正当防衛とよく対比される,違法性阻却事由は何かな?
緊急避難ですね。
緊急避難も正当防衛と同様,要件を考えていけばいいだけだぞ!さっそくみていこう。
違法性阻却事由としてよく出てくるのが正当防衛と緊急避難です。今回は緊急避難についてみていきましょう。
正当防衛については↓の記事を参考にしてみてください!
緊急避難のポイント
緊急避難はとにかく要件を押さえていくことが重要になります。また以外と適用場面を迷うことが多いです。どのような場合に適用され,何を検討していくのかがポイントになります。
②緊急避難の要件を確認する。
緊急避難の適用場面は正対正
緊急避難ば問題になるのは,結果→行為→因果関係→故意(過失)といった構成要件該当事実を検討した後の違法性段階です。これは正当防衛と一緒ですね。
となると,正当防衛と緊急避難の区別が問題になります。これは単純で,一般的には正対正の関係であれば緊急避難,正対不正の関係であれば正当防衛といわれています。正は正当,不正は不当と考えておけばわかりやすいでしょう。
たとえば,次の例を考えてみてください。
「ふぅ~,とりあえず助かった~」
しかし,数分後,別の同じくおぼれている人が自分のつかんでいる材木をつかんできました。
「すまん,助けてくれ」
「けど,二人だとこの木材じゃ沈むぞ(汗)」
その材木で浮いていられるのは一人までです。
あなたはどうしますか?来た人を突き落としますか?
心理学テストのような問いですね。この場合は,相手の行為は正=正当なものです。対して自分も命がかかっているために突き落としているので正=正当なものとみることができます。すると正対正なので要件を満たせば緊急避難として違法性が阻却される=不可罰となるのです。
法律を知らない人からすると,え,そうなの!となるかもしれません。ただし法律はこのような場合に他人が助かるために自分が犠牲になることまでは要求していないのです!
緊急避難の要件を刑法37条から導き出せ!
それではどのような要件がそろえば正対正の場合に緊急避難が認められるか見ていくことにします。
緊急避難の条文は刑法37条
まず条文を確認してみましょう。
(緊急避難)第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
あれ?なんか正当防衛と似てないですか?
よく気がついたね!正当防衛は①急迫不正②防衛意思③相当性の3つだったが,③の相当性が補充性になり,④の害の均衡が要件に加わったのさ。
君のような勘のいいガキは嫌いだよ
ここで鋭い人は違和感をもつはずです。なぜ正当防衛(刑法36条)では「やむを得ずにした」を相当性と言っているのに緊急避難は「やむを得ずにした」を補充性というのか,と。
正当防衛では相当性,緊急避難では補充性と基本書等では平然と書かれています。
君のような勘のいいガキは嫌いだよ
と思われるかもしれませんね(笑)。どうでもいいと思う人は次の項目へ飛ばしてみましょう。気になる方は下のコラムをお読みください。
現在の危難
現在の危難は文字通りの意味です。この点,急迫性と同様の意味を表すかで学説上争いがありますが,ここは深入りれず,現在の危難が現在に危険が迫っていることとして独立に捉えておけばいいと思います。
避難意思
この避難意思は通常,過失の場合にも要求されます。故意とは別の要素として検討が必要だということです。この点は正当防衛と共通します。
補充性
緊急避難は正対正の関係なので,悪いことをしていない人に対しても危険を転嫁してもよいといわれる状況=他にとりうる手段がないこと=補充性が要件とされます。
それが唯一の方法だということです。そのため,正当防衛よりも厳格に「やむを得ず」しているかが判断されます。
害の均衡
緊急避難で加重された要件です。結果から害の近況を考えます。生じた害と避けようとした害を比べるのです。たとえば先ほどの船沈没で木材に一人しか掴まれない例の場合は生じてた害=新しく来た人の死(生命の危険)と避けようとした害=自分の死(生命の危険)を比べることになります。天秤にかけるのです。
避けられた害と生じた害を比べてみます。害が等しいもしくは避けられた害の方が大きい場合は害の均衡という要件をクリアすることになるのです。上記場合も生命対生命なので害の均衡の要件はクリアしそうですね。
まとめ
正当防衛と異なり緊急避難は要件ごとで問題になることが少なく淡々とあてはめていくことがわかると思います。一番注意が必要なのは適用場面です。間違っても正対不正の場面で緊急避難を検討しないようにしましょう!
最後に要件を再度確認しておわります。
参考文献
記事の目的上,とても簡潔にまとめているので,もっと深めたい方は以下の基本書を参考にしてください。わかりやすいのでおすすめです。