民法改正対応!使用貸借とは?条文からわかりやすく解説【契約法その9】

民法

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使用貸借ってよくわからないんですよね。

法上向

たしかに使用貸借は試験にもあまり出ないし深く勉強する機会も少ないだろう。

しかし、短答では割と出題される分野だから、しっかり確認していこう。

使用貸借は試験にあまり出ません。そうであるがゆえに勉強が手薄になってしまう傾向にあります。

使用貸借は民法改正で変わった面も多いので、しっかり改正法に沿って学習する必要があります。特に司法試験でも、予備試験でもその他の資格試験でも、短答にはよく出題される分野なので、今回の記事でしっかり要点を押さえていきましょう!

使用貸借のポイント

まずは契約法の基礎として、使用貸借成立の場面を確認します。そして使用貸借の成立によってどういった権利・義務が発生するのかを確認しましょう。

その次に、使用貸借の終了についてみていきます。

どういった場合に使用貸借は終了するのか?主要貸借が終了する場面の権利・義務はどういったものなのか?

この2点をしっかり理解することで、使用貸借の論点をつかむことができます。

①使用貸借の契約の成立要件を確認する。その成立による債権・債務が何かを知る。
②使用貸借の終了の場面を知る。
③使用貸借の終了の貸主・借主の債権・債務について理解する。

それではいきましょう。

使用貸借契約の成立

使用貸借契約の条文は民法593条

使用貸借とはどういった契約なのか?賃貸借と何が違うのか?をまずは知る必要があります。そういう時は条文を確認しましょう。使用貸借の条文は民法593条です。

(使用貸借)
第五百九十三条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

使用貸借とは「無償」で使用収益させる契約のことです。使用収益の対価として「有償」にする場合には賃貸借契約となります。

使用貸借は民法改正によって、合意のみで成立する契約となりました(諾成契約)

それでは、使用貸借契約からどういった債権・債務が発生するか見てみましょう。

貸主の債務:引渡義務

当たり前ですが、使用貸借契約が成立すると貸主は引渡義務(貸す義務)が発生します

この引渡義務について民法596条を見てみましょう。

(貸主の引渡義務等)
第五百九十六条 第五百五十一条の規定は、使用貸借について準用する。

民法596条が準用する民法551条贈与に関する規定です。

(贈与者の引渡義務等)
第五百五十一条 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。

贈与の際にも解説しましたが、これはあくまでも推定です。借主が推定を覆すことは十分可能ということになります。

大事なのは、貸主は借主に対して「契約に適合する目的物」を引渡す義務があるということです。たしかに民法596条が準用する民法551条より「特定した状態を引渡すものと推定する」という推定規定はありますが、契約に別途目的物の状態を規定しているのであればそれを引渡す義務が貸主にはあります

民法551条の規定があるということは立証負担を減少しているだけなのです。

貸主の義務:使用収益受忍義務

あまり詳しく述べられている解説書は少ないですが、一応、使用貸借の場合には貸主には使用収益受忍義務があるとみてよいでしょう。

後の方で解説しますが、借主は「使用収益権」を持ちます。そのため、貸主は借主の「使用収益権」を受け入れる義務があるのです。貸主が借主の「使用収益を妨げる」ことをしてはいけないというわけです。

注意してほしいのは、これはあくまで使用収益「受忍」義務です。貸主が使用収益に適した状態にさせるといった積極的な義務まで課せられているというわけではありません。この点が賃貸借との違いになります。

使用貸借の基本スタンスは「温かい目で見守っててあげようなのです。

借主の義務:用法遵守義務

借主は使用収益権をもつとしても、なんでも自由に使用収益できるわけではありません。借主には貸主との間で決めた用法に従って目的物を使用収益するという義務があります。

民法594条を見てみましょう。

(借主による使用及び収益)
第五百九十四条 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
2 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。

この用法遵守義務は結構重い義務ということがわかってもらえたと思います。

特に民法594条3項より用法遵守義務に違反する場合は貸主は契約をすぐに解除することができるというわけです。この解除は法律で特別に定められている解除なので民法541条の解除のように催告は必要ありません。

また賃貸借の場合と同様に無断譲渡や無断転貸もできないというわけですね(民法594条2項。これに違反すると即解除可能です。

この用法遵守義務違反の場合に損害賠償ってできないんですか?

法上向

いい質問だね。用法遵守義務は使用貸借契約から生じる一般的な債権だよ。だから契約各論に規定がなくても、債権総論の規定によって損害賠償請求は可能なのさ。

その場合は民法415条より損害賠償をするということだね。


法上向

ただし、民法600条より

目的物の返還を受けた時から1年以内にしなければならないことと、その間は消滅時効は完成しないということ

も押さえておこう!

借主の権利:非常の必要費償還請求権・有益費償還請求権

さて、使用貸借契約が成立し、無事目的物も引き渡された場面を想定しましょう。

借主はのほほんと使用貸借をしていましたが、ある日、目的物の一部が損壊したので修理費を支出しました。また改造によって目的物の価値を高めました。この場合に借主は、貸主に対してかかった費用(必要費・有益費)を請求できるでしょうか?

この場合の論点は賃貸借では非常に重要になります。試験問題でもよく出題される点です。使用貸借では賃貸借との違いをしっかり押さえる必要があります。

民法595条を見てみましょう。

(借用物の費用の負担)
第五百九十五条 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

まず民法595条1項より借主が通常の必要費は自分で払わなければいけないこととされています。非常の必要費(台風などによって生じたやむをえないもの)に限って借主に対し請求ができるのです。

この点は賃貸借契約と異なる部分であり、短答試験で狙われる部分なのでしっかり意識しておきましょう。

さらに非常の必要費や有益費については民法595条の準用する民法583条2項を見てみます。

(買戻しの実行)
第五百八十三条 
2 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

民法583条をみると民法196条の規定により償還するとされています。また飛ばされてしまいましたね。根気強く民法196条をみてみます。

(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

使用貸借の場合、非常の必要費は民法196条1項、有益費については民法196条2項を見ることになるでしょう。

この民法196条は占有の場合の規定です。そのため、詳しくは物権法で勉強することになります。

とりあえず覚えておきたいのは、

通常の必要費は貸主に請求できないが、非常の必要費・有益費は民法196条の規定に沿って貸主に請求できる

ということです。

なお、非常な必要費償還や有益費償還についても用法遵守義務違反の損害賠償の期間制限と同様、貸主が目的物の返還を受けた時から1年以内にする必要があります(民法600条1項

使用貸借の終了

どういった場合に終了するのかをまずは押さえていきましょう!

期間による使用貸借の終了

民法597条1項2項を見てみます。

(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。

使用賃貸借の期間を定めた場合と定めなかった場合について分けて規定されていますね。

1項は使用貸借の期間を定めた場合です。この場合は期間満了によって使用貸借は終了するとしています。

2項は使用貸借の期間を定めなかった場合です。この場合は使用収益目的が終了した場合に使用貸借も終了するとされます。

たとえば営業のために店舗を親戚から使用貸借してもらった場合には、営業をやめれば使用貸借契約も終了するといえるでしょう。

営業目的としての使用貸借のイメージ

借主の死亡による使用貸借の終了

また、借主の死亡によっても使用貸借は終了します。民法597条3項です。

(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。

使用貸借は「無償」の使用収益を認めたものですから、貸主は「その人だから」借主に使用貸借しているケースが多いでしょう。そのため、借主が「その人でなくなったら」使用貸借契約は終了の方向になるわけですね。

注意してほしいのは貸主の死亡によっては終了しないという点です。

「借主」の死亡によって使用貸借は終了するというフレーズは正確に覚えましょう!

解除による使用貸借の終了

目的物を受け取る前の解除(民法593条の2)

(借用物受取り前の貸主による使用貸借の解除)
第五百九十三条の二 貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。

まず貸主は目的物を受け取る前であれば解除可能です。ただし、書面による使用貸借をしている場合にはこの解除権は認められません。

使用収益目的期間経過による解除(民法598条1項)

(使用貸借の解除)
第五百九十八条 貸主は、前条第二項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。

さらに、民法598条1項によれば、期間制限のない使用収益目的を定めた使用貸借の場合には、借主が使用収益をするのに足りる期間を経過すれば解除することができるとされています。

先ほどの期間による使用貸借の終了の場合と異なり、貸主側から積極的に使用貸借契約をやめることができるというわけです。

使用目的・期間の定めがない場合の解除(民法598条2項)

(使用貸借の解除)
第五百九十八条 
2 当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。

使用目的も定めていないし、期間を定めていない場合には、貸主はいつでも解除することができます。ただし基本的には状況から使用目的は何かしら見出せるはずなのでこの条文はあまり機能しないとみてよいでしょう。

借主からの解除(民法598条3項)

(使用貸借の解除)
第五百九十八条 
3 借主は、いつでも契約の解除をすることができる。

借主はいつでも解除できます。使用貸借は基本的に借主しか利益がないので、借主が解除したければご自由にどうぞということです。

使用貸借終了後の権利・義務

それでは使用貸借が終了した場面を想定しましょう。終了後の後処理についても細かい規定があります。ひとつずつ確認していきます。

借主の義務:目的物返還義務

使用貸借は借主が目的物を「無償」で使用収益するものです。使用貸借契約時には貸主は「貸す義務(引渡義務)」がありました。そして貸主から目的物が引き渡されます。

逆に、使用貸借が終了すると、借主は「目的物返還義務」を負うのです。これは使用貸借の上記性格からみれば明らかですね。

借主の義務:収去義務

さらに使用貸借が終了すると、借主は収去義務をもちます。収去義務とは、原状回復義務の一種であり、目的物に附属させたものを収去する義務というわけです。

たとえば家を賃貸借していた場合などはエアコンなどですね。

収去義務の対象

民法599条を見てみましょう。

(借主による収去等)
第五百九十九条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

民法599条1項ただし書によれば収去義務は、分離することができないものや分離するのに過分な費用を要する物については適用されません。

この場合は有益費償還請求や損害賠償で調整されます。

また以外と見落としがちですが、民法599条2項によれば借主側から積極的に収去権を主張することができます。

収去義務があるということでマイナスのイメージをもつ方もいるかもしれませんが、借主側によっては収去したいものもあるはずです(先ほどのエアコンなどがいい例です)。その場合には借主は自身の収去権を主張して積極的に収去することができるというわけですね。

ただし収去義務がそもそもあるので貸主から「これ取り去って!」と言われたら、収去したくなくとも収去しなければなりません。

借主の義務:原状回復義務

借主は目的物を受け取った後に生じた損傷を原状に復させる義務を負います。つまり使用貸借契約が終了して目的物を引渡す際には「元の状態で」引渡す必要があるというわけです。

民法599条3項を見てみましょう。

(借主による収去等)
第五百九十九条 
3 借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

一見シンプルなようですが、実は裏があるのです。

賃貸借契約の場合には経年劣化(通常損耗)は原状回復の対象にはなりません。つまり賃貸借の場合には「使ってたらどうしようもなく生じるよね」というような劣化は原状回復して貸主に返す必要はないということです。

一方、使用貸借契約の場合にはそのような規定はないということになります。使用貸借において貸主は通常損耗にまで原状回復義務を負うかどうかは、改正民法では解釈に委ねられたといわれています。個別事情判断というわけです。

また、ただし書にも注意を払っておきましょう。原状回復義務があるといえども、損傷について貸主に帰責事由がなければ借主は原状回復義務を免れることができます

また、収去義務は原状回復義務の一種とするのが通説なので、収去義務(民法599条1項)の際にも民法599条3項ただし書は適用されるといってよいでしょう。

まとめ

以上、使用貸借についてみてきました。

試験ではあまり出題されない割には細やかにいろいろ規定されていることが分かったと思います。ほとんどは同様の規定の賃貸借に食われているというわけで出題が少ないと感じますね。

短答ではよく出題される分野です。この機会に条文とともにしっかり理解するようにしましょう。私も頑張ります!

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

契約法について、初学者が学習しやすい本としては潮見佳男先生の『債権各論Ⅰ』をおすすめします。薄いため、最低限の知識がコンパクトにまとめられており、語り口調も丁寧語であるため、しっかり読めば理解できる流れになっています。青・黒・白と三色刷りなのでポイントも青の部分を読めばわかります。

もちろん、改正民法対応です。ぜひ読んでみてください!

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