集会の自由でよく議論されているパブリックフォーラム論ですが,これは今までの法令が自由権を侵害するかどうか,の議論とは少しことなり,法令の規定の解釈から適用が正しいか=適用違憲の問題であるとともに,通常は認められない積極的表現の自由を認めるかの問題です。
今までとは少し異なることを理解せず,集会の自由をこれまでと一緒のように捉えると混乱してしまいます。ここで考え方を整理してみましょう。
集会・デモ行進とパブリックフォーラム論のポイント
集会,さらにデモ(動く集会と呼ばれる)は表現の自由(憲法21条)についての大事な活動であるといわれています。つまり,表現の自由の保障が強く及んでいるわけです。
しかし,多くの場合に問題になるのは法令違憲ではなく適用違憲であるために少し議論がややこしくなっています。今回はこの点も整理しつつ,考え方を見ていきましょう。
②集会・デモ行進など積極的表現の自由の考え方
集会・デモ行進とパブリックフォーラム論の問題点
大前提となる積極的表現の自由の考え方
まず,大前提として,日本の憲法は表現を外部に公表する自由は認めているが(表現の自由,憲法21条1項),表現を外部に公表するための機会までは保障していない。という大前提を押さえてください。ここを外すと,この集会・デモ行進とパブリックフォーラム論がなぜ出てきたのかがわからなくなると思います。
つまり,憲法は,表現の機会を提供することまでは保障していないのです。
裏技がパブリックフォーラム論
上記の大前提に立てば,表現の機会を提供する義務が国にはないことになります。しかし,この表現の機会の提供を認めさせる裏技として機能するのがパブリックフォーラム論なのです。
パブリックフォーラム論とは,公的場では表現行為は保護されるべきという法理です。以下で詳しく見ていきましょう。
まず,一般的なパブリックフォーラム論はアメリカで発展したものであり,3つに分類します。
→原則として表現活動を禁止することはできない。公共の場として表現は本来の役割なので表現活動は許される。内容中立規制は可能性としてありうる。
②政府指定のパブリックフォーラム ex)公民館
→原則として表現活動を禁止することはできない。
③非パブリックフォーラム ex)学校
→非パブリックフォーラムはパブリックフォーラムと同様に表現活動を行うことは基本的にできない。
まとめ
集会やデモ行進は表現の自由が妥当する領域ですが,集会やデモはそもそも表現の機会まで提供sれなければ実質的に意味がありません。しかし,一般的に積極的な表現の自由までは国は保障していないと考えられているので,集会やデモ行進を規制する法律の適用は,受け入れるしかないと思われていました。
それを打ち破ったのがパブリックフォーラム論であり,この考え方によれば,表現活動の場がパブリックフォーラムであれば規制の適用は許されない可能性=表現の自由により憲法問題とできる可能性が生じる,というわけですね。
集会・デモ行進の考え方
法令違憲ではなく適用違憲
まず,集会やデモ行進を規制する法令が憲法問題となる場合,法令審査が問題になるのではなく処分審査が問題になる場合が多いという点を押さえましょう。
法令審査とは,法令自体が憲法違反だ!という主張です。これが認められると,その法令は憲法違反であるため,速やかに改正が行われるべきものになります。
処分審査は,法令自体は違反ではないんだけど,適用(処分)が憲法違反だよね。この場合にこの法令を適用するのはちょっとやりすぎだよね。という場合です。
三段階審査論や違憲審査基準という考え方に法令審査と処分審査とでほとんど違いはありません。ただし,違憲後どうなるかが決定的に異なります。
法改正へ向かうか,適用が悪かったんだねテヘッで終わるかの差ですね。
集会やデモ行進が問題になるのは,もっと言えば積極的表現の自由が問題になるのは処分審査と考えておけば大丈夫でしょう。法令自体を違憲とするのは大きな影響を与えるうえ,問題となるのは本来保障しなくてもいい積極的表現の自由ですので適用だけ違憲となる場合が多いためですね。
以上を踏まえて,ではどのように考えていけばいいのかをみてみましょう。
集会の自由を表現の自由と絡めて説明
集会の自由は表現の自由(憲法21条1項)に由来します。さらにデモ行進が問題になる場合はデモは動く集会とも呼ばれ表現の自由・集会の自由の保護領域に含まれることを説明した方がよいでしょう。表現の自由の重要性の説明方法については以下の記事を参考にしてください。
次に,ほとんどの場合,集会の自由,デモ行進の場合は積極的表現の自由(表現活動の機会の提供)が問題になっていると思います。これは一般的に保護領域外であることを軽く述べておきます。
そして,次に,パブリックフォーラム論を持ち出し,本来表現活動が許される場所であることを説明します。
以上を踏まえて違憲審査基準を定立するとよいでしょう。
違憲審査基準の定立
表現の自由と集会の自由は密接にかかわり,表現の自由は重要なものとされていること及びパブリックフォーラム論から厳格審査に持っていきます。
ここで判例では明白かつ現在の危険の基準を用いているので,それにならって違憲審査基準の文言でも明白かつ現在の危険を登場させた方がいいと思います。
明白かつ現在の危険とは,規制が適用されるのは明白かつ現在の危険の発生が具体的に予見されることが必要である場合である,という基準です。
これは違憲審査基準というよりは合憲限定解釈(規定の解釈の問題)に近いものですが,ここではわかりやすさのために厳格審査基準の一つと考えてみました。
まとめ
考え方は以下のことを理解しておけば基本的な事柄は大丈夫だと思います。
②集会・デモ行進は表現の自由(憲法21条)の問題である。
③パブリックフォーラムにおける集会・デモ行進を規制する処分の適当性は明白かつ現在の危険があったかどうかによる。
まとめ
さて,集会の自由やデモ行進,さらには積極的表現の自由についての基本的な考え方を見てきました。
とにかく大事なポイントを最後にもう一度まとめてみます。
②その裏技としてパブリックフォーラム論があること
③判例では明白かつ現在の危険基準が用いられること
この他,利益衡量や敵意ある聴衆の法理など他の問題もあるので,奥が深い分野です。判例中心の学習になってしまうので今回は避けましたが,興味がある方は以下の参考文献や泉佐野市民会館事件(最判平成7年3月7日)の判例を読んでみるとよいと思います。
読んで下さ手ありがとうございました。ではまた~。
参考文献
政教分離はどうしても判例が主体となり,三段階審査論ではつかみにくい分野です。そのため,判例がうまくまとめられている参考文献をあげておきます。参考になれば幸いです。