まとめ

以上過失犯について考えてきました。もう一度まとめてきますね。

①過失犯は結果回避義務違反があるかどうかを考える。
②まず,具体的予見可能性があるかを考える。ただし因果関係は基本的部分のみでよく,行為によっては予見の程度が緩められる場合がある。
③次に,結果回避可能性があるかを考える。
非常に単純だと思います。ただし,今回は学説や細かい判例をかなり省いていますので,その部分は各自確認をお願いします。

読んでくださってありがとございました。ではまた~。

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