抵当権の性質の1つに物上代位があったのを覚えているかい?
覚えてます!抵当権の特徴、①付従性②随伴性③物上代位性のうちの物上代位性のことですよね。
けど、いまいち物上代位って理解できなかったんですよね……。
実際、物上代位は難しいんだ!
今回は抵当権の物上代位をできるだけわかりやすく解説してみるよ!
物上代位は抵当権で最も理解しづらい分野といっても過言ではありません。
今回はできるだけ物上代位を理解してもらえるように、図を用いてできるだけわかりやすく解説していこうと思います!
抵当権の物上代位のポイント
物上代位で最初に押さえるべきは抵当権の物上代位の場面を押さえることです。
それができたら、後は物上代位の一つの論点である、第三者が登場した場合の処理を考えていきます。いわゆる対抗問題のことです。
物上代位の対抗問題は非常にややこしいので、しっかり理解していきましょう!
①抵当権の物上代位の場面を理解する。
②抵当権の物上代位と対抗問題を理解する。
それではみていきましょう!
抵当権の物上代位の場面を理解する
条文は民法372条準用民法304条
すべての基本は条文からです。
民法372条をみてみましょう。
(留置権等の規定の準用)
第三百七十二条 第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
準用する旨の規定ですね。そこで準用されている民法304条を見てみます。
(物上代位)
第三百四条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
目的物の売却や賃貸、滅失又は損傷によって得られる金銭に対して物上代位できるというわけです。
これを抵当権に置き換えると、
抵当不動産の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者がゲットする金銭に対して物上代位できる
というわけです。
ただし、以下で詳しく述べるように、抵当権の場合には、「売却」による金銭の物上代位はできません(抵当権には追及効があるためです)。
そのため、正確には
抵当不動産の①滅失又は損傷による損害賠償によって債務者がゲットする金銭②賃貸による賃料によって債務者がゲットする金銭
という2つについて、基本的に物上代位ができるというわけです。
より詳しく見ていきましょう。
不動産が消失した場合
まず、一番わかりやすい場面を押さえます。
抵当権の図を思い出してください。
さて、この場面で、抵当権者は、
「不動産に抵当権を設定したし、被担保債権の回収は大丈夫だろう」
と安心しきっていました。
しかしながら、この不動産が放火犯によって焼失したとします。
こうなってくると、抵当権者はめちゃくちゃ困ります。
「せっかく、不動産に抵当権を設定してたのに、不動産がなくなったら、被担保債権回収ができなくなる可能性が出てくるじゃん!」
という感じです。
一方で、抵当権設定者(債務者)は放火犯に対して損害賠償請求をすることができます。これがうまくいけば抵当権設定者はお金をゲットできるわけです。
もちろん、抵当権設定者が放火犯の損害賠償から手に入れたお金をそのまま被担保債権の弁済にあててくれればよいのですが、そこまで抵当権設定者もいい人ばかりではありません。
抵当権設定者は
「よくも抵当権を設定させられたな!不動産焼失してざまみろ!このお金は俺の自由に使わせてもらうぜ」
という感じで逃亡するかもしれないからです。
抵当権者からすれば
「なんで本来弁済すべきの債務者がお金を得て、俺(債権者)がお金をもらえないんや!」
とキレることになりますね。
このように、抵当権設定者の損害賠償でのお金については、抵当権設定者と抵当権者との間でいざこざが生じるわけです。
この不都合を解消したのが、物上代位です。
物上代位を使えば、抵当権者は、抵当権設定者の有する損害賠償請求権によって得られる金銭に代位して、自身の被担保債権の回収に充てることができます。
すなわち、損害賠償で得られるお金は抵当権設定者にいくのではなく、抵当権者の被担保債権の回収にいくというわけです。
この図をしっかり頭の中に入れましょう。
もう一度復習
難しい部分なので、もう一度物上代位を復習してみます。
まずは抵当権の場面を思い出します。
この不動産が焼失しました。
抵当権設定者は第三者(放火犯など)に対して損害賠償請求権をもつため、お金を得ることが可能です。
抵当権設定者がお金をゲットできる一方で、抵当権者がお金を得れず被担保債権回収ができないのは不都合なので、抵当権者には物上代位が認められています。
この一連の流れをしっかり頭に入れておきましょう。
賃料の場合
物上代位は不動産賃貸借の賃料にも認められています。抵当権者は抵当不動産以外にも、抵当不動産の賃貸借から得られる賃料に物上代位することで、被担保債権の回収ができるというわけです。
なお、賃料は法定果実ですので、抵当権の効力が及ぶ範囲の論点が出てきますが、前回確認したとおり、被担保債権が債務不履行状態になっている必要がありました。
>>>抵当権の効力が及ぶ範囲についてわかりやすい解説【物権法その12】
この賃料に向かっていく流れ(赤矢印)が、
抵当権者による賃料債権への物上代位
というわけです。
被担保債権が債務不履行になっている必要がある、という点は他の物上代位とは異なるのでしっかり理解しておきましょう。
例外的に売却代金への物上代位は無理
最後に注意点を確認しておきましょう。
抵当権は売却代金に対して物上代位することができません。
上図をみてください。
不動産の売買によって、抵当権設定者は相応の代金を得ることができます。
先ほどの理論を使えば、抵当権者はその代金について物上代位できそうです。
しかしながら、判例・通説は売却代金に対して抵当権の物上代位を認めていません。
理由は、抵当権には追及効が認められているからです。抵当権は抵当権者と抵当権設定者との間の被担保債権を担保するために設定されるものですが、抵当権自体は抵当権設定者についているものではなく、不動産についています。
すなわち、不動産が売買されたとしても、当該不動産に対して抵当権は及び続けるというわけです。これを追及効といいます。
このように、不動産が移転すると、抵当権も一緒に移転するというわけです。
別に売買代金に物上代位しなくても、被担保債権の回収が不可能となった時点で不動産を売却すれば、抵当権者の被担保債権の回収は図られます。
よって、抵当権の場合、売買代金について物上代位することはできない、という結論になるわけですね。
物上代位と第三者
物上代位における第三者との関係を規定したのは民法304条ただし書
さて、物上代位では、抵当権設定者のもつ債権で得られる金銭に対して、抵当権者が代位していくことができるということがわかりました。
ここで1つ疑問が生じるはずです。
第三者が登場したら、どうなるのだろう?
という疑問ですね。
たとえば、損害賠償請求権や賃料債権に対して、第三者が先に差押えしていた場合、損害賠償請求権や賃料債権が第三者に譲渡されていた場合などです。
この場合、第三者と抵当権者のどちらが勝つか、いわゆる対抗問題が出てきます。
この対抗問題について規定しているのが、民法304条ただし書です。
(物上代位)
第三百四条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
民法372条に準用されているので、「先取特権者」は抵当権者に置き換わります。
すると、
抵当権者は、(債権の)払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない
ということになります。
しかしこの文言だけみてもよくわかりません。以下で詳しく見ていきましょう。
物上代位の差押えの趣旨は第三者保護にある
まず最初に押さえてほしいのは、先ほどの条文(民法304条ただし書)でも確認したとおり、物上代位の際には差押えが必要ということです。
差押えをしなければ物上代位をすることができません。
ここで、差押えの趣旨を押さえましょう。
物上代位の際に必要となる差押えの趣旨は、
第三債務者を保護すること
にあります。
債権譲渡の場合
下の図をみてください。物上代位を受ける債権が譲渡された場合です。
物上代位の対象となるはずだった、損害賠償請求権が譲渡されたとします。
さて、この場合、譲受人と抵当権者どちらの権利が優先するのでしょうか?
ここで、物上代位には差押えが必要でした。そして差押えの趣旨は第三債務者の保護にあります。
第三債務者の立場になって考えてみましょう。
第三債務者は、抵当権の登記があれば物上代位される可能性については承知しているはずです。そのため、債権譲渡があったとしても、抵当権設定登記があれば、第三債務者は物上代位を認識します。
そのため、物上代位の際に行う差押えは大した意味を持たないというわけです(すでに抵当権設定登記によって第三者は保護されている=抵当権者の存在が明らかになっているため)。
逆に、抵当権設定登記前の債権譲渡であれば、急に抵当権者が物上代位すると、第三債務者はびっくりします。譲受人の登場が先ですので、譲受人に対して支払うものと思っていたからです。
そのため、この場合は、第三者の保護のため、譲受人が勝利します(物上代位はできないことになります)。
抵当権者と譲受人のどちらが勝利するかは、
譲受人の登場が抵当権設定登記の前か後か
で決せられるということです。
抵当権設定登記後に譲渡されているのであればすべて抵当権者の勝利=物上代位が可能ということになります。
差押えの場合
もう一つの例として差押えのケースを見てみましょう。
抵当権設定者の債権者が損害賠償請求権などを差し押さえた場合を考えてみましょう。
この場合、差押債権者と抵当権者どちらが優先するかが問題となります。
さて、物上代位における差押えの趣旨は、第三債務者の保護にありました。しかしこちらも、債権譲渡の場合と同様で、抵当権設定登記時点で第三債務者は物上代位の可能性を想定できます。
となると、抵当権の設定登記さえあれば、第三者の保護は図られるので、物上代位の差押えは大した意味を持たないということです。
すなわち、
抵当権者と差押債権者とのバトルにおいては
抵当権設定が先か、差押債権者の登場が先か
という問題となります。
仮に、抵当権の設定登記前に差押債権者が差押えをしている場合には、第三債務者は差押債権者に差し押さえられているものと想定していますので、抵当権が劣後するというわけです。
まとめ
以上、債権譲渡の場合と差押えの場合を見ましたが、
まとめると、
抵当権に基づく物上代位の場合には、抵当権の設定登記前の第三者か登記後の第三者かを考えることになります。
抵当権の設定登記があれば、第三債務者の保護は図られます(第三債務者は物上代位を想定できる)。そのため、譲受人や差押債権者と抵当権者のバトルでは抵当権者が勝利するというわけです。
一方、抵当権の設定登記より前に、譲受人や差押債権者が登場している場合には、物上代位することはできなくなります(第三債務者の保護を図る必要があるため、譲受人や差押債権者が勝利するからです)。
このように、
抵当権の物上代位では、差押え(民法304条ただし書)ではなく、登記が第三者を保護する働きをする
という点を押さえましょう。
すなわち、第三者の登場が、抵当権の登記設定よりも前か後かが、抵当権さhによる物上代位を認めることができるかどうかの判断のポイントになるというわけです。
まとめ
以上、物上代位についてみてきました。
簡単にポイントを復習してみましょう。
①抵当権の物上代位の条文は民法372条準用民法304条である。
②抵当権の物上代位では、売却代金への物上代位は認められない(抵当権には追及効があるため)。
③抵当権の物上代位と第三者との関係では、第三者の登場が抵当権の設定登記の前か後かを考える。
抵当権の物上代位は大事なポイントです。しっかり復習していきましょう。
解説は以上です。読んでくださってありがとうございました。ではまた~。
参考文献
担保物権についてわかりやすい解説は、はじめての法でおなじみストゥディアシリーズです。
これを超える担保物権の基本書はないと思います。三色刷り+事例問題が豊富なので、楽しく担保物権を学習できるはずです。
初学者の方はまずはこの本から読んでみてください!