さて、争点整理や冒頭陳述でお互いの言い分がわかったな。続いて証拠調べ請求をしていくことになるぞ。
証拠調べ請求って、裁判でこの証拠をつかってください!っていう請求ですよね。それだけな気がするんですけど。
いやいや、証拠調べ手続全体を知ることは大事だぞ。
証拠調べをどうするのか?相手方はどう対応すればいいのか?どう異議をいえばいいのか?これらについては刑事訴訟法ではあまりやらないから、刑事実務基礎科目でしっかり勉強する必要があるんだ。
冒頭陳述や公判前整理手続でお互いの主張がある程度わかってきました。
次に行うものとしては、「証拠調べ」です。証拠調べ請求は「裁判でこの証拠を使ってください。」という請求です。
この手続の全体的な流れを確認していきましょう。相手方の対応や異議申立てのやり方を押さえていく必要があります。
刑事訴訟法ではこの点はあまり勉強しませんが、伝聞の復習になるので刑事実務基礎科目を勉強しなくてもよい方でもしっかり押さえることをお勧めします。
証拠調べのポイント
証拠調べの全体の流れをまず確認しましょう。これが一番大事です。
その後、証拠調べの方法と相手方の対応の仕方を考えていきます。特に条文と相手方の対応の仕方は短答試験等問題でよく出題されるのでしっかり学習していきましょう。
最後に証拠調べに関する異議申立て方法についてみていきます。この点は条文にしっかり書かれているので、条文を理解することを中心に書いていきます。
①証拠調べ請求の全体の流れを理解する。
②証拠調べの相手方の対応を理解する。
③証拠調べに関する異議申立て方法を押さえる。
それではみていきましょう。
証拠調べ全体の流れ
まずは証拠調べとは何か?どう行われていくのか?手続全体をしっかり押さえていく必要があります。
図で押さえていくのが一番でしょう。
まず検察官から証拠調べ請求が行われます。その後、必ず弁護士側の意見を聞くことになります。
「この証拠を裁判で使うことに弁護人は意見ありますか?」
のような形です。同意すればそれは裁判で用いられる証拠になります。問題は弁護士側に異議がある場合や不同意である場合です。
これら一連の流れが行われ、裁判所が証拠決定を行います。
この証拠決定に基づき、証拠調べを行うわけです。証人尋問や書証の展示・朗読のような方法ですね。
これら全体の流れに対して、各要所で異議を申し立てることができます。刑事訴訟法309条です。
証拠調べの相手方の対応
検察官の証拠調べ請求(刑事訴訟法298条)
まず証拠調べのスタートは検察官側からの証拠調べ請求です。刑事訴訟法298条を見てみましょう。
第二百九十八条 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる。
② 裁判所は、必要と認めるときは、職権で証拠調をすることができる。
ここで、どう検察官が証拠調べ請求をするのか、気になると思います。
結論を言うと、検察官は、立証趣旨を具体的に明示して証拠調べ請求をする必要があるのです。
これは刑事訴訟規則189条1項に書かれています。
(証拠調の請求の方式)
第百八十九条 証拠調の請求は、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示して、これをしなければならない。
2 証拠書類その他の書面の一部の取調を請求するには、特にその部分を明確にしなければならない。
3 裁判所は、必要と認めるときは、証拠調の請求をする者に対し、前二項に定める事項を明らかにする書面の提出を命ずることができる。
4 前各項の規定に違反してされた証拠調の請求は、これを却下することができる。
この刑事訴訟法189条1項を「立証趣旨」というわけです。
立証趣旨といえば、伝聞法則でどれが伝聞になるか判断する要証事実の基礎になるものでしたよね。
証拠調べの際に検察官側が示すもの、「この証拠はこのことを立証するために提出します」として示すものが「立証趣旨」ということになります。
証拠調べ請求に対する意見(刑事訴訟規則190条2項)
証拠調べ請求に対して相手方は意見を必ず聞かれます。これは刑事訴訟規則190条2項に書かれています。
(証拠決定)
第百九十条
2 前項の決定をするについては、証拠調の請求に基く場合には、相手方又はその弁護人の意見を、職権による場合には、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
証拠調べ請求は弁護人の意見を必ず聴くというわけです。
ここで証拠調べ請求の「証拠」の内容によって弁護人側の意見の言い方が若干変わっていきます。
伝聞証拠と非伝聞証拠で分けて考えていきましょう。
非伝聞証拠
非伝聞証拠と書きましたが、正確には「伝聞証拠ではないものすべて」というくくりです。
非伝聞証拠の場合には、異議があるかないか、異議がある場合にはその理由を述べることになります。これは文字上に付されるだけですので、最終的な判断は裁判官が行います。
つまり、「証拠として採用すること」についての異議があるかないかの確認をしているだけです。
伝聞証拠
伝聞証拠の場合には、同意か不同意かを述べることになります。
なぜ伝聞証拠の場合には「異議あり」「異議なし」ではなく「同意」「不同意」なんですか?
それは伝聞証拠とは何か?を考えればわかるな。
伝聞証拠は、原則として証拠とすることはできないものだった。すなわち原則としては証拠として提出できないんだ。例外として「同意」があればオッケーだったよね(刑事訴訟法326条)。
だから「異議あり/異議なし」ではなく「同意/不同意」と意見することになるんだよ。
伝聞証拠は原則証拠として提出できません。そのため、弁護士側の対応としては「同意」か「不同意」かを示すことになります。
刑事訴訟法326条を見てみましょう。
第三百二十六条 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
② 被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において、被告人が出頭しないときは、前項の同意があつたものとみなす。但し、代理人又は弁護人が出頭したときは、この限りでない。
刑事訴訟法326条1項の規定があるがゆえに、弁護士側は「同意」「不同意」を述べることになるわけです。
証拠決定(刑事訴訟規則190条1項)
伝聞証拠にしても被伝聞証拠にしても、あくまで弁護士側の意見を述べているだけなので、証拠を採用するかしないかは裁判所の判断となります。
お互いの主張・意見を聞いて、証拠採用をするかどうか決定するわけです。
刑事訴訟規則190条1項の内容ですね。
(証拠決定)
第百九十条 証拠調又は証拠調の請求の却下は、決定でこれをしなければならない。
証拠調べ請求の手続が法令に違反している場合や証拠能力がない場合には証拠調べ請求を却下することになるので、あくまで証拠決定は裁判所が判断する、という点はしっかり意識しましょう!
証拠調べ
証拠調べの方法は人証と書証で変わっていきます。
人証は、ドラマ等でおなじみの証人尋問(刑事訴訟法304条、刑事訴訟規則199条の2)です。
書証は、朗読(刑事訴訟法305条、刑事訴訟規則203条の2)や展示(刑事訴訟法306条)によって行われます。
具体的な内容については次回以降の記事に記載します。この段階では証拠調べの方法として「人証」と「書証」で分かれるという点に注意しておけば大丈夫です。
証拠調べに関する異議申立て
最後に証拠調べについての異議申立てについて軽く確認しましょう。
証拠調べは
検察官側の証拠調べ請求→意見→証拠決定→証拠調べ
という流れで進んでいきました。この要所要所で相手方は異議を述べることが可能です。この異議とは証拠意見(刑事訴訟規則190条2項)の異議ではなくガチの異議(不服申立て)です。
刑事訴訟法309条を見てみます。
第三百九条 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。
② 検察官、被告人又は弁護人は、前項に規定する場合の外、裁判長の処分に対して異議を申し立てることができる。
③ 裁判所は、前二項の申立について決定をしなければならない。
さらに刑事訴訟規則205条以下に詳しく規定されています。
(異議申立の事由)
第二百五条 法第三百九条第一項の異議の申立は、法令の違反があること又は相当でないことを理由としてこれをすることができる。但し、証拠調に関する決定に対しては、相当でないことを理由としてこれをすることはできない。
2 法第三百九条第二項の異議の申立は、法令の違反があることを理由とする場合に限りこれをすることができる。
(異議申立の方式、時期)
第二百五条の二 異議の申立は、個々の行為、処分又は決定ごとに、簡潔にその理由を示して、直ちにしなければならない。
(異議申立に対する決定の時期)
第二百五条の三 異議の申立については、遅滞なく決定をしなければならない。
(異議申立が不適法な場合の決定)
第二百五条の四 時機に遅れてされた異議の申立、訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな異議の申立、その他不適法な異議の申立は、決定で却下しなければならない。但し、時機に遅れてされた異議の申立については、その申し立てた事項が重要であつてこれに対する判断を示すことが相当であると認めるときは、時機に遅れたことを理由としてこれを却下してはならない。
(異議申立が理由のない場合の決定)
第二百五条の五 異議の申立を理由がないと認めるときは、決定で棄却しなければならない。
(異議申立が理由のある場合の決定)
第二百五条の六 異議の申立を理由があると認めるときは、異議を申し立てられた行為の中止、撤回、取消又は変更を命ずる等その申立に対応する決定をしなければならない。
2 取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることを理由とする異議の申立を理由があると認めるときは、その証拠の全部又は一部を排除する決定をしなければならない。
(重ねて異議を申し立てることの禁止)
第二百六条 異議の申立について決定があつたときは、その決定で判断された事項については、重ねて異議を申し立てることはできない。
大体証拠調べについての異議(不服申立て)が出てきた場合には刑事訴訟法309条と刑事訴訟規則205条以下を見れば答えが載っています。
簡単にまとめると、以下のようになります。
①法令違反・相当ではないことを理由として異議を申し立てることができる(ただし証拠決定に対しては相当でないことを理由とすることはできない)(刑事訴訟規則205条1項・2項)
②簡潔に理由を示す(刑事訴訟規則205条の2)
③理由がない場合には決定で棄却(刑事訴訟規則205条の5)
④理由がある場合には中止・撤回・取消・変更等の決定(刑事訴訟規則205条の6)
まとめ
証拠調べについての全体の流れを中心に各手続を追ってきました。いかがだったでしょうか。
証拠調べ請求はなかなかイメージが付きにくい分野だと思うので、しっかり以下の図を頭に入れていきましょう!
読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
刑事実務の基礎は、よりよい参考書がほとんどありません。
予備校本で勉強するのがよいでしょう。辰巳のハンドブックは予備試験口述の過去問まで載っているので、口述試験対策という意味でもお勧めします。
正直これ以外で改正された刑事訴訟法に対応した良い参考書は今のところないと思います。