不動産明渡請求の要件をわかりやすく!【民事実務基礎その8】

法律実務基礎科目

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物権的請求権の中で不動産について教えてください!

法上向
法上向

不動産はほとんど物権的請求権と同様の考え方でいいんだ!

変わるのは訴訟物くらいだぞ!

不動産についての物権的請求権についてみていきましょう。

物権的請求権の一般的な考え方とほぼ同じなので、今回は訴訟物くらいの内容になると思います。

不動産明渡請求のポイント

物権的請求の一般的な、訴訟物・請求の原因・抗弁・再抗弁を押さえましょう!

以下の記事から確認できます。

とはいえ、不動産明渡請求にアレンジして以下、解説していきます!!

①不動産明渡請求の訴訟物について理解する。
②不動産明渡請求の請求の趣旨を押さえる。
③不動産明渡請求の請求原因について理解する。
④不動産明渡請求の抗弁・再抗弁について理解する。

それでは見ていきましょう!

不動産明渡請求の訴訟物

では訴訟物について考えてみましょう。

物権的請求権における訴訟物の書き方のポイントは

物権的請求権というワードを出さないこと

です!!

私自身なぜかわかりませんが、物権的請求権の訴訟物を書く際には、物権的請求権というワードを出しません。漠然としすぎているのでしょうかね。

そのため、前述した妨害排除請求権・妨害予防請求権・返還請求権のいずれかを使って攻めていきます。

さらに、「所有権」がもとになっていることも示す必要があります。よって一般的に物権的請求権の書き方は以下のようになります。

物権的請求権の訴訟物

不動産明渡請求の場合は「返還請求権」であるはずです。俺の不動産を明渡せ!との主張なはずですから……。

よって、

所有権に基づく返還請求権としての不動産明渡請求権

という風になるでしょう!

不動産明渡請求の訴訟物は

所有権に基づく返還請求権としての不動産明渡請求権

不動産明渡請求の請求の趣旨

請求の趣旨はいかにシンプルに主張を伝えるかどうかでした。

不動産明渡請求権は簡単ですね。

被告は、原告に対し、甲を明け渡せ。

です。

所有権に基づく……や、返還請求権としての……という余計な文言は必要ありません。シンプルでいいのです

そうでなければ執行官の方が混乱してしまいますからね!

不動産明渡請求の請求原因

もと所有・現占有

物権的請求権の請求原因は簡単です。

〈物権的請求権の請求原因〉
①もと所有
②現占有(現在の侵害)

この2つです。

①もと所有

①もと所有とは「もともと所有していた」ということです。所有権は事実ではなく法律上の権利です。権利は不変更の原則があるので、もともとある時点で所有権を自身が持っていたことを主張すれば、「現在も所有権があること」が自然と示せます。もし現在は所有権は別の人に移っているのであればそれは相手方が反論すべき事項になります。

そのため、物権的請求権の段階では①もと所有はある時点での所有を主張すればよいのです。つまり「〇さんから〇(自分)へ売買契約が締結された」的なことを主張して自身の所有権という権利の取得を基礎づけていきます。

自身の所有権取得を主張しなければいけないというのはわかりました。では、誰から」自身までの所有権の移動を主張しないといけないのでしょうか?

仮に全部主張しないといけないとなると、原告は、地租改正段階から所有権の移転をひたすら述べなければいけないことになります。

1853年にAさんが甲土地を持っていて、それがBに相続されて、それをCが買って……RがSに売って、Sから俺が買ったんだ。

という風になりますね。これは無理にもほどがあります。

じゃあ、どうしろっていうんだよ!所有権があることを基礎づけるためにはどう主張すればいいのさ!

法上向
法上向

ここで権利自白という考え方を使うんだ。

「はじめての民事訴訟法その9」で学習したことだな。

権利自白の議論に入っていきましょう。

権利自白とは,権利(法律事項)についての自白のことです。

通常自白は上記でみたように「事実」でないといけませんでした。よって「法規・権利」についての自白が成立しないわけです。

しかし,実務上は「所有権の自白」は権利自白として審判排除効が認められるとされています。これは所有権について遡って主張をさせようとすると地租改正の段階までさかのぼり,当事者に多大な負担を与えてしまうからです。

つまり、所有権をどこまでさかのぼるかは、相手方の自白が成立している時点=相手方が「この人は甲を持っていたよね」と認めている時点から自身までの所有権の移転を主張すればよいことになります。

被告がSさんの甲所有を認めているのであれば、Sの所有時点で権利自白が成立し、
原告は、Sと被告との間の売買契約の締結を主張すればよいことになります。なお、所有権の移転は特段の事情がなければ契約時に移転するので、売買契約締結を主張するだけで所有権の移転は主張できたことになります。

②現占有(現在の侵害)

要件の2つ目、現占有は「相手方」の現占有(現在の所有権侵害)のことです。

そもそも物権的請求権は所有権侵害を排除するためのものでした。

そのため、

今侵害されているよ!ほら!

ということを主張する必要があるのです。

これは①もと所有とは異なり「今、侵害されているよ!」ということを主張する必要があります。

前に侵害されてたんだよ!」といっても「今侵害されていなければ解決する必要はないよね」となるので意味がありません。つまり所有権が妨害されていることは「」必要なわけです

①のもと所有と混乱しないように注意しましょう。

物権的請求権の請求原因は

①もと所有
②現占有

①もと所有は権利自白が成立する時点からの所有権移転を主張すればよい。

このように主張すれば足ります。

例文としては

「Sは、〇年〇月〇日当時、甲土地を所有していた。」
「Sは、原告に対し、〇年〇月〇日、甲土地を売った。」
※Sが甲土地を所有していたことについては権利自白が成立しているとの前提。
「被告は、甲土地を占有している。」
「よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき、甲土地の明渡しを求める。」

といった具合になります。詳しくは次回以降の、物権的請求権各論で学習していきましょう。

不動産明渡請求の抗弁・再抗弁

物権的請求権の抗弁は4つ、再抗弁は1つ覚えよ

さて、請求原因の次は相手方からの反論です。抗弁・再抗弁は物権的請求権特有のものが存在します。

それを理解するために、まずは以下の表を頭の中に入れましょう!

3つの抗弁と1つの再抗弁を覚えることが物権的請求権をマスターするコツです。

それでは見ていきましょう。

所有権喪失の抗弁

まずは所有権喪失の抗弁を押さえましょう。

これは請求原因の①もと所有に関わってきます。

物権的請求権で主張されているのはあくまで「もと」所有でした。

つまり「現在所有権があること」は主張されていないわけです。そのため、相手方は「〇年〇月〇日時点で所有権を持っていたことはわかった。けど今現在は持っていないだろ!」ということを主張することができます。

ここでのポイントは

あくまで原告の所有権が今現在ないこと

を主張すればよいので、被告自身が所有権を持っている必要はないということです。

たとえばA(原告)→B(被告)に物権的請求権がされているときに

いやいや、AC間で売買があって今所有権持っているのはCだから!

という主張を抗弁として提出できるというわけです。これを所有権喪失の抗弁と言います。

占有権原の抗弁

続いて占有権原の抗弁を見てみます。

占有権原の抗弁は、

いやいや俺はちゃんとした権利に基づいて占有しているのであって妨害しているわけじゃないよ!

という抗弁です。

ちゃんとした権利に基づいて占有しているという主張になります。

たとえば賃貸借の賃借人として占有している場合には

①賃貸借契約の締結
②基づく引渡し

を主張することになります。つまり各契約に応じた主張をするわけです。

対抗要件の抗弁

対抗要件の抗弁は、物権法で詳しく勉強すると思いますので、ここでは簡単に述べます。

民法177条に基づく抗弁です。民法177条を見てみましょう。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

不動産の場合、登記がなければ第三者に不動産の取得等を対抗できないというわけです。

となると、相手方は

登記を備えるまで、あんた(原告)に所有権があることを認めないよ

という主張ができます。これが対抗要件の抗弁です。

二重譲渡の場面でよく出てくる抗弁ですね。

二重譲渡の場面

ただし「第三者」(登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者)であることは相手方(被告)が基礎づける必要があるため、

もと占有者から被告の売買契約の締結等

も合わせて主張する必要があります。

①権利持っているんだけど(もと占有者・被告間の売買契約)②お前については登記を具備するまで所有権取得を認めない!(権利主張)

の2つの要件を主張するというわけです。

たとえば盗人のような場合はそもそも自身が「第三者」であることを基礎づけられないため、対抗要件の抗弁は主張することができません。

これに対する再抗弁としては登記の具備が考えられますが、

対抗要件の抗弁→対抗要件具備の再抗弁というのはいかにも茶番なのでほぼこのような再抗弁は出されない、このような再抗弁が出されるのであればそもそも対抗要件の抗弁は出さないと考えられます。

よってあまり気にする必要はありません。

対抗要件具備による所有権喪失の抗弁

対抗要件の抗弁をさらにレベルアップしたのが

対抗要件具備による所有権喪失の抗弁

です。

対抗要件は「登記具備するまで、所有権取得を認めないよ」という主張でした。

一方で対抗要件具備による所有権喪失の抗弁は

俺が先に登記を具備したから、お前は所有権取得を主張できない=所有権喪失」という主張です。これを出されたら基本的に原告はノックアウトです。

これも第三者であることを基礎づける必要があるので

①もと占有者・被告間の売買契約締結等
②登記具備

を主張することになります。

背信的悪意の再抗弁

さて物権法の復習になりますが、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁という民法177条の抗弁を覆す唯一の方法があります。

それは判例上「背信的悪意者」は第三者=登記の欠缺を主張する正当な利益を有するものにあたらない、とされていることによります。

つまり、対抗要件(登記)を相手方が備えていたとしても、原告は相手方が背信的悪意者であることを主張すれば、相手方は第三者には当たらないことになり、抗弁の効力を失わせることができるのです!!

このためには

①相手方が悪意
②相手方の背信性を基礎づける評価根拠事実

を主張することが必要になります。

え、なんで背信性の事実じゃなくて、「背信性を基礎づける評価根拠事実」っていう言い方なんですか?

法上向
法上向

いいところに気が付いたね!背信性は法的評価なんだよ。法的評価というのは裁判官が決めるものだろう。だから主張としては「背信性を基礎づける具体的事実」を主張するという言い方をするんだ。こうこうこういう事情があるのでこいつは背信性があります!っていう「こうこうこういう事情」の部分を主張するっていう意味だよ。

背信性はあくまで「法的評価」です。法的評価は裁判官が事実をもとに決めます。

つまり、原告の主張としては法的評価の支えになる「事実」を主張していくことになるのです。これを要件事実的には「背信性を基礎づける評価根拠事実」という言い方をします。

なお、相手方(被告)はこれに対し、「背信性を基礎づける評価障害事実(背信性はないですよっていう事実)」を主張していくことになるのです。

背信性という法的評価を争うので水掛け論の再抗弁→再々抗弁になるというわけですね。

まとめ

以上、不動産明渡請求について確認してきました。いかがだったでしょうか。

訴訟物は「所有権に基づく返還請求権としての不動産明渡請求権」です。

そして、請求原因・抗弁・再抗弁は、一般的な物権的請求権と同様になります。以下の図のような感じですね。

しっかりマスターしていきましょう。

読んでくださってありがとうございました。ではまた~。

参考文献

民事実務の基礎の教科書、参考書として有用なのは1つしかありません。

これを買わずして勉強できないといわれるほどの良書、大島先生の「民事裁判実務の基礎」です。

予備試験、ロースクール授業対策であれば「入門編」で十分でしょう。司法修習生になると「上級編」や「続編」が必要になるらしいです。

まだ何も参考書がないという方はぜひ読んでみてください!

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