裁判上の自白の論点をまとめて解説【民事訴訟法その9】

民事訴訟法

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弁論主義第2のテーゼの効果について自白原則という名前でしたよね。裁判上の自白の論点と関係性がよくわかりません。

証明不要効が179条にあるんだよね。これで弁論主義第2のテーゼを規定したものなのかな?

法上向

なるほど。弁論主義と自白との関係はたしかに悩ましいものがあるな。基本書でも弁論主義の箇所と自白の箇所は別に設けられており,つながりがなさそうなのに,弁論主義第2のテーゼは自白原則とされている。

この関係性を詳しくみていこうか。

裁判上の自白は,弁論主義と深い関係性にあります。ここでは弁論主義と自白のつながりを意識して説明していきたいと思います。

そのうえで,自白特有の問題である権利自白にまで話を広げていけたらいいなーと思います。

自白のポイント

弁論主義裁判上の自白の関係について理解することを大前提にします。そして自白の要件についてみましょう。そして権利自白について,軽く押さえようと思います。

①弁論主義と自白の関係性について理解する。
②自白の要件を覚える。
③権利自白について理解する。
それではいきましょう。

弁論主義と自白の関係

弁論主義の第2テーゼ

弁論主義の3つのテーゼを覚えていますか?

第1テーゼ「裁判所は,当事者のいずれもが主張しない事実を,裁判の基礎にしてはならない。」
第2テーゼ「裁判所は,当事者間で争いのない事実に反する事実を裁判で採用してはならない。」
第3テーゼ「当事者間に争いのある事実ついて証拠調べをするときは,当事者の申し出た証拠によらなければならない」

この3つでしたね。詳しく弁論主義について復習したいという方は以下のリンクを参考にしてください。

このうちの第2テーゼ自白法則とも呼ばれており,自白と深い関係にあります。

第2テーゼ「裁判所は,当事者間で争いのない事実に反する事実を裁判で採用してはならない。」

まずこれを押さえておきましょう。

争いのない事実を自白という

第2テーゼの文言の「争いのない事実」は自白を意味します。つまり第2テーゼは「裁判所は,自白に反する事実を裁判で採用してはならない。」ということを意味していることになりますね。

この点を捉えて自白原則といっているわけです。

民事訴訟法179条

(証明することを要しない事実)
第百七十九条 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

これは弁論主義の記事でも紹介しました。民事訴訟法179条の効果を証明不要効と言います。

自白=争いのない事実は証明を要しないということですね。

弁論主義の自白には,証明不要効,審判排除効,撤回制限効がある

さて弁論主義自白の関係性をみてみましょう。

まず民事訴訟法179条は一般的な規定であるという点がポイントです。弁論主義と関係なしに,争いのない事実については,それが主要事実の自白であれ,間接事実の自白であれ,証明不要効が生じます。裁判所としては審理対象を絞りたいので,わざわざ争いのない事実にまでおせっかいをすることはないということです。

次に,弁論主義が適用されるのは主要事実なので,第2テーゼは主要事実の自白について規定したものということがわかります。

となると,第2テーゼは,主要事実の自白に反する事実を裁判で採用できないという意味になります

ここから審判排除効撤回制限効が生じるといわれています。

審判排除効は,自白成立後は裁判所は,その事実に関する審理を行うことができなくなるという効力です。

撤回制限効は,自白は一回成立すると,当事者を拘束し,原則として撤回できない,というものです。

まとめると下図のようになります。

上図のように,主要事実の自白は一般的自白と同様,民事訴訟法179条より当然に証明不要効が生じるうえに,弁論主義というフィルターを通して,審判排除効撤回制限効が生じるというわけです。

まとめ

弁論主義と自白の関係についてみてきました。自白は一般的に,証明不要効,審判排除効,撤回制限効が生じるといわれていますが,その根拠がそれぞれ異なり,証明不要効民事訴訟法179条によって,審判排除効撤回制限効弁論主義によって生じるというわけです。

弁論主義は主要事実しか適用がないというのが通説なので,自白による審判排除効撤回制限効の効果は主要事実の自白にしか働かないことになります

なお,学説上は上記とは異なる考え方もあるので,より詳しく知りたい方は基本書等でご確認ください。また,上記見解は勅使河原先生著の読解民事訴訟法を参考にしております。よりこの考え方を知りたい方は以下の本を読んでみてください!

裁判上の自白の要件

自白とは争いのない事実のことでした。ここで自白の要件も問題となります。自白とは争いのない事実のことでした。より詳しくみると,

①弁論としての陳述
②事実の陳述
③主張の一致
④不利益性

であるとされています。

つまり自白の効力である,証明不要効審判排除効撤回制限効を使いたい場合には①~④の効力を確認する必要があるというわけです。「争いがない事実なので自白が成立している」という言葉だけでは不十分ということです。

また,審判排除効撤回制限効弁論主義をもとにするので主要事実である必要があります。

さらに不利益性の要件が主として検討しなければならないのは撤回制限効の場合のみです。証明不要効審判排除効は裁判所に対する効果なので,両当事者の主張が一致している以上,どちらか一方が不利益であることは当たり前だからです。

これを上記図に付け加えてみましょう。

よって,基本的に自白の要件を検討すべきは,撤回制限効が問題となる場面でしょう。

自白が撤回できる場合

自白には撤回制限効があるとはいっても,撤回が禁止されているわけではありません。例外的に自白の撤回ができる場合があります。

なお,その自白について不利益ではない者は撤回をすることはないので,この撤回制限が問題になるのはその自白によって不利益がある者からの撤回になるわけですね。この意味で上記要件で不利益性が重要になるわけです。

撤回ができる場合は以下の3つです。

①相手方の同意がある場合
②刑事上罰すべき行為によって自白をした場合
③反真実かつ錯誤の場合

これらは覚える必要があります。③は真実でなく,自白者(不利益者)が錯誤に陥っていたという場面です。ちなみに,反真実であれば錯誤は推定されるとされています

撤回制限効が問題になる場面では

①まず自白が成立しているかどうかについて弁論,事実,主張の一致,不利益性の要件をチェックする。
②自白が成立していたとしても,撤回が許される場面(相手方の同意がないか,刑事上罰すべき行為による自白でないか,反真実かつ錯誤によるものでないか)をチェックする。

という2段階の検討が必要になるわけですね。

権利自白

最後に権利自白についてみてみましょう。権利自白とは,権利(法律事項)についての自白のことです。

通常自白は上記でみたように「事実」でないといけませんでした。よって「法規・権利」についての自白が成立しないわけです。

しかし,実務上は「所有権の自白」は権利自白として審判排除効が認められるとされています。これは所有権について遡って主張をさせようとすると地租改正の段階までさかのぼり,当事者に多大な負担を与えてしまうからです。

その他の権利については基本的に自白は認められないと考えておくとよいでしょう。ここも学説上議論のあるところですが,所有権以外の権利自白については,問題を解いていくなかで自分なりの考え方をまとめていけばいいと思うので,とりあえずはじめのうちは「所有権は例外的に事実じゃないけど自白が認められるんだなー」と思っておけばいいと思います。

まとめ

以上,自白についてみてきました。

弁論主義と自白は関係性がわかりづらい面があります。とりあえず自白が重要になるのは撤回制限の場面なので撤回制限の場面の考え方を押さえておくと問題には対応できると思います。

①まず自白が成立しているかどうかについて弁論,事実,主張の一致,不利益性の要件をチェックする。
②自白が成立していたとしても,撤回が許される場面(相手方の同意がないか,刑事上罰すべき行為による自白でないか,反真実かつ錯誤によるものでないか)をチェックする。

そのうえで,自白と弁論主義の関係性についてはとりあえず保留でもいいと思います。

そして,勉強が進むなかで自白と弁論主義の関係性がよくわからなくなってくる場面が出てくることでしょう。その際には下図が参考になれば幸いです。

この関係性がより知りたい方は,以下の基本書を参考にしてみてください。

以上になります。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

民事訴訟法で初学者向けの基本書を見つけるのは難しいですが,以下の本は薄くかつ分かりやすいのでおすすめです!よかったら読んでみてください。

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