いよいよ今回から行政法総論や行政過程論と呼ばれる分野に入っていくぞ。
民事訴訟法や刑事訴訟法のような訴訟法が、これまでみてきた行政事件訴訟法だとすれば、これからやっていくのは、民法や商法のような実体法についてだな。
けど、たしか「行政法」っていう名前の法律ってないですよね?なのに実体法を勉強するってどういうことですか?
いい質問だね。
行政法は、民法、刑法、憲法、商法以外の実体法をすべて包含する法律なんだよ。だから、日本にあるすべての法律が基本的には行政法に入るんだ。
しかし、日本にあるあらゆる法律は一定の決まりや法則に沿って規定や運用がされている。それを勉強するのが「行政法」の実体法分野、すなわち、行政法総論というわけさ。
つまり、行政法をマスターすれば、日本にある法律の、民法、刑法、憲法、商法以外の法律が理解できるようになるというわけですね。
行政法は、民法、刑法、憲法、商法以外のすべての実体法を包括している法分野です。
日本には、条例を含めてあらゆる法律が存在していますが、それぞれを勉強している時間はありません。そのため、行政法を勉強することで、一応その他多くの法律にも対応できる、ということにしているのです。
行政法=その他の法律、というわけですね。
前回までは行政事件訴訟法を学習していましたが、いよいよ今回から行政法総論に入っていきます。
行政法総論を学習すれば、名目上は、その他多くの法律にも対応できるようになる
というわけです。
最初の一回前は、
あらゆる法律に共通する、行政法の一般原則について理解していきましょう。
行政法の一般原理のポイント
行政法は、民法、刑法、憲法、商法以外の法律をすべて包含しています。すなわち、行政法の一般原理というのは、その他の法律の一般原理というわけです。
この一般原理に反する法律は行政法違反として適用することができません。
法律の適用の最低ラインを定めているのが行政法の一般原理というわけですね。
一般原理は4つあります。平等原理、比例原理、信頼保護原理(信義則)、権限濫用の禁止の4つです。
それぞれ分けてみていきましょう。
①平等原理について理解する。
②比例原理について理解する。
③信頼保護原理について理解する。
④権限濫用の禁止について理解する。
それでは見ていきましょう!
平等原理とは何か?
まず最初に、なぜ平等原理が行政法で登場するのかを理解しましょう。
行政法は、国や公共団体といった行政機関VS私人の関係を規律したものです。
国や公共団体が行政活動として、私人にプレゼント(公金支出など)をする場合を考えてみましょう。
行政機関が一人にだけプレゼントを渡して、他の人にはプレゼントを渡さないときはどうなるでしょうか?
「なんで俺はもらえないんだー」
と怒り心頭になるでしょう。
こうなってしまうと、国や公共団体の信用・信頼が失われてしまいます。
そのため、国や公共団体は、私人を平等に扱わなければいけないという平等原則があるのです。
けど、平等原則って憲法14条の問題じゃないんですか?
いい疑問だね。それはもっともなんだ。
平等原則は基本的に憲法の問題として考えるから、行政法の問題として出題されることはほとんどないぞ。
行政機関VS私人の関わりの中で平等原則が問題になるものとして、憲法14条の問題があります。
>>>憲法14条の処理方法についてわかりやすく解説【憲法その3】
この場合、区別に合理的理由・合理的根拠があるかどうかを違憲審査基準に基づいて考えるのが基本です。
さて、行政法の平等原則と憲法の平等原則(憲法14条)の問題に違いはあるのでしょうか?
結論から申し上げると、
憲法14条と行政法の平等原理との間で違いは特にありません。
すなわち、行政の運用の平等原理の問題は憲法14条の問題(適用違憲)として捉えることも、行政法の問題として捉えることもできるというわけです。
そして、憲法14条の問題として捉えることがゆえに、行政法の問題で平等原則が出題されることはほぼありません。
すなわち、行政機関VS私人での平等の問題は憲法14条の問題として考えるのが基本ということです。
とはいえ、現在の司法試験や予備試験は、憲法の科目と行政法の科目で分かれていますので、
憲法の科目で出題されたのであれば、憲法14条の問題として、
行政法の科目で出題されたのであれば、平等原則の問題として、
処理すればよいでしょう。
いずれにしろ、ポイントは
区別に合理的理由・根拠があるかどうか
です。
この判断要素はしっかり覚えておきましょうね。
比例原則とは?
続いて比例原則についてです。
比例原則は刑事訴訟法でおなじみのものですね。
対立軸としては、公益上の必要性と被侵害利益を考えます。
行政の行為について公益上の必要性に対して、被侵害利益が釣り合っているのかを考えるというわけです。
公益上の必要性に対して、被侵害利益が大きい場合には比例原則違反となります。
ただし、比例原則違反は基本的には裁量逸脱・濫用の問題として処理されるという点も押さえておきましょう。
行政機関は一定程度の裁量が認められていることが多く、もし比例原則違反である行政処分・行政行為をした場合は、行政機関の裁量逸脱・濫用として違法になるというわけです。
信頼保護原則(信義則)とは?
信頼保護は文字どおり、
行政機関を信頼していたのに、裏切られた!
ということです。
これは民法でいう民法94条2項類推や表見代理、商法・会社法でいうところの権利外観法理をイメージするとわかりやすいと思います。
行政機関が外観(公示や勧告、これまでの運用・慣習など)があったため、その外観を信頼したにもかかわらず、行政機関がそのような信頼関係を不当に破壊するような行動をとった
というような場合に信頼保護原理違反となります。
たとえば、これまでずっと行政機関がAという処理会社に頼んでいたのに、急に「やっぱBにするわ」といって行政機関が委託先を変える場合などがこれにあたります。
ただし、判例上は細かい要件や考慮要素がありますので注意が必要です。
とりあえず今回で押さえてほしいのは、
行政機関が作り出した外観を信頼していた者が不当に侵害されている場合には信頼保護原則違反の可能性がある
ということです。
試験にはほぼ出ません。そのため、これくらいの認識でいれば大丈夫でしょう。
権限濫用の禁止
権限濫用は、
行政機関が、行政権限を濫用して、する必要がない行政活動を行い、私人を妨害すること
をいいます。
これを行政法は権限濫用の禁止として、違法としているわけです。
権限濫用の禁止のポイントは、
制度趣旨を考えるという点です。
法の制度趣旨を考えて、その制度趣旨に反して、行政機関が勝手に妨害行為を行っている場合には権限濫用となるわけです。
行政権の濫用は比例原則とは異なり、裁量論は出てきません。権限濫用と裁量の逸脱・濫用は別というわけです。
行政権の濫用はほとんど例外的なものなので、試験として出題されることはほとんどありませんが、しっかり覚えておきましょう。
まとめ
以上、平等原理、比例原理、信頼保護原理、権限濫用の禁止はすべて
例外的
です。
試験で出題されることはほとんどないといってよいでしょう。
出題されるとすれば
比例原則>平等原理>権限濫用の禁止>信頼保護原理
の順です。
比例原理と平等原理は、裁量論として処理されることが多いので、まだ出題される可能性があります。
参考文献
行政法でわかりやすい基本書・参考書といえば、基本行政法一択でしょう。
行政事件訴訟法から、行政法総論、行政組織法まで1冊ですべて学習できます。また、事例・判例が豊富なので、実際のイメージをもちながら学習を進められるので理解が深まるものになっています。